若くして事業に成功して豊かな青年がいた。青年は久しぶりの休日に家でゆっくりとすごしていた。
ピンポーンとインターホンが鳴った。誰だろうかと青年は思った。
「どちらさまでしょうか」
インターホンの映像には中年の男が映っていた。元気よく中年の男は答える。
「私は全人生活向上社のものです。今回は耳寄りな話を持ってまいりました」
青年は胡散臭い話だと思ったが、暇なので入れた。そして質問する。
「いったい何を僕に売ろうとしてるんですか。ありきたりなものだったら勘弁しませんよ」
「ありきたりなものではありませんよ」
「じゃあなんなんですか」
「絵ですよ」
青年はがっかりした。なぜなら青年は絵になど興味はなかったからだ。
「帰ってください」
青年はセールスマンを帰そうとした。が、そこで帰っては生活が成り立たない。セールスマンは
「ちょっと待ってください。早合点されては困ります。これは普通の絵画売買ではありません」
と言って青年の興味を再び取り戻そうとした。
「するとどういうわけですか」
セールスマンは満面の笑みで答え始めた。
「つまりですね。あなたに買ってもらった絵を当社の紹介でレンタルさせてもらうのです。世の中には絵を買う余裕のない人もいるのですよ。一月で購入代金の一%が受け取れます。貸したくなければそれでも結構です」
「ふーん」
青年は頭の中で計算を始めた。百月で元が取れるのか。もし貸せなくても資産になる。
「どうでしょうか」
セールスマンが青年の様子を伺う。
「いいよ。いくらぐらいするんだ」
セールスマンの顔に明らかに笑みが浮かんだ。
「そうですね。いろいろありますが、最初はこれぐらいがいいでしょう」
と言ってセールスマンが電卓に表示した金額は普通の会社員の月給ほどだった。青年にとってはたいした額ではない。
「それにしよう。絵はいつ届くんだ」
「実はもう車の中にあります」
セールスマンは車の中から絵を取ってきた。青年は絵が全く分からなかったが高そうだという印象を持った。契約を結ぶ。
「ではレンタルが決まったら連絡させていただきます」
セールスマンはお辞儀して帰っていった。
実はこれは詐欺だった。セールスマンはこの絵を新人画家からスズメの涙で買い取ったのだ。新人画家は売るとき泣いていた。
「僕の絵はもっと価値があるはずなんだ‥‥」
と。
セールスマンは帰りの車中でほくそ笑んだ。
「あの馬鹿め。これで俺はぼろもうけだ」
何ヶ月たってもレンタルの連絡が来なかったので新手の詐欺だったということに青年はやっと気づいた。絵は破り捨てたかったが骨董品屋に一応持っていった。
骨董品屋が提示した額は青年がセールスマンから買った額の百分の一だった。ちなみにこの額はセールスマンが新人画家から買い取った額だったがこの二人はそんなことは当然知らない。
青年は何とか吊り上げようとする。必死でやったかいがあったのか買い取り額は二倍になった。青年はしぶしぶ諦めてその額で売った。
青年は帰り際思わずつぶやいた。
「くそ。大損だ」
青年が去った後骨董品屋はつぶやいた。
「大もうけだ。あの絵はすばらしい。買い取り額の五十倍でも売れるだろう」
やがてその絵が売れるときが来た。金持ちそうな男性がその絵を買ったのだ。男が売った額の五十倍で買った。奇しくもそれは青年が買った額と同じだった。
実は金持ちの男性は絵の巨匠だった。やがてその絵は巨匠が買った額の二十倍で売れた。
その絵の本当の価値がいくらなのか作者にはさっぱり分からないがとりあえず巨匠がつけた額で落ち着いているらしい。