僕は進学校に入ったけれど、いまだに中学のときの友達と麻雀を度々打っている。
それを言い訳にしてるわけではないが、高校に入ってからは成績もそんなに伸びないし、普段から、いや、テスト前だろうと勉強は眠くなったらすぐに、
「これでいいや。もう寝てしまおう。」
と、妥協して寝てしまう。そんなこんなでこの前のテストも当然のように散々で、後悔とイライラが残っている。
同じ高校のやつらはまじめだからか知らないが、僕の探す限りでは一人も麻雀が打てるやつがいない。
俺がルールを教えてやってもいいのだが、『麻雀=良くないおっさんの遊び』という変な固定概念があるようだ。自分は頭脳と心を鍛えてなお且つ楽しい、そんな風に思っているのだが、誰も理解してくれない。
そういうわけで今日も中学のときから変わらない、同じ5人の面子で抜け順番を決めて東風戦を5回行う。そのあと勝ち組4人で半荘戦を一度行う。というルールで麻雀を打った。
僕はこの日も半荘戦まで残ることができた。
「やっぱり今日も残ったか。さすが進学校に行くだけあって機転きくよな・・。これで何回連続だ?」
残ってるうちの一人が関心するように話しかけてきた。
「20回はいってないけど・・・15回ぐらいかな?」
少し照れながら僕は話した。
「俺なんか3回連続残ってないんだぞ!ちょっとは気を使え!」
落ちたやつは俺の肩にへばりついてムッとしながら言ってきた。僕は学校の先生のような口調で言ってやった。
「それはお前が振り込みすぎるからだろ?僕みたいに降りてラス回避も大事だよ。」
「そういえば、お前はあんまり振り込まないからなかなかラスにならないよな~。」
自分でもこの面子の中では、ラスを引かないことだけは得意だと思い込んでいた。それに今回は5人のうちでもトップで残ることができた。
流れもそれなりに良くて、南場に入ってから追い上げる形でオーラスになった。
僕は南家でトップの対面とは1800点の差があった。
喰断アリルールなので、タンドラ1出あがりでも逆転だった。とてもあがりやすく思えたが6順目。
手牌 一一七23479⑤⑥⑥⑦⑧ ツモ④ ドラ七
僕は七でリーチするかどうか悩んだ。
それだと出あがりで裏も一発ものらなければ1000点で逆転できない。しかも8は場に一枚切れていた。
一方9を切ればドラが絡んだり平和が絡んだりする可能性がある。
そうなると、リーチをつければどんなあがり方をしても2000点を超えて逆転ができる。
しかし僕は七でリーチをかけた。
流れもいいし、こういうのは下手にこねくりまわすより、素直に受け入れて妥協したほうがいいと思ったからだ。
だが思うようにはいかなかった。
六・五と立て続けにツモってきて、僕はただそれをツモ切るしか選択肢はなかった。その後上家から発声された。
「リーチ!」
10順目に親リーがかかった。僕は上家に対してモロ本命の牌をツモってきたが、ただ川に牌を置くことしかできなかった。
「ロン!親満」
その振込みで僕はラスに落ちて親はトップになった。
とても歯がゆい気持ちで僕は帰路についた。
今回の敗因はなんと言ってもオーラスの七リーチだと反省した。妥協したのがいけなかったのだ。
しかし、それは結果論であった。あの段階ではこのリーチが正解であった可能性もあったのだ。
そこまで考えたところで考えるのをやめた。考えたところでその結果は覆されないことに気づいたからだ。
それから数週間後。またテストはやってきて、気づけばもうテスト前日の夜になっていた。
「さぁ、眠いしもう寝るか。」
そう思って、布団の中に入ったときにこの前のオーラスが思い出された。
「妥協か・・・・」
僕は布団から出て机に向かった。
そんな付け焼き刃ではどうにもならないのは知っていたが、少し先にあるかもしれない最高形をめざして勉強を始めた。
結果はいつもよりは少しはマシといった感じだった。当然のように親や先生からは文句を言われた。
なぜだろうか?
