Neetel Inside ニートノベル
表紙

たったひとつのバグ
許してくれますか?

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「ごめんね? 家のバカな弟が変なこと言って」
「ふびませんでじだ~」
 思いっきり土下座をする。その前にわたしがぼこぼこにした。何馬鹿なこと言ってんだか……
 京螺ちゃんに変なお姉さんって思われないかな?
「いえいえ。あんなストレートな告白はちょっと嬉しかったです」
 伏せていた頭が大きく上がる。
「え!? じ、じゃあ!」
「でも、わたしは好きな人がいるんです。いつもわたしのことを思ってくれている人が」
「………じゃ、オレ帰るわ」
 泣きそうな声でわたしに向かって笑顔で答えた。帰ったら何事かとみんなが大騒ぎするだろう。なんてったって喧嘩が早いこと風の如くでどんな相手でも負けたことがない友和が泣いている理由が女にフラれたと聞けば大笑いするのかな?
「……あの、それでぇ瑠佳、さんでしたっけ? なにか用があってきたんでしょうか?」
「あ、あぁ、そういえばそうだった。えとね、今日気になってちょっと燕尾くんのあとついてきたらラミアちゃんと京螺ちゃんと燕尾くんがいたから」
 話を聞きたかった、と事情を話した。
「……あなたも、お兄ちゃんのこと好きなんですか?」
「えぇ!? な、なんでわかったの?」
 図星なのでわかるくらい動揺してしまった。
「なんとなくです。まったく、兄はモテモテですね。………わたしにとってはそれが唯一不安要素なんですけどね」
 細い華奢な腕を見ている。その瞳はどこか虚ろだった。
「不安って?」
 聞いてしまった。違うことを聞きたいと思っていたのに。
「いつかはわたしを忘れるんじゃないか。いつかはわたしを邪魔者扱いになって病院にすら現れなくなるんじゃないか。いつかは、いつかはわたしよりも大事な人ができるんじゃないか。まだ不安はいっぱいあります。言えばいうほどわたしの心が……」
 言葉が途切れる。京螺ちゃんは自分の胸をかきむしる様に掴む。
「わたしの心が切なくなってくるんです」
 やっと声が聞こえた。必死に泣くのを抑えている。全く、弟とは大違いだ。生きている場所生きている理由生きようとする理由も違うんだろう。
 でも、これだけはいえる。きっと、ううん。絶対に好きな人はわたしと同じ人なんだ。同じ人だけど絶対に結ばれない、そんな宿命、幸せだけど不幸な存在で近くて遠い存在なんだと感じた。そのおかげか知らないけどわたしは、
「そっか………うん」
 一つ決心が出来た。
「じゃあ、わたしもひとつ過去を明かしてあげる。わたしが燕尾くんに惚れた理由。燕尾くんを好きな理由」
「え?」
「お兄ちゃんを好きな理由、ですか?」
「うん。確か中学三年生くらいかな? 初めて燕尾くんと会ったの。でも多分燕尾くんは覚えてないと思う。昔の頃の写真見る?」
 コクリと頷く。財布から写真を差し出す。いつも戒めのために持っていた写真がこんなところで役に立ったことを少し嬉しく思った。
「え!?」
「あ、驚いた? まぁ、驚かない方が変だけどね」
 京螺ちゃんが驚いた写真はヤンチャしてた頃のわたし。みんなでヤンキー座りしてメンチを利かせながら映っている写真だ。写真のわたしはロングだけどいまはショーットカットヘアー単純だけどそれが一番わかりづらい。それに化粧もしていたし本人じゃないように思ってくれた方がいいかもしれない。
「結構ファンキーな中学生だったんですね……」
 ハハ、と笑っているが無理に笑っているのがわかる。引きつってるし。
「いいよ、無理しなくて。じゃあ、話そうかな。長いかもしれないから途中で寝てもいいよ。そっちのほうが楽でいいし」
 ゆっくりと自分のベッドに潜る。そしてそれを確認したわたしは淡々と話し始めた。まるで昔話を子供に聞かせるような形になってしまった。でもこれが一番いい。話しやすくなった。
 わたしの過去。知られたくなかった過去。汚らわしいわたし。それでもあなたは許してくれますか?

       

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