美少女70万人vsタクヤ
第二十一話@選択の代償(プライス)
第二十一話「プライス」
「…………」
タクヤは屋上か地下へ行く道を決めかねていた。
「どうしますか?」
綾女が暗闇の中から不安そうに聞いてくる。
「どっちにしても早く出ましょうよ!」
「……う~ん……二手に分かれるっていうのはどうだ?」
一瞬の間に静寂が訪れる。
「どういうこと?」
「綾女さん、ライトは他にもあるかい」
「え、ええ」
綾女は他の柱の影からライトを一つ持ってくる。
「僕は一人で少しこの中を見てからいくよ。親父の言っていたことも気になるしね」
「やだやだ、それじゃ三人で行けっていうの?」
焦ったように鈴音は言うが、タクヤは特にこの屋敷が危険なようには思えなかった。
「ああ、もし鈴音との距離が開きすぎて能力が届かなくなったら切ってくれていい。
僕は一人で原因を調べてから行く」
「私も行くわよ」
「いや、鈴音はみんなの為にも二人と行ってくれ。このまま帰っても綾女さんの問題を考えると、
やっぱり僕が一人で行った方がいいんだ」
タクヤに自信はなかったが、綾女をどうにかして家に帰れるようにしてあげたかった。
「それなら私の問題でもあります」
タクヤは首を振る。
「それじゃ、二人が出られない」
三人はしぶしぶと地下へ続く道へ入っていくのを見送った後、タクヤは薄ら寒いエントランスへと戻った。
「まずは誰か人を見つけないとな」
防災装置は未だ解除されず、暗闇を歩く。
音は自分の衣擦れか、足音くらいしかなかった。
「部屋を片っ端から開けていくか」
二階へ上がると、廊下に人影が見えたような気がした。
建物に染みこんだ独特の臭いが、タクヤの鼻をつく。
「誰かいませんかあ!」
その声は全く響かない。
良くも悪くも部屋の周りは防音の措置がされているのだろう。
「…………」
タクヤは屋上か地下へ行く道を決めかねていた。
「どうしますか?」
綾女が暗闇の中から不安そうに聞いてくる。
「どっちにしても早く出ましょうよ!」
「……う~ん……二手に分かれるっていうのはどうだ?」
一瞬の間に静寂が訪れる。
「どういうこと?」
「綾女さん、ライトは他にもあるかい」
「え、ええ」
綾女は他の柱の影からライトを一つ持ってくる。
「僕は一人で少しこの中を見てからいくよ。親父の言っていたことも気になるしね」
「やだやだ、それじゃ三人で行けっていうの?」
焦ったように鈴音は言うが、タクヤは特にこの屋敷が危険なようには思えなかった。
「ああ、もし鈴音との距離が開きすぎて能力が届かなくなったら切ってくれていい。
僕は一人で原因を調べてから行く」
「私も行くわよ」
「いや、鈴音はみんなの為にも二人と行ってくれ。このまま帰っても綾女さんの問題を考えると、
やっぱり僕が一人で行った方がいいんだ」
タクヤに自信はなかったが、綾女をどうにかして家に帰れるようにしてあげたかった。
「それなら私の問題でもあります」
タクヤは首を振る。
「それじゃ、二人が出られない」
三人はしぶしぶと地下へ続く道へ入っていくのを見送った後、タクヤは薄ら寒いエントランスへと戻った。
「まずは誰か人を見つけないとな」
防災装置は未だ解除されず、暗闇を歩く。
音は自分の衣擦れか、足音くらいしかなかった。
「部屋を片っ端から開けていくか」
二階へ上がると、廊下に人影が見えたような気がした。
建物に染みこんだ独特の臭いが、タクヤの鼻をつく。
「誰かいませんかあ!」
その声は全く響かない。
良くも悪くも部屋の周りは防音の措置がされているのだろう。
「くそ、これは迷子にならないように気を付けないと……」
そう思うも、振り返ると既に無限回廊のように果てしない廊下が続いていた。
手当たり次第に扉を開けてきたが、まだ六つか七つ目だ。
何かおかしくないか?
タクヤが来たときに見たこの屋敷の大きさは、
少なくともこんな先が見えないほどではないはずだった。
しかもどの部屋も同じようなインテリアに見える。
「…………」
タクヤは部屋にあった置物を配置換えし、それを記憶しておいた。
続けて次の部屋へ入る。
一つ……二つ……。似たような部屋が何度も続く。
三つ目の扉に手を掛けたとき、異変は起きた。
――ゴト。
「!」
タクヤは部屋の中で何かが動いたのを見た。
元に戻っている?
