Neetel Inside 文芸新都
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ショートショート集
愛護団体

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 大手製薬会社の自社ビルに青年が訪ねてきて、
受付嬢にこう聞いた。
「あの。すいません。社長さんにお会いしたいんですが」
「どのようなご用件でしょうか」
「私はある団体の会長をしているものですが、
あなた方がしている残虐行為に対して抗議を
しに来たのです」
「残虐行為とはどういったことでしょうか」
それを聞いた青年は信じられぬといった表情で
受付嬢に聞き返した。
「あなた方の会社は殺虫剤を作っているでしょう」
「ええそうですが」
「それによって何万何十万匹という昆虫が
死んでいるのです。私はそれを抗議にしました」
それを聞いた受付嬢はこの人は頭が
おかしいんじゃないかと思ったが、
職業上そんなことはいえない。
「社長は忙しいのでお相手することは
できません。申し訳ございません」
と差し障りのない返事をして、切り抜けようとした。
しかし男は一歩も引かずに書類を取り出し、
それを受付嬢に見せてこういった。
「これを見てもまだそんなことがいえますか」
それは殺虫剤利用に反対する署名だった。それも
数千人分ぐらいはあるだろうか。驚いた受付嬢は
重役に取り次いだ。といっても重役にも
こんなことは始めて。というわけで社長と
青年は会談をすることになった。
青年は書類を社長に見せて問い詰めた。
「あなたには慈愛の心はないのか。
殺虫剤で昆虫を殺して罪悪の気持ちは芽生えないのか。」
「いやそう言ってもですな。人間に対して害を
及ぼしているわけで…」
「どのようなことでですか。」
「例えば蚊は病気を媒介していますよ」
「最近そんな話はめったに聞きませんが」
「それはわが社の製品や同業者の製品が頑張っている
からです」
「では害を及ぼしていれば殺してもいいと」
「ええ。そういうわけです」
「なんという人だ。もう話すことはない」
そう言って青年は帰っていった。社長は世の中には
ああいう奴もいるんだなと思った。
しかしこれで話は終わらなかった。
翌日出社した社長は驚いた。なんと様々な殺虫剤批判の
プラカードを持ったホームレスのような連中が
本社の周りにいるではないか。社長の姿を見たホームレス
たちは非難の言葉を浴びせ掛けて来た。社長はほうほうの体で
逃げ出し、何とか会社の中に入った。社長にはやっと
分かりかけて来た。あの署名はホームレスたちに小銭を
やって書かせたのだな。さっきの連中はいくらかの金を
払われて雇われたんだろう。目的は分かっている。
金を出させる気なんだろう 。あの青年が会長の団体に。
案の定その青年は団体への寄付を要求した。しかし社長は
拒否した。すると週刊誌に会社内のスキャンダルが出始めた。
さらに署名の量はどんどん増えていく。また大物政治家が
向こうのほうに着いたようだ。マスコミは我々を叩く。
また業界全体に対する批判も始まった。どんどんどんどん
社にとって状況は不利になっていった。結局寄付をすることに
なってしまった。このままやられ続けるよりも
さっさと終わらせたほうがいいという判断からだ。
豪邸が建てられるほどの額だ。その額の
小切手を貰って出て行く青年を見て社長は思った。
おそらくあの青年はこれからずっと英雄として
描かれるんだな。私は悪者だ。

       

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