パラシュートが開かない。二つある予備と合わせて三つ、全部開かない。嗚呼、こんなことで終わるなんて、たった十五年の人生。
思えば今まで、呆れるほど不運な人生だった。出生の際は逆子で未熟児、一ヶ月をサイヤ人みたいなカプセルの中で過ごし、かろうじて一命を取り留めたと思ったら、睡眠不足の看護士が投与する薬品を取り違え瀕死、何とか退院するも直後自宅が火災を起こし、当歳にしてすでに三度目の臨死体験、長じてからも、体育祭にて崩壊した組体操の下敷きになり危うく圧死、朝練に精を出していた野球部の打球が頭頂部に直撃卒倒、乗せられた救急車がオカマ掘られまたも臨死、修学旅行へ行けば搭乗した飛行機が乱気流突入は当たり前、片翼エンジン停止で少し危機感、機長心筋梗塞により心配停止でため息、あげくにハイジャック勃発、当然のように人質にされ、もはや悪運尽きたかと諦めかけたが、それでもどうにかオーストラリア・メルボルン空港へ到着、さあこれまでの苦難は忘れて楽しむぞと思った矢先にこれだ。スカイダイビングしたくなかったのだ。ガイドの白人が強引に誘うから。銃振り回して誘うから。「ヘイ、ジャッ○! オレの誘いを断ろうってのか?」。明日の朝刊の一面が目に浮かぶ。『無謀中学三年生、スカイダイビングで墜死』。お茶の間の笑い物だ。
いいことなんて何もない人生だった。嗚呼神様、僕は本当にこのまま、不幸のまま死ぬのでしょうか?
「案ずるでない」
どこからか声が聞こえた。周囲を見回しても、空以外に何もない。はるか頭上にパラシュートを開いた仲間たちがこちらを指差して何事か話しているのが見えるが、しかし彼らの声ではない。もっと近くから聞こえる。
「あなたは誰ですか?」
どこへともなく尋ねてみた。
「朕は神じゃ」
「なるほど神様ですか」
どうやら神様らしい。
「少年よ、君の人生は確かに苦難に満ちていた。それには同情する。こちらの手違いもあったしの。しかし安心したまえ、君には死後幸運があるじゃろう。それも物凄い幸運じゃ。今まで一兆の人間が生れて死んでいったが、この幸運に預かるのはお前が最初で最後じゃ」
「本当ですか!?」
「本当じゃ」
嗚呼、良かった。神様からのお墨付きがあるなら、安心して死ねるってもんだ。
地面がすぐそこに迫っていた。
グッド・バイ。
物凄い衝撃と共に、僕の意識は真っ暗闇。
目が覚めると、そこは薄暗くて暑苦しい、岩肌の目立つ殺風景なところだった。先ほどの神様の言葉を思い出す。
「もしかして、ここは天国……!」
どきわくしながらあたりを見ると、青や赤の肌をした角の生えた大男たちが、僕を見張っている。
「この人たちが天使……!」
正面には、やたら貫禄のある大男が豪奢な椅子に座り、黒いノートを手にしてこちらを見下ろしている。
「この方が神様……!」
彼の背後には鉄柵の門があって、そこを通して、幾人もの亡者たちが鞭打たれたり、針の山にぶっ刺さったりしている。
「あれがいわゆる酒池肉林、永遠の楽園――ってんなわけあるか! ここ地獄だ!」
「そう、ここは地獄だ。そして余が閻魔大王だ」
貫禄のある大男が厳かに告げた。
「やっぱり!」
絶望に頭を抱えた僕に、閻魔大王がやはり厳かに告げる。
「そう慌てるでない。貴様がこのまま地獄に残るか、それとも天国へ行くかはこれから余が裁くのじゃから」
「おお、そうかなるほど!」
ここで奇跡の逆転裁判、天国行きの判決が出てめでたしめでたしとそういうわけですね神様!
