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自分流自己満足短編集
シナリオ4『私達の歩み』

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私達の歩み 


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 それでは今日は我が惑星の歩みについて学んでいきましょう。皆さん、昨日出した課題はやってきましたか? よろしい。では授業を始めましょう。

 我々の惑星は2400年前に異星人と接触しました。はい、佐藤くん、この時に接触した異星人の名前と特徴は? ……そうですね、フェルミ星人です。私達の惑星から200万光年離れた別の惑星を拠点として、当時はその周囲に幾つもの居住コロニーを展開していました。フェルミ星人最大の特徴としては肉体を捨てて精神のみを機械に宿らせていることが挙げられますね。彼らは病や怪我とは無縁です。老衰で死に至ることもないでしょう。

 しかし、彼らはある問題を抱えていました。又、その問題は我々と 接触した理由にもなりますね。ではそれは一体何でしょうか。吉田さん。……はい、その通りです。よく予習出来ていますね。その問題とは彼ら自身から排出される老廃物です。彼らは自身の手によってはそれをどうすることも出来ずにいて、年々溜まっていく一方でした。処理行為自体は行っていたのですが我々に比べるととても効率が悪い……。おっと、先走ってしまいましたね。すみません、話を戻しましょう。

 彼らは我々の生身だった肉体に着目したのです。どんな偶然か奇跡か彼らの老廃物は我々の肉体にとても適応力のあるものだったのです。言わば万能の細胞です。フェルミ星人はこの特性を知り、我々にそれを提供するために遥々来たのですね。当時の我々は二つ返事でこれ を承諾しました。この年から我々の惑星の医療技術は発展の一途を辿ることになります。

 最初期ではまず身体の末端部を入れ替えるなどと言った器具、言わば義手や義足ですね。これまでの重苦しいものではなく、とても自然で人工物だと思えないような物が老若男女、貧民や富民問わずに誰でも利用できる様になったのです。これに関して言えば技術もへったくれもあったものではなくて、フェルミ星人の老廃物を水でふやけさせた物を棒状に練って患部につけるだけです。優れものですね。
 
 各国の無駄ないざこざを避けるべくフェルミ星人はそれを平等に分け与えました。特筆すべき事はその量です。世界中の者達が毎日1個使ったとしても100年は無くならないだろうと言われていました。それが100年毎に送られてくるのですよ。気が遠くなるような量ですよね。

 簡易義手の次に我々は移植用の臓器を生成する技術を身に付けました。拒絶反応もない完全な臓器です。次に脳以外を身体の部位を全て取り替えることを可能としました。これは我々は勿論のこと、フェルミ星人も老廃物の活用技術の研究に大いに貢献した為です。俗説ですがフェルミ星人たちは負い目を感じていただとか、罪滅ぼしだったとか言われていますね。自分達の老廃物を消費させることの。

 さて、ここからが我々の転機です。フェルミ星人の老廃物からはどうしても脳を作ることが出来ませんでした。故に我々は不老ではあるが不死ではないといった、中途半端な生物になってしまったのです。そこで我々はフェルミ星人に求めました。貴方達と同等の機械の身体が欲しいと。これには勿論フェルミ星人は拒否しました。それもそうですね。我々が肉体を捨てたら一体フェルミ星人の老廃物は誰が処理することになるのでしょう。フェルミ星人たちは我々の要求を頑なに拒み続けました。しかし我々は折れなかったのです。不老不死は我々全員の夢だったからです。今までの関係が崩れることになろうとも、それをみすみす見逃すことはできませんでした。未知のテクノロジーを有する彼ら相手によくもまあこうも強気でいられましたよね、本当に。

 はい、西田さん。我々がフェルミ星人に宣戦布告を行ったのは?……はい、そうですね、よく出来ました。こういった年号はテストに出やすいので要チェックです。マーカーを引いておくと良いでしょう。はい、では続けます。我々は死力の限りを尽くしました。まずこの惑星に住む全てのフェルミ星人を捕虜にしました。大体人質みたいなものですけれどね。この辺りは先生もあまり詳しくないのですが、捕虜からスパイを育成してフェルミ星人の母星を特定して攻め込んだみたいですね。どうやらこの星の周囲には攻めこんでくるような生命体は存在していないみたいでそもそもの危機管理能力が足りてなかったのでしょう。かつ、フェルミ星人の特性上、内側で起こる争いも殆どなかった為、あちらの軍隊というものはほとんど武力として機能していなかったそうです。

 ということで、我々はフェルミ星を見事攻略し、機械の身体と電脳化のテクノロジーを手にしたのです。これが今私達の機械の身体のルーツです。さて小林くん、そこで機械の身体を手に入れた我々に大きな問題がありましたね。それは何だったでしょうか。……小林くん、貴方、寝ていましたね。駄目ですよ、起きてください。授業はちゃんと聴いてください。では杉浦さん。……はい、そうですね。老廃物の問題です。こればっかりはどうにもなりませんでした。我々はフェルミ星人が頭を悩ませていたのと同様に悩みました。長年利用してきた老廃物のノウハウと、新たに手に入れたフェルミ星人のテクノロジーでどうにか出来ないかと考えました。

 さあ、木島くん。我々は一体どう乗り越えたのか。……はい、その通り。そこで我々は、かつての我々の様な肉体を持つ生物を作ったのです。不可能と言われていた脳の複製を電脳の技術を用いてそれを可能としたのです。そして我々はこの生物に我々の存在を露見することを恐れました。理由としては、我々が作った生物が機械の身体のメリットを知り、我々が行ってきたことを行われるかもしれないと恐れたからですね。そこでこの生物用の惑星の大気に老廃物を混ぜたのです。そしてこの生物を呼吸による老廃物の経口摂取を行わければ生きていけない様にデザインを行いました。老廃物の供給方法としては、彼らの惑星に衛生を飛ばし、絶えず大気に老廃物のブレンドを行っています。これにより私達は今日も安心して日々を過ごすことができるのです。

 この生物の特徴としては、そうですね。彼らは肉体があった頃の私達とは違い、長い耳も、角も尻尾もありません。目は左右に2つだけですし、腕だって2本だけです。しかしこの生物は私達に比べて数百万倍以上大きな身体を持っています。では鈴木さん、この生物の総称はなんでしょう。……そうですね。人間です。


オワリ


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