焦燥感のような不安に襲われていた中学生の頃。
今、あの時のことを思い出せば、背筋がすーっと冷たくなり
ぞくぞくと身震いが止まらなくなるのであるが
しかし、例え今まさに同じことが起こったって、あの時ほどの恐怖にはならないと思う
妙に暑かったあの日、漠然とした不安は本物の恐怖を呼び込んだ
「あーあー、まじうぜぇ・・・」
学校帰り、一人愚痴りながら帰路についた
人が自分を避けるように歩く。
当然だ。明らかに機嫌が悪いであろう人間に好んで近づくものなどいやしない
彼は怒っていた。
自分だけが吊るし上げられて怒られる
同じ事をしている仲間は叱られずにいるのに、だ。
もう何度目か知らない
そこに不公平と不信を感じ
今日は仲間と離れて一人帰ることにしたのだ
学校はあまり好きではない。
シャツを出した程度で怒られる
ワックスを付けてはいけない
そこには「自由」がないのだ
それに人間関係だって煩わしいものがある
とにかく、学校は好きではない。
「高校行ったらなんか変わるかねぇ・・・」
夕焼けで染まる空を見ながら呟いても
そんなことは遠い未来のような気がして
全く現実味を帯びてはいなかった。
はぁ、と一息ついて歩き出せば
さっきまで全身から発していた
不機嫌の塊のようなものが少しは和らいでいた。
とぼとぼと一人歩く道は少し不気味である。
仲間がいないと誰かとすれちがうたびに
相手の顔色が気になってしまうのだ
さっきまでは気にも留めないことだったが
今はやけにそれが気になった。
何故か急に、漠然とした不満と不安が自分の中に渦巻いてきて
足取りは急に速くなりはじめた。
もうすぐ商店街を抜ける、抜ければすぐに自分の家が見えてくる。
もう少し、もう少し。
しまいには、彼は駆け出していた。
「あの、サイフを落としましたよ!」
後ろから少し大きな声で呼びかけられて、声の向かって振り向けば
真面目そうな高校生が立っていた。
制服でわかる、地元で一番の進学校だ。
彼の手には自分の財布がある
バッグから跳ねたんだろう
このまま失くしていたら大変だった。
「はい、どうぞ」
彼はにこやかに近づいてくると
僕の手に財布を持たせた。
感謝の気持ちと、何故か渦巻く不安と動悸が入り混じって
感謝の言葉が中々出てこない。
「あー・・・。ありがとう」
ようやく、舌がもつれながらもそういって、彼から奪い取るように受け取ると
彼は人のよさそうな笑みを浮かべて微笑んでいた。
今も覚えている、気持ちが悪い、張り付いたような笑顔だった。
収奪物
不安
「何か食べなよ」
財布を拾ってくれた高校生の男に誘われるがまま
何故か俺はファミレスにいた。
相手は笑顔を崩さなかったが、どこか胡散臭い雰囲気を感じていた俺は
なんとも落ち着かずにいるのだった。
彼はそんな俺を不思議そうに見ると、メニューを渡し
何か頼まないのかと牽制をかけてくる。
「金、あんまないんで」
「いいよ、パフェぐらいなら奢ってあげるからさ」
どこまでも気持ちの悪い男だ。
初対面の男に対して、680円の出費を惜しまないとは。
今となって思えば
ここまで猜疑心を持っていたのだ。
この男からさっさと逃げ出せばよかったのである。
少しの好奇心は身を滅ぼすものなのだと
体を通して知ったのはこの時だった。
「ありがとうございましたー」
店員の無味乾燥な挨拶を後ろに聞き流し、ファミレスから出る。
すると、ずっと前に置いてきたような感覚。
今日ずっと抱えていた焼け付くような不安が盛り返してきた。
確信めいたものを感じた。
不安の正体はきっと、この男だ。
この、笑みを崩さずにいる男だ。
「お、奢ってくれてありがとうございましたっ」
動物の勘。それを信じることにした。
とにかく不安だ。不安が体を蝕んでいる。
俺は適当な挨拶を言って、この不安の元から駆け出そうとした。
「まぁ待ちなよ、そんなに急いでは無いでしょう?」
彼はやはり笑みを崩さずに、俺の腕を握っていた。
叫ぶなんて情けないマネはできなかった。
予想以上に強い腕力にひきずられて。
俺は裏路地に連れてこられた。
明らかに男とはかかわりのなさそうなチンピラが3人。
やれやれ、やっときたかといわんばかりに
男の姿を見ると立ち上がった
「あー・・・。こんな奴で、3万?」
「そう、頼むよ」
それだけで十分だった。
不安はやはり現実の物となって今、目の前に在る。
結局の話だが、それまでいじめていた様な奴にさえ
俺は怯えてしまうようになった。
こうして思い出すだけで、背筋が凍る思いだ。
狩るものが狩られる側に回る
たったこれだけで、今まで持っていた自信のようなものは
簡単に打ち砕かれていた。
また、後になって知った話なのだが、俺にパフェを奢った高校生。
彼は連続通り魔事件で逮捕されていた。
財布を拾ってくれた高校生の男に誘われるがまま
何故か俺はファミレスにいた。
相手は笑顔を崩さなかったが、どこか胡散臭い雰囲気を感じていた俺は
なんとも落ち着かずにいるのだった。
彼はそんな俺を不思議そうに見ると、メニューを渡し
何か頼まないのかと牽制をかけてくる。
「金、あんまないんで」
「いいよ、パフェぐらいなら奢ってあげるからさ」
どこまでも気持ちの悪い男だ。
初対面の男に対して、680円の出費を惜しまないとは。
今となって思えば
ここまで猜疑心を持っていたのだ。
この男からさっさと逃げ出せばよかったのである。
少しの好奇心は身を滅ぼすものなのだと
体を通して知ったのはこの時だった。
「ありがとうございましたー」
店員の無味乾燥な挨拶を後ろに聞き流し、ファミレスから出る。
すると、ずっと前に置いてきたような感覚。
今日ずっと抱えていた焼け付くような不安が盛り返してきた。
確信めいたものを感じた。
不安の正体はきっと、この男だ。
この、笑みを崩さずにいる男だ。
「お、奢ってくれてありがとうございましたっ」
動物の勘。それを信じることにした。
とにかく不安だ。不安が体を蝕んでいる。
俺は適当な挨拶を言って、この不安の元から駆け出そうとした。
「まぁ待ちなよ、そんなに急いでは無いでしょう?」
彼はやはり笑みを崩さずに、俺の腕を握っていた。
叫ぶなんて情けないマネはできなかった。
予想以上に強い腕力にひきずられて。
俺は裏路地に連れてこられた。
明らかに男とはかかわりのなさそうなチンピラが3人。
やれやれ、やっときたかといわんばかりに
男の姿を見ると立ち上がった
「あー・・・。こんな奴で、3万?」
「そう、頼むよ」
それだけで十分だった。
不安はやはり現実の物となって今、目の前に在る。
結局の話だが、それまでいじめていた様な奴にさえ
俺は怯えてしまうようになった。
こうして思い出すだけで、背筋が凍る思いだ。
狩るものが狩られる側に回る
たったこれだけで、今まで持っていた自信のようなものは
簡単に打ち砕かれていた。
また、後になって知った話なのだが、俺にパフェを奢った高校生。
彼は連続通り魔事件で逮捕されていた。