Neetel Inside 文芸新都
表紙

ケータイ×ライター
プロローグ「ケータイ×ライター」

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「ここ、よね? それとも、ここ? ねえ、もうこんなになって」
「……んっ、……しょうがない、でしょ」
「しょうがない? しょうがないって言うの? 何がしょうがないの? ねえ?」
「やめっ、そんなところ触っても、汚いだけ」
「汚くなんてないわよ、あなたは綺麗。身体の中に、燃え盛るような情念の炎を宿しているもの」

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 そこまで打って、僕は携帯のサブメニューから保存を選択した。
 布団の上へと無造作に放り投げ、そのまま僕もベッドへと倒れこんだ。

 今書いていたシーンは、若い女同士が絡み合って求め合う、端的に言うならばレズのシーンだった。
 一体僕は何をしているのだろうか。この場合の何というのは、携帯で百合小説を書いていること自体ではなく、なぜ、百合小説を書いているのかという自問自答である。
 
 はじめは軽い気持ちで始めた携帯小説。しかし読んでもらえる、感想をもらえるというのが、包み隠されていた自己顕示欲を刺激したらしい。
 毎回リクエストを受け付けては、その希望に沿った者をアップする。反応が良いときもあれば、イマイチのときもある。
 「こいつらはわかってない」と毒づきたくなるときもあるが、それと同時に思うのだ。
 僕は、一体何をやっているのだろう、って。携帯小説と言えども立派な文学、とは到底言い難い。
 ある種のテンプレートに沿って繰り広げられていく、予定調和の物語。名前を挿げ替え、関係などを挿げ替えて。
 起きる事件と言えばレイプ、ドラッグ、援助交際。次々代わり映えのしない物語が生み出されていく。

「もう、潮時なのかなぁ」

 男友達はおろか、女友達にだって、自分が携帯小説を書いているだなんてことは言えない。
 言えば男友達からは奇異の目で見られるだろうし、女友達からは、携帯を引き剥がされて見られるであろうことは間違いない。
 
「人に言えない趣味なんて、どうしようもないよなぁ」
 
 執筆しているのは、もっぱら風呂を上がってから寝るまでの間。
 逐一メールをするような相手もいない僕にとっては、携帯は小説書きツールでしかない。
 それも飽きてきたとすると、いよいよ携帯はお飾りに成り下がるだろう。

「んまっ、それでもいいか」

 引退するとサイトに書けば、本当にそれなりに反響は起きるだろう。
 それを最後の慰みにして、スッパリと携帯小説とは縁を切ろう。
 どうせ本業の作家になんて、なれやしないのだし。
 
 それよりも今は、春からの三年生と、大学受験について考えていかなくちゃいけない。
 小説を書くために充てる時間なんてないのだ。

「寝よ」

 明日も学校だ。もそもそ布団の中に潜りこんで、明日の授業はなんだっけなとぼーっと考えているうちに、いつのまにか睡魔に負けた。
 夢は、見なかった。



 こうして一人の携帯小説書きが、引退を決めた。
 しかし、ここではまた一人、携帯小説書きが生まれようとしていた。
 携帯の画面を穴が開くほどに睨みつけ、さあはじめの第一歩を踏み出すか。
 
「えーと……。まずは、そうだなぁ、やっぱり舞台は高校がいいな」

 頭にまず思い浮かべたのは自分の通う高校、教室そのものであった。
 そこに次々とキャラクターを並べていくのだが、自然とそれも現実に沿った者が出来上がっていく。
 ただ、一つだけ違うことがあった。

「主人公は、やっぱり私」

 主人公の性格は天真爛漫で、頭も良い。誰からも好かれているバスケ部の主将だ。
 想いを向けている相手はサッカー部の主将で、顔も成績も抜群。
 実は周りに打ち明けてはいないけど、密かに交換した携帯アドレスで、毎日お互いを励ましあっている。

 現実の少女というのは、人見知りが激しく運動オンチ。
 バスケ部の主将を務めるというよりか、園芸部で土を弄っているほうがよっぽど似合う典型的な文学少女だった。
 しかし地味な風貌、控えめな少女も年相応には女の子をしたかった。
 
 格好いい男の子とは付き合いたいし、卒業していった友人の女の子たちのように、処女だって捨ててみたい。
 かといって自分から男の子へ話しかけるだなんて夢のまた夢。
 溢れださんとするリビドーを、少女は携帯小説へとぶつけ、昇華させることにしたのだった。



 睡眠をたっぷり取った男と、寝不足のまま学校に出向く女。
 携帯小説を書くことをやめた者と、これから始める者。
 いまいち噛み合わない奇妙な話の、はじまり、はじまり。

       

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