豪華な部屋の中にいる一人の男がつぶやいた。
『ああいい時代になったもんだな。欲しいものはほとんど手に入る。
これも全部複製器のおかげだ。』
その男の言っている複製器とは鏡の形をしているものでそれに物を
映しリモコンを押せば、コピーされて出てくるというものだ。
これによって社会は一変した。貴金属の価値は暴落し、品物の売れる
こともなくなった。問題は開発と研究を誰がするかだが、いつの
世にも変人はいる。三度の飯より研究が好きという連中が集まって
次々と商品を発明しているのだ。複製器が壊れた場合には、
ブザーを押す。するとロボットが来て修理をしてくれるのだ。
最初の頃には映す物が何もない、という者もいたが政府が
品物が貸し出したことによってあっという間に解決された。
何しろ一つのものでもコピーし、コピーをコピーしといった感じで
爆発的に増えていくのだ。食糧問題も当然発生しない。また懸念
されていた人口爆発も起きずに平和な世の中が続いていた。働かずに
遊んでいればいいのだ。しかし男には子供の頃から果たされない
大きな欲望があった。それは自分を複製することそれは政府によって
禁じられていた。男の生まれる前に装置は発明されたので男は
両親からそれだけは絶対にするなといわれ続けてきた。
そういわれるとやりたくなるのが人間の性である。男は考える幸い両親は
もう死んだので迷惑をかけることもないだろう…。そこではっと気づく。
『いかん。いかん。こんなことを考えていては、酒でも飲んで気を紛らわそう。』
それがいけなかった。気が大きくなった男は、どうせ大丈夫だと思い、
自分の複製を殺すための光線銃を持ち、リモコンを押した。その瞬間複製器から
出てきた光線によって男は焼き殺された。
数十分後黒い制服姿の男たちが入ってきた。そしてリーダーらしい人物が
指令を出し始めた。
『お前は死体を片付けろ。お前は知人の記憶を消せ。
お前は公文書類の記録を書き換えろ。』
『分かりました。しかしこのシステムはいいものですね。』
『そうだ。危険な人物を排除できるし、人口も抑制できる。
まさに一石二鳥というやつだ。』