Neetel Inside 文芸新都
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エスケープ フロム 釧路
店内

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8月23日 1時30分 北海道 貝塚 ツルハドラッグ店内

嘉田は澤山を担ぎながら店内へ、滑り込むような形で入る。
店内の商品陳列棚は倒れていたり、あるいは斜めになっていたりと、事件直後の騒然さが手に取るようにしてわかった。
二人は入り口を背に、そのまま店の奥にかがんだ姿勢で進んでいく。
というのも、道路側の仕切りは、一面ガラス張りになっており、無論であるが、外から店内の様子は容易に伺うことができるのだ。つまり、感染者に見られるようなことがあらば、たちまちこの店も危険地帯になってしまうのである。
店の奥にゆくと、二人と同じ考えを持ったであろう男女が、対になって6名、寄り添うようにしてへたりこんでいた。
そのうち二人は、男の店員である。
嘉田は澤山を降ろすと、二人の店員に一瞥をくれた。ネームプレートを見る限り、年かさの男が店長で、若いほうの店員はアルバイトであるようだった。
6名全員の目に一瞬だけ希望の光が灯るが、澤山の様子を見るなり、すぐさま沈鬱な表情へと戻っていった。
そんな彼らをよそ目に、澤山が声をあげる。
「おい、嘉田」
返事はせず、視線だけを澤山に向けた。
「このままだとここもいずれあいつらが入ってくる。バリケードを築くぞ」
いわれるなり、嘉田はあたりを見回した。
「棚を使えばなんとかガラスの部分はカバーできそうですね」
「頼りないがな」
澤山は立ち上がり、制服の裾で額の血をぬぐった。それを見、嘉田も同じく腰をあげ、バリケードの形成に移ろうとした。と、そのときであった。不意に声が、へたりこんでいる人の中から、上がった。
「それよりも、シャッターを閉めたほうがよくないですか」
振り返ると、若い方の店員が腰を上げていた。それから申し訳なさそうに、「店の外側ですけど・・・」と付け加える。
嘉田と澤山は二人で顔を見合わせた。
暫時ののち、頷き、「それでいこう」の声が上がった。
そして澤山はそのバイトを指差し、言う。
「君がシャッターを閉めるんだ」
即座に返答があったが、それは予想通りのものだった。
「無理ですよそんなの!外は化け物だらけなんですよ!出たら──」
バイトの声はそこでさえぎられた。嘉田によって
「ここにいてもいずれみんなやつらに食われるだけですよ」
一瞬にして座り込んでいる人々の表情が暗くなった。
「で、でも」
そこですかさず澤山のフォローが入る。
「心配するな、俺たちが守ってやる」
そして澤山はゆっくりと腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。
二人が見守る中、バイトの男はうつむき、しばらくの間思案をする。
そうして意を決したのか、その表情は先ほどとは打って変わっていた。
「やります」
ほかの者は、一瞬だけ思い出したかのように顔をあげ、彼を一瞥するが、すぐにまたうつむいてしまった。自らに火の粉が飛ぶことを恐れて。
それを理解しているかのように、澤山は彼にのみ焦点をしぼって会話をすすめる。
「よし。決まりだな。君、名前は?」
「吉田です」
「じゃぁ吉田君、簡単な打ち合わせだけしておこう」
吉田は短く二回、縦に首を振る。
「俺たちが先に外に出る。で、君はそのあとに続くんだ。あとは遠いほうから順にシャッターを降ろしていって、すべてを閉め切ったら店に入る。完璧だろ?」
吉田を勇気付けるため、最後のフレーズは多少笑いながら、あたかも造作ないことであるかのように、澤山は言う。
吉田はごくりとつばを飲み込んだ。
「それじゃあいきましょうか」
嘉田が言い、同時にホルスターからニューナンブ、つまり拳銃を抜く。
二人が中腰になり、店の出入り口へ向かおうとしたところで、吉田が声をかけた。
「あ、待ってください。引っ掛け棒がないとシャッターは閉められません」
澤山は一瞬眉間にしわをよせた。額の血はもう固まっているようだった。
「それはどこにある?」
「レジです」
レジは入り口正面向かって、右側にあった。
「それじゃあ通り道だな。いくぞ」
3人の表情が引き締まる。

       

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