Neetel Inside 文芸新都
表紙

テシト

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 人は、唐突に良き続ける。死を選ぶか、生を選ぶか。
 人は、唐突に進み続ける。前へ行くか、後ろへ下がるか。

――風はいつか衰え、空気になる。空気は風を生み出し、また走らせる。前へ。前へ。

――光はいつか衰え、闇になる。闇は光を生み出し、また進ませる。輝き、照らし。

 ―blue boys―

「あるべき生物とは何か」

 その問いは、万人を唸らせ、考えさせる。
 生物。生きる物。その答えは万人が考え出す者しか、答えと言えるものはない。

――否。答えは作り出される。遥か先人の産んだ知恵の継承によって。
 
 作られた答えは、本当の答えであるが知らぬ上、曖昧になって継承されてゆく。
 継承は、時とともに捻れ、変わってゆく。
「人のあるべき姿とは何か」

 その答えは、依然見つからない。

 ―red girls―

「時が進むと共に、生物は生まれ変わる。その変わる瞬間は、誰にも分からない」
 
 サルが人間に進化したと言われている。その答えは、どこから導き出されたのだろうか。
 人間が、サルになる。その例えはどこから出てきたのだろうか。

 ただ、言える事は。

 今の自分が、サルではない、ヒトである。

――その、少ない答えだけで今を生きている。

「悩む事をやめれば、ヒトはヒトでなくなるでしょう。私が言えるのはそれだけ……。 たったそれだけ」

 そして、席を立ち、また一人、出ていった。

…………………………………………

 日差しを頭上に、砂漠を歩く。砂が足を取り、重心を崩す。
 それでもなお、持ち直しまた歩き出す。
 前へ、前へ。

 倒れたら、そこで終りな訳ではない。また立ち上がり、進む。
 それしかできる事はない。過酷な、苦行とも言えるようなこの世界では。
「…………」
 一人であるがゆえ、話すことも何もない。ただ、しゃべらなければ言葉を忘れてしまうかもしれない。
 独り言とは、自分を保つため。先人が産み、築き上げた言葉を忘れないがため。
 そして、ヒトと話すため。聞くため。

 彼の住む場所は街から約1日ほど歩いた場所にある。
 
 彼の住む環境は苛酷な物といえる。昼間は太陽が照らし大地が焼け、熱い思いをする。
 日が沈めば太陽で大地が焼ける事は無くなるが、変わり、今度は逆に寒くなる。
 
 大地が枯れ、木が枯れ、草が枯れ、そして砂漠は編成される。
 砂漠は人為的なものも含めると、更に広く、大きく広がっていく。

 砂漠は、ヒトが作り出したものが一番ひどく、広がっていく。
 それなのに神は、オアシスという物を作り出し、残していく。

 ヒトが悪いと気が付くまでの。猶予を与えているのだろうか。

――そしてヒトは、愚かにも神が残した唯一のものでも、打ち壊していく。それが、ヒトというものであるから。

 神は、存在しないものだと理解している。そのはずなのにまた、ヒトは神を信奉する。

――神は存在しない。 ならば、この地球を作り出し、世界を作り出したのは誰か。

 その答えは、今だ見つからない。神という概念以外の物、言葉が生まれるまでは。
 他人が、くだらないと考える事を彼は考える。
 そしてそれは、結局独りよがりの答えだと分かり、誰にも話さず、伝えない。

――帰ってくる返事は、自分にとって望まないことだろう。そう分かっているから。

 一本の煙草を取り出し、火をつける。
 前の旅人が置いていった、忘れ物なのか、彼にあげたものだろうか、そんなことすらも、彼は考えなかった。
 ただ、誰にも咎められないから、その煙草を吸う事にした。

 火をつけ、じりじりと灰になっていく。煙を肺にいれ、そして吹き、出す。
 住む場所に戻ってからは、何もする事はない。湖のような池のような、そのほとりで、彼は座る。
 誰かが来る事を期待しているわけではない。彼はそこが、単純に好きだから、座っている。

――神と言う概念がそうさせたなら、彼は受け入れなければならない。運命と言うものに。

 数日後。彼は子供を養うことになった。

     

 唐突に起こる事象は、万人には想定できないような事もある。
 
 ――想定。予想、先を読む事には必ず限界がやってくる。

 人が考えられることは、その人の種類、考え方、性格によって違う。それは人それぞれ、と言える事である。
 自分が今まで生きてきた環境。周りの環境。友好関係等で、著しく考え方は変わる。
 人はそれぞれの思いを胸に、生きている。
 
