Neetel Inside 文芸新都
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悲しい世界
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 自分が死ぬ事を考えた。大多数の人間は自分事を考え恐れる。自分という存在が消滅した後どこに逝くのか。経験した事のないいつか訪れる死は無限の恐怖を生み出す。でも僕は残された人の事が心配だ。残された人は僕の死を悲しむだろう。親しい者の死の悲しみは深く心に突き刺さる。それは母の葬式でわかった事だ。
 自身の死によって生み出される悲しみ。その悲しみを持った人間にも訪れる死とその後の周りの悲しみ。これは連鎖されていく。悲しみの連鎖を止めたかった。そう人とは違う感情を抱き、数年後、実行してしまった。僕自身に接点があった人間を1人殺める。その現場を目撃される。ゲーム開始"スタート"だ。目撃した者が恐怖から悲しみへと感情が変わる前に消さないといけない。
「見つけた」
 いつも親父に怒られた後、一人泣いている隠れ場所で華奢な身体を震わせていた。痛い思いをさせなように殺めた。最初の父親を殺めるより抵抗感は薄かった。これから成長して悲しみを知る前に死んで幸せだったかもしれない。これから自分と父親と妹に接点がある人達を悲しむ前に殺さないといけない。そしてその殺めてしまった人達をの死を悲しむ人達全員を……。
 ………
 ……
 …
 時間がどれほど経ったのか。わからない。でも、やっと誰も悲しまない世界になったのはわかる。
「やった・・・」
 達成感。
「あははは」
 誰も居ない。
「はは…」
 悲しみはなくなったが。
「…うぅ」
 それと共に抱く様々な感情も同時になくなっていた。それは悲しみよりも素晴らしいって言う事を。それは悲しみさえ忘れさせてくれるという事だと。気づくのが遅れてしまった。いや忘れていた。
「ああ・・・」
 自分の事を憎む人も赦す人間もいなくなり悲しむ人もいなくなった。悲しい世界はなくなったが、悲しいという感情も生み出せない世界は虚しい。そんな世界に1人だけ残った。僕だけが残った。
「しに…たい…」
 太陽と月の交差を何十回ずっと微動だにせず観測しても僕は死ねない。まるで自分が死んでいるのを忘れたように眠り続けているインカ帝国のミイラの少女のようだ。僕の心はとっくに死んでいる。なのに身体は死なせてくれない。
 死は他人に観測されて初めて死と言えるのだ。観測する人間が居ない場合、人は死ねないのか。それとも世界の法則が崩壊してしまい死という概念が失ったか。これが感情から逃げていた僕への罰かもしれない…。
 
END

       

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