「まあ、ぶっちゃけ地獄行きなんじゃけど」
「なんでだよ!」
スッテーン! と擬音を残したい気分。
閻魔大王は手に持った黒いノート(たぶんあれが閻魔帳)を読みながら、言った。
「貴様はどうやら生前に周囲に大層迷惑をかけたようじゃからのう……たとえそれが貴様自身の咎でないとしても、持って生れた運もまた貴様の一部なのでな。ほれ、運も実力の内と言うじゃろう」
「納得いかねー!」
がっくりと肩を落とした僕のその肩をがっしと両脇から屈強な赤鬼さんと青鬼さんが掴まえる。
「ん、なんじゃと? ……ほうほう」
両脇の鬼さんたちが何事かと振り向いたので、僕も振り返ってみる。なにやら閻魔大王に小鬼が耳打ちをしていた。その僕の顔を見て、閻魔がニヤリと笑う。
「運がいいな、少年」
ま、まさか!?
「今、神のやつから伝言があってな――」
キタ――――!? 遂に僕の下に幸運の光が!? 神様も人が悪いぜ、こんなにギリギリになってやっと救いの手を差し伸べるなんてよう!
閻魔がゆっくりと口を開いた。
「――どうやらお前で地獄行きの人数が丁度一兆人目なんじゃと。ま、それだけなんだが、とりあえずおめでとう」
玉石混交のショートショート集
パラシュート(作:へーちょ)
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「パラシュート」採点・寸評
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1.文章力
60点
2.発想力
60点
3. 推薦度
60点
4.寸評
不思議なセンスを感じますが、作品の面白さへ繋げられていないように見えます。
文章に、何とも言えない味はあります。ただ、その割に話が普通です。まとまっているように見えますが、そこまで面白いかというと……ギャグマンガっぽい雰囲気は、良いとは思うのですが。
軽く読めてしまう手頃さは、良い点として評価出来るか。
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1.文章力
90点
2.発想力
100点
3. 推薦度
80点
4.寸評
爆笑しましたwww 冒頭の不幸エピソードもよくこれだけ詰め込んだ&考えたと思います。発想と努力は抜群ですね。
文章も、文学的であるかどうかは別にして非常に読みやすく、テンポよく進んでいくことができたので高得点をつけています。
漫才のような展開とオチは本当にお見事でした。推薦は人によってやや好き嫌いが出ると思い若干下げましたが、楽しい作品をありがとうございました!という感じです。
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1.文章力 80点
2.発想力 80点
3.推薦度 80点
4.寸評
面白いですね。テンポがよくて、シュールで、とても読みやすい。冒頭の連文はちょっと息苦しかったですが、そこからのテンポのよさは爽快でした。最後の最後まで笑わせていただきました。
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1.文章力 80点
2.発想力 70点
3.推薦度 80点
4.寸評
よくまとまったショートショートだと感じた作品。
こういったセルフボケ・セルフツッコミの語り口の場合、作者の独りよがりでギャグが寒く感じる文章なこともあるのだが、この作品からはそれを感じなかった。
文章はテンポよく進んで読みやすく、短くまとめている割には読みごたえも感じた。
展開が無理やりで唐突で乱暴過ぎるきらいはあったが、ギャグものとしてみればギリギリ許容範囲といったところか。
しかし、主人公の境遇が極端すぎて、その唐突な展開も相まって感情移入しづらい点はあった。神の言葉を信じてあっさりと命を諦めてしまう部分など、特にそう感じた。
また、オチは不幸過ぎるという主人公の設定から多少先読みできてしまい、少々意外性に欠けているようにも感じた。
だがそれを考慮しても、起承転結含めてまとまっていると思う、いい作品だった。
最後に蛇足だが、学生がスカイダイビングする際は普通、添乗員がつくと思うんだ。
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1.文章力 50
2.発想力 40
3. 推薦度 60
4.寸評
スマートな作品。セリフに多少のうるささを覚えるものの、オチまで笑えて面白い。
しっかりショートショートをしていると思う。
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各平均点
1.文章力 72点
2.発想力 70点
3. 推薦度 72点
合計平均点 214点