――風は生まれ変わる。速度を変え、形を変えて。

――光は生まれ変わる。その輝きを増し、色を変えて。

 blue boys

「自分の思いを、考えを、意思を継承する人間が居ない場合、どうすればいいのだろうか」
 人は孤独に生きている。そういうヒトもいる。周りの環境に慣れず、自分から逃げ出し、他のヒトが作り出した環境を拒絶しながら生きて行くヒト。
 孤独に生きる人間も、言葉を使う会話によって、環境になじめるようになる時もある。
 それをしても、歯車が噛み合わない様に、交換されたヒトもいる。
「それは、ヒトが自分から道を歩もうと思わない限りは、諦めざるを得ないと思う」
 自分から歩みを止めた人間は、そのまま成長を――
 ――人間として完成したという答えを、自分の胸で作り出し、我侭、自己中心的に生き続ける。
 ヒトはヒトとして、周りとの接触、交流を避けては通れないというのに。
「ヒトは、話す。会話する事で伝えることができる。手当たり次第に話してみても」
 
――その相手が居ない場合、取れる手段は、果たしてあるのだろうか?

 red girls
「望まれぬ子を作る。その考え方が私には分からない」
 親が、子に、継承する物を与える事を考えずに身篭り、自分勝手、奔放に育てられたヒトは、親から受け継ぐモノもなしに生きるしかできない。
 それは、親からの試練なのか。それとも気まぐれなのか。 
 親から受け継がなければならない思いと行動は子が自分で選ぶしかできないというのに。
 子が、自分から思いを作り出すのは、極端に言えば難しい事なのに。 

――その子の歩む人生は、誰にも分からない。わかるのは、恐らくその子だけであろうに。

「本当に望まれる子とは、一体なんなんでしょう」
 親が思いを注ぎ、子が受ける。その思いは、そのうち子の人生に影響を受けるものもある。
 人生。それだけではない。 子の思考、考え方に大きく左右されることにもなる。

 親が継承させたい思いを、仮に言葉にできなくても行動であらわす事ができる。
 そして、その思いを受け継がせることができる。その状態で生まれた子が、本当に望まれた子なのかもしれない。

「親が子を容器としてしかみないのならば、その子は幸せになれるのでしょうか?」
 
 ――それは、誰にも分からない。分かるのは、育ち、自分の心を確立させることができた子だけなのかもしれない。

 幸せとは、一体何なのだろうか。それは恐らく人によって違うものである、と言う事だけは言える。
 幸せの形とは、一体何なのだろうか? そもそも、無形であるものに形を求めるのが野暮な事なのか。
 その答えは、誰にも分からない。

――風が、光と混じり、光は風の形に変わり、駆け抜けてゆく。 まだ見えない先へ、同じ終着点へ向かって。

 …………………。

 ある日、どこかで見たことがある男性が、彼のいるオアシスにたどり着いた。男性は子供を連れていた。
 直接照りつける太陽の光を遮る為のマントを、二人とも頭から被っている。ぼんやりと入る光から見える表情は、無機質なものを彷彿とさせた。
「お久しぶりです」
 あの時はあまり気にも止めていなかった男性の姿だが、声を聞けば彼は大体の記憶は思い出せた。
 ぼんやりとした記憶しかなかったが、声を聞けばおおまかな姿が把握できた。
 街で"空"の話をした、あの人だと。
 彼は、軽く手を上げて返事を返す。人と話すことはあまり慣れていないからだ。

「あなたは、いつかの……街で空の話をした?」
 そう彼が言葉を探し、返事を返すと男性は自分の頭の覆いを後ろに回し、顔を出す。
 初老。老年期に入った。そんな感じがした。短髪の白髪交じりの髪に、同じく白髪が混じった髭を生やしていた。
「覚えていてくれましたか。いや、あの時は……今回もですが、唐突に失礼しました」
 覚えているというよりも、彼には人との交流は少なかった。一度話した人間であれば、それなりに思い出せてしまうほどに。
 人との交流が少ない、というよりも。

――自分から人との交流を削っている。そんな感覚なのだろう。

「ほぼ初対面と変わりのない私ですが、どうかお願いを聞いていただきたい」  
 男性は彼の目を見て、そう言った。人との交流がない彼でも、目を見て話すという事は真面目な事なのだという認識があった。
 しかし、人との話をあまりしたことがない彼にとっては、男性の視線はひどく痛く突き刺さるようだった。
「……お願いとは何でしょうか? まず話を聞かせて頂かなければ、返答のしようがないのですが」
 彼は、自分の考えうる最大限の返答をした。
 そして返答をしてすぐに、はっとした。押し切られたと思ったのだ。
 聞くと言ってしまったからには、聞かなければならない。そして、頼まれるのだろう。
 頼まれたら、聞いてしまった以上受けなければならない。
「この子を、頼みます」

 男性は、子供の頭に手を置いた。マントで影になっているが、子供はそれに関して表情を変えることはなかった。
「その子は一体?」
 子供の頭に手を置いたまま、男性は話を続ける。
「この子の名前は、テシトと言います。私の孫娘です」
 

       

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