同じ部屋を続けて見ているという前提が違うのかも知れない。
タクヤは再び配置を組み替えた後、一度部屋を出て、もう一度同じ扉を開いた。
ゴトゴトゴトドドド……。
それは奇っ怪な現象だった。
あらゆる家具が元の位置へ戻ろうとするが、その動きは元の『完全な位置』を探すように微振動している。
「な、なにがどうなってるんだ」
蝋燭立ては回転し、ベッドはポルターガイスト現象のように飛び跳ねている。
しかし、その騒音まがいな現象は諦めたかのようにぴたりと鳴り止んだ。
――どさ。
部屋の中央で何かが落ちた音がした。
タクヤは恐る恐るそこにライトを向ける。
「――――」
どうやらまた女の子のようだ。
「ん――」
意識はあるのか、タクヤが駆け寄り起こすと、わずかに声を発した。
「おい、大丈夫か」
触れた体は汗でびっしょりだった。
女特有の臭いが、妙に気分をかき乱す。
「あ、やだ……逃げないと」
少女はタクヤの腕を振り解いて何処かへ行こうとする。
「待て、何処に行くんだ」
千鳥足のせいか、すぐに捉まる。
そこで少女は再び意識を失い、タクヤに身を委ねた。
「――ここは……?」
少女は気がつくとベッドから起き上がる。
一瞬目が悪くなったのかと思ったが、どうやら違うらしい。
真っ暗なのだ。
「気がついたか?」
暗闇から男の声がして、小さな明かりが灯る。
「あ、あの……」
自分の服が取り替えられていることに気がついた少女は赤面した。
「ごめん、勝手に替えさせてもらったよ」
タクヤはこの部屋にあったタンスの服を勝手に使ったが、
あんな服を着せたままにするよりはましだと思った。
部屋の隅にライトを向ける。
置かれた服は、黒い血の跡で濡れていた。
少女自身の外傷は何処にも見当たらないのだが……。
「こんなこと聞くのも気が引けるけど、あの血は一体なんだ?」
「――アレを知らないの?」
「……?」
その時、不意に部屋全体が揺れるような衝撃が響いた。
『ガガガ――麗未、そこを早く離れるんだ。
次元置換装置の干渉誤差(パラドックス)が酷い。もう次はないぞ』
突如外から響く轟音と、亜夕花の声がした。
「親父? 親父なのか!」
『その声はタクヤか? なるほどな、だが今は時間がない! 急いでそこから離れてくれ』
それだけを言い残して麗未という少女から聞こえていた声は消えた。
「ついてきてっ」
麗未は華奢な手でタクヤの手を捉えると走り出す。
一体どこにそんな力があるのか、タクヤは有無を言わさず部屋の外へ連れ出された。
「ら、ライトが!」
タクヤは思わずライトを落とした。
「想像創造(イマジンクリエイト)――」
が、麗未の手にライトが握られる。
「待て、何処に行くんだ」
千鳥足のせいか、すぐに捉まる。
そこで少女は再び意識を失い、タクヤに身を委ねた。
「――ここは……?」
少女は気がつくとベッドから起き上がる。
一瞬目が悪くなったのかと思ったが、どうやら違うらしい。
真っ暗なのだ。
「気がついたか?」
暗闇から男の声がして、小さな明かりが灯る。
「あ、あの……」
自分の服が取り替えられていることに気がついた少女は赤面した。
「ごめん、勝手に替えさせてもらったよ」
タクヤはこの部屋にあったタンスの服を勝手に使ったが、
あんな服を着せたままにするよりはましだと思った。
部屋の隅にライトを向ける。
置かれた服は、黒い血の跡で濡れていた。
少女自身の外傷は何処にも見当たらないのだが……。
「こんなこと聞くのも気が引けるけど、あの血は一体なんだ?」
「――アレを知らないの?」
「……?」
その時、不意に部屋全体が揺れるような衝撃が響いた。
『ガガガ――麗未、そこを早く離れるんだ。
次元置換装置の干渉誤差(パラドックス)が酷い。もう次はないぞ』
突如外から響く轟音と、亜夕花の声がした。
「親父? 親父なのか!」
『その声はタクヤか? なるほどな、だが今は時間がない! 急いでそこから離れてくれ』
それだけを言い残して麗未という少女から聞こえていた声は消えた。
「ついてきてっ」
麗未は華奢な手でタクヤの手を捉えると走り出す。
一体どこにそんな力があるのか、タクヤは有無を言わさず部屋の外へ連れ出された。
「ら、ライトが!」
タクヤは思わずライトを落とした。
「想像創造(イマジンクリエイト)――」
が、麗未の手にライトが握られる。
「え? ええ?」
ライトが二つになったのを確認する間もなく、一階のエントランスへと来た。
タクヤが入ったときと同じく、部屋の窓は防災装置によって閉ざされ、暗闇となっている。
がちゃがちゃ。
「え? 開かないの?」
「ああ、何か防災装置が誤作動してるみたいで」
再び大きな揺れが建物を揺らした。
「っゃ、そ、想像創造――えっとぉ……」
閉ざされた扉の前で麗未は何か考えているようだ。
「そうだ、ダイナマイト!」
「だいなまいと?」
麗未は何かを扉に仕掛けると、タクヤを引いて柱の影に引き寄せた。
「早く早く!」
――ヂュドォォォオン!
「え゛え゛ぇ゛?」
外に出られたのはいいが、一体僕は何をしに来たのだろうと思わざるを得ない。
ほどなくして、二人が外へ出るのと同時に、屋敷は倒壊していく。
大きな地響きを伴い、そこは完全に瓦礫の山と化した。
それが爆発の影響なのか、揺れの影響なのかはわからない。
「早くっ」
今度は腕を引く麗未の姿がはっきりと見えた。
「お、おう」
やばい、スカートが裏返しだ……。
タクヤは現実から目を背けるように辺りを見回しながら走っていく。
「なんだこれは!」
そこにはタクヤの知る御剣市はなかった。
あらゆる建物は倒壊し、煤を吐いている。
道路にはコンクリートの瓦礫やら、横倒しになった車が放置されていた。
あの数時間の間に一体なにがあったんだ?
「はぁはぁ……」
現実味が徐々に薄れていく。
おかしくなった御剣市はさらに滅茶苦茶になってしまった。
「鈴音、ナミ、綾女……」
彼女達は無事だろうか?
全ては後の祭りだった。