それでも僕の心には不思議な達成感と充実感が残っていた。
その次の休みに、いつもの面子と麻雀を打った。
今回も勝ち続けて半荘戦まで残ることができた。
そして最終戦東3局。
あの時と同じようなカンチャンで妥協か、無理矢理最高形を目指すべきなのか、選択をせまられた。
後ろでは四連続最終戦に脱落中のやつが見ている。僕は端牌に手を伸ばし、こう言った。
「この前のテスト勉強はどうだった?僕は妥協しなかったよ。」
僕は端牌を切り捨てた。背中にざわめきを感じた。
そして数順後、妥協していればあがっていたことになった。
結局その局は流局で、半荘は2位だった。
「なんであのとき端牌切ったんだ?」
後ろから質問されたので、僕は顔を赤くしながら答えた。
「妥協したくないから・・・」
「こないだ『妥協しろ!』みたいなこといってたのお前だろ?それって矛盾してるんじゃないの?」
すぐに厳しい言葉が返ってきた。僕は「まいったなぁ」という表情をするしかなかった。
次の日、登校しながら考えた。
確かに僕の麻雀論は矛盾していると思った。
でも、そんな矛盾こそが麻雀そのもののようにも感じ取れる。
進学校に入ったけれど、僕はいまだに中学のときと変わらぬ麻雀と矛盾の中で生きている。
玉石混交のショートショート集
進学校に入ったけれど(作:らぐえむ)
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「進学校に入ったけれど」採点・寸評
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1.文章力
60点
2.発想力
55点
3. 推薦度
75点
4.寸評
麻雀で人生を語る物語です。
近代麻雀とかに載っていそうでいて、やっぱり載っていなさそうな話というところでしょうか。麻雀と人間の関わりを上手に捉えて書けています。
物事は1と0の狭間で常に揺らいでいるものでしょう。100%の正解などなく、人は1と0の間をふらつきながら生きていくしかないのでしょうか……と、思わず考えさせられてしまいました。
とはいえ、内容はどこにでも転がっているような平凡なものでしたので点数は低めです。個人的には好みのタイプなので、推薦度は気持ち高めにしておきました。
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1.文章力
60点
2.発想力
70点
3. 推薦度
60点
4.寸評
文章力は悪くありませんし、麻雀から人間的成長につなげるという発想も悪くないと思います。
ただ麻雀素人の自分が見ると理解できない箇所(成長につながる肝心な部分も)が多く、その分が減点となっております。
漫画だったら、例えばアカギとかだったら勢いで持っていけますが、文章は文字だけで理解させなければいけないので注意しなければなりません。特に今回は一般向けなので尚更です。
作品や展開としては好きな部類です。
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1.文章力 60点
2.発想力 80点
3.推薦度 50点
4.寸評
タイトルからは想像できないような麻雀小説で、少し面白かったです。麻雀の矛盾さと自分の立場との比較も、良い発想で、個人的に好きですね。ただ、麻雀が分からない人も多いので推薦度は少し下げました。
ちなみに、私なら七切ってダマにすると思います。流局でテンパイ狙い、8ツモったらピンズで……、ってどうでもいいですね。
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1.文章力 50点
2.発想力 20点
3.推薦度 35点
4.寸評
タイトルから学校での生活が主題の話かと思いきや、ほぼ全てが麻雀に絡んだ話で驚かされた。しかし、それがいい意味でとはとても言えない。
この話は要するに、「妥協することに慣れてしまった主人公が気持ちを改める話」だ。しかし、そのテーマを表現するのに果たして麻雀は必要だっただろうか?
麻雀をしているパートが半分以上を占めるこの話で、出てくる単語の説明は全くされていない。麻雀を知らない人間は、意味が分からない言葉の数々に面食らうことになるだろう。
その不親切さに加え、テーマと麻雀の結びつけも無理やりのように感じられた。麻雀をしている時間が長すぎるから、テーマの部分が軽いなってしまうのだ。
小説、しかも短編で、万人に向けたものという応募内容。これで麻雀を選んだのは失敗としか言いようがない。テーマや文章は悪くなかったので、別の表現方法を模索してほしい。
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1.文章力 30
2.発想力 20
3. 推薦度 20
4.寸評
率直な感想を記すと、首を傾げる。
作者の言いたい事はわかるのだが、面白さが足りないと思う。
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各平均点
1.文章力 52点
2.発想力 49点
3. 推薦度 48点
合計平均点 149点