プププ……プププ………
「ん?」
晩御飯を作っている途中に不意にボクの携帯がなる。
「もしもし……」
しばらく間があった。
「………アタシ、蓮葉……だけど……」
「ん? どうしたの?」
なるべく気まずい空気を避けようと明るく話す。
「明日さ、時間あるかな?」
「そりゃ、夏休みだからね~。腐るほどあるよ」
携帯から少しだけフフ、と薄い笑いが聞こえた。
「じゃあ明日の夜の七時に噴水公園で待ち合わせ。いい?」
「あぁ、いいよ」
「……じゃ」
先に電話を切る。話すのが面倒くさかったから。考える思考のほうが大事だったから。
少し目を離したせいか料理は黒く焦げている部分もあった。
「あちゃぁ……」
焦げた料理を皿に移し暗いリビングに独り黙々と食べる。
ほんのりと苦い味が広がる。
でも不思議と普通に食べることが出来た。どうしてだろうかわからなかったがボクはこんな料理を食べたことがあるような気もする。
喉が渇き近くにあったお茶に手を伸ばしたとき、
「あ!」
遠近感覚が麻痺していたのかコップを落としてしまう。
「あ~あ……」
床にこぼれ敷いていたカーペットも汚れてしまった。
「下にも染み付いてるだろうな……」
カーペットをのけようと一部だけめくる。
そこには赤黒い色があった。
「なんだこれ?」
気になり全部めくる。
なにを書いているのかわからない。多分きっと子供が書いた文字、つまりは小さい頃のボクが書いた文字でまず間違いないだろう。
必死に解読する。
「…………ボクが…………した?」
なにをしたというのだろうか?
でも気になるのは色だ。
「この色……血………だよな?」
気味悪く思わなかった。それよりも疑問が浮上してきた。
仮にこれが血だとしよう。だとすればなぜボクは血でこんなことを書いたのだろうか?
「!? あぁあっぁっぁああああぁぁぁ!!!!」
頭が割れそうなくらいの刺激が入る。
この瞬間に走馬灯のようにこれまでボクがわからなかった謎がすべて解決された。
――この役立たず!!
――しゅうちゃんは何も心配しなくてもいいのよ
――やめなさいよ!! あなたそれでも親なの!?
――や、やめろ!! こっちへ来るな!!
「っはっは………はぁ………っは……はははははははははははははははははははは!!!!!!」
息を切らした後ボクは気が触れたんじゃないかってくらい笑い出した。
「そっかぁ~そうだったのかぁ~」
ゆらり立ち上がる。
「ボクって本当に運がないな~。事故で記憶が無くなっちゃうなんて~」
クスクスと顎に手を当て笑い出す。
「あぁりがと~床ちゃん。思い出させてくれて~」
「思い出したよ~。大切なお宝が眠ってる場所も……」
ボクが思い出したのは……触れてはいけない……そう、ギリシャ神話で例えられたパンドラの箱だったんだ。
「そしてぇ~」
――ボクが快楽を求めるための異常で狂った殺人者だっていうことも…………ね。
そうしてボクは鼻歌を歌いながら蝶のようにゆらゆら浮遊するように外の街へ出て行く。
いままでに我慢していた欲を満たすため。渇いたボクの体に潤いを取り戻すために。
今日は満月。いい日だなぁ。