NOT　シー　LOVE！
十余り二．五つ眼　「岩下慧の懸念」

　慧は、明と別れたその日、ある場所に足を運んでいた。大学の図書館だ。手際良く受付カウンターで入館手続きを済ませたあと、慧は手頃な席に手提げを放ると蔵書検索端末であるパソコンが設置されたスペースに歩を進めた。慣れた手つきで目当ての資料の名称をキーボードで打ち込み、その資料の配架場所を確認すると、急ぎ足でその場所に向かった。
　慧が探している資料、それは数年前に米国の大手新聞社から刊行された新聞だった。
　慧は適当に数十部の新聞を抱えて自分の席に戻ると、一部一部大見出しを流し読みしながらさらに目当ての記事を探していく。英検準一級の英語力を誇る彼女にとって英字新聞を流し読みする事は大した苦痛にならなかった。
　そして、慧はものの数分で目当ての記事を探し当てた。その記事にはこのような大見出しが載せられていた。
「Serial killer　Eyeball collector's　is still collecting repeat（連続殺人鬼『アイズ・コレクター』の収集未だに終わらず）」
　その記事には、洋館を囲むようにして占拠するたくさんの警察車両が写る写真が添えられていた。
　慧はその記事を見つめながら、先日「アホの子先生」と自分で名付けたあの先生がそのあだ名に似つかわしくない不敵な笑みを浮かべながら、喫茶店・サンタナで自分に話した事を思い出し、背筋がゾクリとしていた。