Neetel Inside 文芸新都
表紙

玉石混交のショートショート集
睡魔(作:和田 駄々)

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「信じられないかもしれませんが、聞いてください。
 僕が小学校四年生の頃、家族でハイキングに行ったんです。ちょっと遠出して、電車を乗り継いで一時間くらいかかる山です。登ってる時は確かにきつかったのですが、久々の小旅行ともあって楽しくて、僕は親にわがままを言って、ハイキングコースからどんどん離れて行ってしまったんです。
 でも両親もついてるし、大丈夫だろうと楽観的に考えていたら、案の定迷ってしまいました。なぜかコンパスもきかなくて、地図で見ても山に慣れてないから目印を見つけられない。そうこうしてる内に日も暮れ始めて、両親は何度も僕に文句を言いました。季節は秋が終わる頃、ちょうど今頃だったでしょうか。段々と冷え込み始めて、歩き疲れて足もガクガクで、とりあえず座って休憩する事にしたんです。
 もうお弁当は昼に食べてしまい、お腹も空いていたんですが、それより何より疲労困憊で、僕は首をふらふらさせていました。両親の方も似たような状況で、でもどうにか寝ないように、文句を言い合ってたんです。
『だからあたしは山なんて嫌だって言ったのよ』
『どこか旅行連れてけって言ったのは君の方だ』
『どうして山なのよ。迷うなんて信じられない』
『おいおい、迷ったのは俺のせいじゃないだろ』
 僕は耳を塞ぎながら、一番星を眺めていました。
 ふと気づくと、両親の喧嘩が止んでいました。恐る恐る顔を覗き込んでみると、二人は言い争った姿勢のまま寝ていたんです。
 僕は慌てて起こそうとしました。テレビで、寒い山の中で寝ると死ぬと言ってたからです。もちろん、ハイキングコースもあるくらいの山ですから、そんな事は今思えばありえません。しかし当時の僕はまだ幼く、疲れとストレスから正常な判断が出来なくなっていました。両親を起こそうにも、どうにも舌がこんがらがって、うまく声が出せません。気づくと僕も眠くなっていたんです。
 すると、目の前に妙な生き物が現れました。そいつは膝下くらいの大きさの、小太りした化け物のようで、ぶくぶくと皮膚を余らせながら、ぷかぷかと宙に浮かんでいました。僕はすぐに自分の目を疑いましたが、そいつは困惑する僕を見てこう言ったんです。
『俺は睡魔だ。どうやらお前は俺が見えるらしいな。まあ、眠ってもらう事に変わりは無いが』
 睡魔に襲われ眠る、という言い回しはよくありますが、実際にこうして襲われたのは僕の場合これが始めてでした。そして睡魔はその手に持った杖のような物を振り、僕を眠りに誘おうとしたんです。
『待って!』
 僕は叫びました。先ほどは声が出なかったんですが、咄嗟に、ここで自分まで眠ってしまったら本当に死んでしまう。と、考えたからでしょう。
『睡魔さん、どうにか見逃してくれませんか。ここで寝たら僕たちは死んでしまいます』
 僕が助けを乞うと、睡魔は少し考えてこう言いました。
『仕方ない、ならばここは見逃してやろう。だがその代わり、これから一生お前についていくが、それでも良いか?』
 僕は考えました。睡魔に付きまとわれる一生といったら、それはそれは眠い一生でしょう。しかし当時の僕は、ここで寝たら死んでしまうという考えがどうしても離れず、渋々睡魔の提案を受け入れました。
 それからどうにかして両親を起こし、また少し迷いつつもどうにか山を降りる事に成功しました。両親には、僕の背中に張り付いた睡魔が見えない様子で、他の人も同様に見えないようです。しかし睡魔は確実に僕の背中に住んでいて、時々ぶつくさと何かを言っては、僕を眠りに誘うのです。
 睡魔は僕が眠っている時のエネルギーを食べているらしく、それから僕はよく眠る子供になりました。しかも睡魔はとても意地悪な性格。起きてなきゃいけない時になると決まって、コツコツと杖で僕の頭を叩き、無理やりに眠らせるのです。そんな物、どうしたって起きていられません。
 だからこうして、今日遅刻してしまったのも、仕方ない事なんです。
 先生、分かっていただけましたでしょうか?」
「分かりました。廊下に立ってなさい」
 この平成に、廊下に立たされている中学生が、果たして僕以外にもいるのだろうか。と、僕は考えながら立ってた。今朝も家を出る寸前、睡魔に襲われ眠ってしまった。もうこれで、今月に入って十回目。いい加減睡魔に打ち勝つ手段を考えなければ、僕のお先は真っ暗だ。
「災難だったな」
 他人事のように、僕の背中で睡魔が呟いた。

     




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「睡魔」採点・寸評
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1.文章力
 95点

2.発想力
 95点

3. 推薦度
 95点

4.寸評
 面白い!
 話の構図が良いです。確かに、先生からしたら妙に凝った言い訳にしか聞こえない。そのリアリティがたまらないのです。
 "睡魔"のアイデアも素晴らしい。良いアイデアを持つ人というのは、ただ突飛な人のことをいうのではなく、ありふれたものを人と違う角度から捉えられる能力をもった人のことなのだと筆者は思います。そういう意味で、この作者さんの発想力は高いと言えるのでは。
 文章も、上手です。

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1.文章力
 60点

2.発想力
 50点

3. 推薦度
 40点

4.寸評
 正直言うとガッカリです。和田先生が投稿されるたびに勢いを失っている気がしてなりません。特にオチは完全に尻すぼみですね。これからだというのに。
 和田先生は元々情景が浮かびやすい文章を書きますので、文章力だけ高めにしてあります。発想は今回今イチですね。
 じっくり練って投稿された方がいいですよ。

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1.文章力 60点
2.発想力 50点
3.推薦度 40点
4.寸評
 まず、この構成は無理がありすぎる気がしました。これだけ長い説明を聞いてくれる先生はいるんでしょうかね…?
 あとは、睡魔の掘り下げの少なさ。睡魔の目的と、何故取り付かなければならないのか。そして、寝させるタイミングの詳細など、少し説明不足な感じがします。しかし、これらを会話中に説明させることは前述のとおり構成を悪化させてしまいますので、やはり、違った構成やオチを持ってくるべきだと思います。これならば、夢オチのほうがしっくりくるんじゃないでしょうか。

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1.文章力 80点
2.発想力 60点
3.推薦度 85点
4.寸評

 ショートショートとして、とてもよくまとまっていたと思う。
 特に、最初のカギカッコを読者が忘れたころに持ってきて、本文のようだった話を物語の中の一セリフにしてしまうという構成は、とても面白いと感じた。
 難を挙げるとするなら、登場人物の行動に対する理由付けが希薄だったところだろうか。特に睡魔自身に関して言えば、主人公を見逃した理由、その対価に付きまといたがった理由、むしろそれ以前に、睡魔とはどういった目的を持った存在なのか、そのあたりが非常に不明瞭だ。
 オチはそれほどインパクトもなく、上記の構成から続く流れでくすりとできるできないか程度なのだが、しっかりとした起承転結に裏打ちされた話作りを短くまとめてあることから、推薦度を高く置いた。

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1.文章力 50
2.発想力 50
3. 推薦度 60
4.寸評
 表面的には言い訳になるオチがよかった。
 またそこまでスムーズに読ませるのが良い。
 背中に付いているという所で傴僂を想像したのだが、ここにいるのも面白い。

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各平均点
1.文章力 69点

2.発想力 61点

3. 推薦度 64点

合計平均点 194点

       

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Neetsha