Neetel Inside 文芸新都
表紙

山菜
0.旅立ち

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0-1.僕の周りにはたくさんの人がいたが誰一人森へ入ろうとしなかった。

どこまで続いているのかわからないし、入ったところで手に入るものなんてなにもなかったからだ。
職についていない僕は300円とライターだけ持って森の入り口へ向かった。
森の周りを囲う壁は高く頑丈で誰も知らないところまで続いているけれど所々に入り口があった。
入り口と云うのは単に壁と壁の境目で侵入者を歓迎するための装飾は見当たらないし、子供の僕でさえ身体を横にしなければ通り抜けることが出来ないぐらい小さかった。

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0-2.森の入り口は僕の家の庭にある。
 
ズボンのポケットにライターが入っていることをなんども確認しながら森の柔らかい地面に足を下ろした。

ライターを持って来たのはいざというときに森を焼き払うためだ。

森の中は見たこともない木々の葉が太陽光線を遮って予想していたよりも遥かに暗く、テニスコート一枚分先の木々は昼だというのに闇に包まれてほとんど見ることが出来なかった。
僕は照明として頭の薄い男を連れてこなかったことを悔やみながら靴紐を結び直し、それから歩き出した。

迷わないように左側の壁に沿って歩くことに決めた。森の中と外を分けるコンクリートの壁には苔やキノコやシュークリームが生えていて外側からとはぜんぜん違って見えた。
地面には得体の知れないキノコや肉棒があちこちに生えていて気味が悪く、ときどきやわらかいものを踏んだけどそのたびに僕は『芋ようかんか何かだろう』と思うことにした。
キノコには様々な種類があった。なんとなく見たことのあるきのこや、毒々しい色をしたきのこ。
僕には一つとして名前がわからなかったのだがそれでもマヨネーズが一本あればどれだけ助かったろうと考えた。お腹が減ったとき、豊富にある食材を料理に変える力がたった一本のマヨネーズには込められている。
でも僕が持ってきたのは300円と森を焼き尽くす為のライターだけだった。

マヨネーズのことを考えて涎を垂らしながらだらだら歩いていたらさっそく何かに躓いてやわらかい腐葉土の上に顔が埋まった。

「ぎゃぴー!」

僕が躓いたのは肉棒だった。

その肉棒は父のそれにあまりにも酷似していて、僕は彼のことを思い出さずにいられなかった。
記憶の洪水が涙と一緒に溢れ出して僕を5年前へ押し流したのだ。


僕の父親は無職だった。働かないくせに毎晩偉そうに僕を叱った。のちのニートである。
僕はそんな父が好きだったけれど去年の秋に死んでしまった。

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