Neetel Inside 文芸新都
表紙

CROW
第1羽「混ざる」

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カラスは今日も空を往く。
ボクは今日も地べたを這いずる。
14才、中学2年生のカンナミ クロウの特技は、朱に交わって埋もれることだ。

平凡な成績、平凡なルックス、平凡な人生ライフ。

唯一、世間からはずれていた趣味は、生活指導に言われただけで諦めた。
今日帰ったら、僕は人生から542枚の王冠を捨てなければならない。
大してこだわっていたコレクションではないけれど、こうした「約束」が積み重なってボクを押しつぶす。
そんな常識とルールに埋められていく予感が、ボクを横道に運んだ。

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「不公平だろ、ソレ」
公園。というより遊歩道。
寂れたベンチに座ってハンバーガーを食べる。
やけ食いだ。といっても、4個分くらいかな。
スナオに家路につかなかったボクの目の前にまいおりたソイツに、正確に言えばソイツのくわえていたものに
ボクは思わず愚痴をこぼした。

『クルゥォー! 』
いや、たしかに英語でカラスはクロウだけど。
ムサシノオオグロガラス。
カラスの中では大ぶりで、特徴はくちばしが丸いこと。
その丸いくちばしの先に奴は半かけのハンバーガーをくわえていた。
半分のハンバーガーだから、半バーガー……? うわ、ツマンネー
どうせゴミを漁ってきたんだろうけど、こっちは有料、あっちは無料。
いくら格差社会といっても、カラスにまで格差をつけられるのはムカツクネ。
しかも自慢げにボクの目の前で食べてるし、まったく。
「苦労もなく、自由すぎるよお前ら。
いや、確かにカラスは英語でクロウだけど。」

ツマンネー

ツマンネーよ、ボクの人生。


『なら俺達みたいになるか? 』
いきなりカラスがしゃべりだす。
『大空を黒に染めてみないか?』
しかも流暢な日本語で。
『さぁ、今からお前は俺達の仲間だ!
背中を見ろ、翼が生えているぞ! 』

  ド ン !

……妄想終了。そんなこと、あるはずないっての。
現実という壁は大きく、固く、暑苦しい。
一人の人間がどう願っても、こっちの世界に起きる変化なんて些細なものだ。
周りを見渡したって、空が少し夕方に傾いただけで、ほかに変化があるとすれば
大量のカラスが宙に円を描いてることくらいだ。

――立ち上がっていた。
気づくとボクはベンチから離れ、そのカラス達が囲む中心に突き進んでいた。
あんな大群はちょっと珍しいから?違う、理由は別の何かだ。

カラスが円を描く時。それは死体をつつく時?
ボクは走り出している。それは死体を守るため?
ちがう。ボクはこの社会が嫌いだ。
特技は混ざることだけど、それは破滅へ向かう道。
埋もれることは社会の歯車になるということで。
同じことを、同じ場所で、一生グルグル回転だ。

一体何を動かしている?一体何に動かされている?
そんなことも知らずに人生を費やすのは苦しい。
人生に説明書があるなら、どこかに「まぜるなキケン! 」、そう書いてあるに違いない。
それだけ社会は恐ろしい。他人は社会の構成員だ。

カラスが円を描く時、それは巣から落ちた子供を心配している時だ!
ボクは他人を助けようとしているんじゃない。
ボクは社会に混ざりたいんじゃない。
カラスの雛が落ちたのは、横断歩道のど真ん中。
ボクが混ざりたいものは■■■
赤信号のど真ん中
混ざりたいものは■■■
雛は助けを求めている。

カラス!

ワゴンが走る。トラックが行く。オープンカーが蛇行する。
轢くなら轢け。まぜろ!ボクをまぜろ!

その時のボクは興奮していた。
自分の人生が本当にツマラナイ、そう知って興奮していた。
例えば勝ち目のない4人ゲームで逆切れしたときのように、ボクはルールの中の奴らをあざけり笑い、自分を投げた。


「いってぇー……」
渡りきってしまった。
右腕がイタイ。自分で勝手に転んだから、倍増しで痺れる。
ボクの人生は終わらなかった。
カラスの雛を助けようとした勇敢? ……いや、バカな中学生として、新聞に取り沙汰されるENDは失くなった。
救出作戦は成功したけれど、雛はすぐ何処かに消えてしまったし。
あんなに居たカラスの群れも、嘘のように居なくなった。

夜だ。
奴ら巣に帰ったのかな?
ボクも帰るのだろうか?
イタイ。
「くそっ」
右腕が、イタイ。

--------------
――2時間が過ぎた。
帰宅が遅いと怒られて、2chをやって、マンガを読んだ。
そしてボクがやっとそのことを思い出した時には、時計は夜10時を回っていた。
数学の宿題。
今日は結構量があるんだ。
しぶしぶ学生カバンに手を伸ばし

熱く。軋むように、右腕が悲鳴をあげた。
そう言えば着替えていない。ケガの確認なんて、していなかった。
さっきはすぐに治まったから。
「なんだよ、一体どうなって……」
脱ぐ。痛いんだ。破ったっていい。
そのぐらい強引に引っぱり出して、僕が目にした右腕は悲惨だった。

黒に羽。まざった。翼 of カラス。
腕を振ってみたけれど、取れる気配はない。

  "生えて"いた。

暖かく、鼓動をたたえて、小さな黒い双翼はそこにあった。

「明日の3限、体育だぞ……? 」
冗談じゃない。新手の邪気眼?包帯グルグル巻き?
疼きやがる。ハハッ

面白いことになってきたじゃないか。

ボクはその晩、久しぶりに大声で笑い、近所迷惑だとまた母に叱られた。









       

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