「私、きれい?」
青年は、人気の無い道で、不意に声を掛けられた。
突如として、耳に入って来た若い女の声に、彼は少し驚きながらも丁寧に答えた。
「失礼ながら、僕は目を病んでおりまして、貴方の姿が見えません」
彼女は、その言葉を聞かされ、戸惑い、返す言葉がなかなか見つからなかった。
青年は、その様子を感じ取ると、『さては、さぞ失礼な物言いをしてしまったのだろうか』と考え、慌てて言葉を続けた。
「ですが、きれいな声をしていると思います」
彼女は、マスクで半分隠れた顔を真っ赤に染めて
「あ、ありがとう……」
と、か細い声で返し、眼前の、眼前に包帯を巻いた青年の顔を見つめた。
その声に、一先ず安著したが、彼は考えた。
若い女性が、赤の他人に、自らの美しさを尋ねるとは、穏やかではない。
恐らく、容姿に強いコンプレックスを抱いている人間か……。
そうでなければ、自分善がりの自信家に他ならないが、礼を言う辺り前者だろう。
さて、この女性の相手は誰なら一番相応しいだろう。
今だ他人の容姿を知ることの出来ない自分ではないか。
彼は、ここぞとばかり彼女を誘い、彼女について知ろうとした。
一方の彼女も、満更ではない様子で、その後も青年と会う約束を取り付けては、気が済むまで語り合うのだった。
青年と若い女が逢引するのは、いつも午後三時。
彼は、大層楽しそうに自分のことを話した。
「目の治療法はあるのですが、安全性や危険性の面で、なかなか許可が下りないんです」
「人を驚かせることが好きなんです。悪趣味ですが」
また、彼が質問すると、彼女も楽しそうに答えた。
「好きな食べ物? ベッコウ飴かな」
「特技? 足は速いけど……」
「貴方が整髪料つけてる人でなくてよかった」
二人は、毎度飽きることを知らないかのように、ひと時を過ごした。
しかし、彼が、彼女に
「また、今日もマスクをしているのですか」
と尋ねると、いつも彼女は少し困った様子で、毎回
「風邪を引いているの」
と答えるのだった。
そんなある日、いつものように出会うと、青年は嬉しそうに言った。
「今日は発表があります。目の治療が受けられることになりました」
若い女は、驚きのあまり、声を出せなくなってしまった。
彼は、嬉しそうに、見たい物がたくさんあります、等と語っていたが、彼女の耳には届いていなかった。
彼女の頭は、負の思考でいっぱいだった。
彼の目が見えるようになれば、どうなってしまうのか。
きっとマスクを取って欲しいと言われるに違いない。
いっそ、正直にマスクの下の事を告げてはどうだろうか?
いや、彼が、普通の人間である限りは、口が裂けても……否、口が『裂けてても』言えない。
押し黙っている彼女に気づいた青年は、こう言った。
「私は貴方の姿を一番に目にしたいと思っています。
たとえ貴方がどんな姿だろうと、決して偏見の目で見ません」
そう告げられた彼女は、その言葉を確かめたくなった。
そして、その後二人は、青年の目の治療を終えてから会うという約束を交わした。
約束の日が来た。
二人が初めて出合った道は、相変わらず人気が無かった。
時間通りの午後三時。
久しぶりの対面に、青年は喜びを感じていたが、若い女の心は曇りがかっていた。
彼が言葉を掛けても、彼女は空虚な返事しかしなかった。
が、ついに、そのときは来てしまった。
「では、包帯を……」
彼が包帯を取ろうと、手をかけようとしたとき、彼女は、ゆっくり話し始めた。
「あのね、私は風邪でマスクをしていたんじゃないの」
彼女は、静かにマスクを外し、言葉を漏らした。
「きっとコレを見たら……貴方でも……」
彼女が、涙で言葉を出せなくなると、彼は優しく語りかけた。
「言ったでしょう。決して偏見の目で見ない、と。それに……」
さらさらと、右手で包帯を解きながら、彼は続けた。
「僕が色眼鏡を掛けるには、レンズの数が多すぎますから」
彼女の顔を見つめながら、青年は、悪戯っぽく舌を出して笑った。
玉石混交のショートショート集
目病み男に風邪引き女(作:ときしらず)
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「目病み男に風邪引き女」採点・寸評
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1.文章力
75点
2.発想力
70点
3. 推薦度
80点
4.寸評
描写が若干足りない印象ですが、読後感が良いです。
物語の進め方はなかなかですが、結び付近での説明の足りなさが残念でした。序盤をキチンと読んでいれば分かりますが、もう少し「彼」の正体については描写を足しておいても良かったかもしれませんね。
とはいえ、文章はなかなかしっかりしていますし、全編に渡って暖かい感覚に満ちているのも好みでした。
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1.文章力
50点
2.発想力
70点
3. 推薦度
50点
4.寸評
「今だ」は「未だ」ですよね。それに誰が話しているのか、どちら側からの視点なのかが曖昧な部分が多く、読むのに苦労させられました。
ただし良い意味でオチをこれ系の王道から外したこと、時折見せるうまい表現、全体の発想は目を見張るものがあります。
読後感は良かったです。ただし一行目に書いたようなポイントがマイナスとなり、全体としてはこのような採点になっております。文章の基本や読みやすさを伸ばせば作者様はきっと優れた物書きになると思います。
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1.文章力 50点
2.発想力 70点
3.推薦度 50点
4.寸評
物語の導入部分が唐突すぎて、なぜ目に包帯を巻いた彼に、なぜ声をかけたのか、そしてなぜ戸惑ったのでしょうか。
無駄な描写が多いにも拘らず、重要な部分は読者に考えさせるように描かれているので、若干戸惑いやすい文章に思えました。
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1.文章力 30点
2.発想力 60点
3.推薦度 25点
4.寸評
読点が多すぎるのと、段落の始めに一段下げるのが中途半端にできていないこと。安著などあまり使わない言葉回しがあったことから、あまり小説を書き慣れていないのではないかと感じた。文章的には純文学のようなのに、行間にスペースを多用していたのもそれを思わせる。
また、この話は前提として知っていなければならない情報が多く、とても万人向け、文芸初心者向けとは言えず、この企画に不適当であると思い推薦度を低くしている。(私は目病み男の正体を、二度読み直すまで察することもできなかった)
話の内容自体はそれなりに独創性を感じたが、結末はもう少し分かりやすくして欲しかった。目病み男の正体は普通の人間でない、オチであると最初から分かっているようなものなので、意外性を期待できないとなれば尚更である。
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1.文章力 40
2.発想力 40
3. 推薦度 50
4.寸評
素直に「可愛い」と感じました。
ただ文章に乱れがあるので、これが整頓されると嬉しいです。
オチについて、ぱっとわからない人がいるでしょう。
もっとわかりやすくしてしまっても、と思います。
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1.文章力 (50)
2.発想力 (70)
3. 推薦度 (60)
4.寸評
ありきたりなネタではありますが、言い回しなどは面白いものが多かったです。しかし、出だしのセリフから設定に少し無理があり、疑問符が浮かぶ文章が多いです。目を包帯で覆っている少年に対して、口裂け女があんなセリフを言うでしょうか。
オチは中々面白かったのですが、自分は何の妖怪か分からずイマイチ説明不足な印象を受けます。たぶん、三ツ目小僧辺りじゃないでしょうか。マイナー妖怪ですが。
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各平均点
1.文章力 49点
2.発想力 62点
3. 推薦度 51点
合計平均点 162点