Neetel Inside 文芸新都
表紙

不忠の糸
コメとトラの境界線

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あかカーペットや、天井の幻妙な象篏や、絢爛な調度が空間にほどよく配置されている中、やはり男がそこに座っていた。
「あの、・・・用件は何ですか?」
「まあ、良い家でしょう、ここは」
「・・はあ」
「ここには色々なものがあるから、本当に危険なものもあります、しかし2、3個言いつけを守ってくだされば何をしても構いません」
「私が住むんですか」
「はい、あなたの家です」
覚悟は出来ていた。
こんな荒れ果てた大地の一軒家を、私の囹圄を受け取らなければならない。
「そこの紙に注意が書いてあります。このサナトジウムで、どうぞ良いお時間を。私は時間がないのでここで失礼。それと・・、」
「はい・・・。」
「一人では寂しいでしょうから、この魔法のネジ巻き人形を渡しておきます。」
彼が手から人形を出現させたが、一種の魔法だと思って納得した。
「ありがとうございます」
「お嬢さん、心の準備は出来ていますか?」
「できています」
「そう言っても、少し寂しいでしょう」
「・・・・・・・・・」
「そうですか、」
もう彼を思い出すこともない。

彼が帰るまで、ポーカーフェイスを貫き通していた。さてリビングに誰もいなくなると、人形を摘み(手乗りサイズだった)、テーブルの上の注意書きに目を通す。

『1.灰色の大地に入ってはならない

 2.夜中に庭に出てはならない

 3.諸道具の注意書きを守る 』

私はここに一人のこされた。確か彼はサナトジウムと言っていたが、それがこの建物の名前だろうか。どっちにせよ、今は人形のネジを巻くべきか、それとも死ぬべきか、それが問題だ。

     


人形のねじを巻くという行為は何とも不思議だと思う。自分で自分のネジを巻くゼンマイ仕掛けは作れるか否か。・・・・できそうで出来ない気がする。
この命題について考えている暇はないが、摩擦力がゼロの人形があったら一生右回りの時間と左回りの時間を繰り返して過ごすのだろう。

さてここで先達の叡智を借りるべく(もう充分剽窃しているが)一冊の書物を引用する。
その書物の言葉によると「まきますか  まきませんか」
この場合と非常に似た今回に於いて、いつも感じていた私見を述べさせてもらうと、この二択に2つの選択肢など存在しない。左のまきますか?と言う選択肢は人口膾炙の極みとみつける。照らす右のまきませんか?という選択肢はデカダンである。我々は深層心理の裡にこの選択を追い落とすのであって、レトリックもここに極められりと感嘆する。
そうしたいきさつで、このネジをまいて彼がくれたこの小さな人形を動かすべきだと言う結論にリーチした。

ギリリ・・・
ギリリ・・・
キリ・・・・

くるん

人形が動き始める。手乗りサイズだが、やはり愛くるしく精緻に作られた仏蘭西人形が、軽快な動作で空を飛ぶ。
「はじめまして」
人形は、ネジを巻いたら動き出す・・・当たり前のことだ。
「は、初めまして、私は本城 リン。よろしく」
「初めましてマスター。私はテレーズです」
愛嬌があってかわいらしい声だ。人形とはとても思えない。
「どうでしょう、お茶でも一杯飲みませんか?ティータイムです」
「もうそんな時間なのかしら。」
スゥと奥の方に消えていくテレーズ。邸宅じゅうを見回りたかったが、それは後の方にしてもよさそうだ。

はて、はたと見つめた先には不思議な物体があった。

     

本棚の夥夛な韋編の上方に鎮座する、
黒いシルクハット。あの紳士が被っていたものに似ている。
ソファーから立ちあがって、背伸びして手に取ってみると、シルクハットのつばに小さな名札がつけられていた。
『鳩散らし』
帽子と鳩。そしてここは魔法の空間。シルクハットとハトとははなはだだ陳腐なマジックだと思いながらどうやったら鳩が出るのかと色々探っていると、どうやらショックを与えると鳩が出てくるらしい。机のかどに帽子の頭をぶつけると、どこからともなく鳩が一匹出てくる。不思議だ。普通に叩くと一匹でてくる。いきなりたたくと4匹でてくる。
出てきた鳩を観察するとさらに面白いことに気付いた。
まず出てきた鳩を捕まえようとするとうまくいかない。しめたと思って手でにぎったら消えてしまう。そのかわりシルクハットから鳩が2匹出てくる。-1疋+2疋=プラス1
これはまずいと気が付いたときには部屋中に大量の鳩が散乱し目も当てられない。
鳩たちが棚に体当たりする。電灯を揺らす、私めがけて飛んでくる。私に飛んできた鳩はぶつかる前に消えてしまうが、その代わりハットから二匹のハトが・・・・。
これはまずい。
絶体絶命。



たくさんに増えたハトを自分で処理することはもう諦めていた。ただ迂闊だったなと思いつつこの状況を打開できるのは先ほどネジを巻いた人形の彼女しかいない。
ああでも部屋の外へ突っ切っていくとさらにはとが増えそう・・・・。
こんな事ならマジシャン気分に浸るんじゃなかった・・・。・・マジシャン?
そうだ、これがマジックによってでてきた鳩ならマジックでもう一度消えるのだ。
私は滾々と湧き出るエナジーにまかせて叫んだ。
「みなさん、鳩が消えますっ!」
鳩よ消えろとさけんでも無駄だと思ったからだ。だが結局はこれも無駄だった。
「どうしろって言うのよ!」
諦めかけたそのとき、大所から駆けつけてきたテレーズが私に叫んだ。
「鳩は布をかぶせると消えるんです!」
ああ、そういうことか。私はカーテンを引きちぎりばっさばっさと鳩を消し去り、見事命がけのマジックを成功させた。こんなものマジックでも何でもない。
「危険な魔法アイテムも多いんですよ」
「こんなものかぶった日には、どうなるのよ・・・」
「呪いのアイテムだから一度被ったらはずれませんよ」
私はハットなど見たくなくなった。

       

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Neetsha