私立紅葉学園。
俺、水瀬あきとは今年、この学園に入学した。
特別に頭が良い学園でなければ、何か部活動が盛んというわけでもない。
ごく普通の学園だ。
俺は特に将来やりたいことがあるわけでもなく、ただのんびりと、この学園での生活を過ごして行きたいと思っていた。
俺が入学してから一ヶ月が経過した。
授業が終わるなり、一人の男子生徒が俺の机へ勢いよく駆けてきてバンっと机を叩く。
「演劇しようぜっ!」
そういったこいつの目は気持ちの悪いほどに輝いていた。
「なおゆき、お前頭大丈夫か?」
こいつの名前は飯塚なおゆき、同じクラスの男子生徒だ。
こいつとは学園入学前からなんやかんやと関わりがあって、まぁ、腐れ縁というやつだ。
「俺が頭おかしいのは今に始まったことじゃねえだろ?」
得意げに人差し指を振りながらそう言うなおゆき。
「それもそうだな」
「いや、ってちげえし、俺の頭別におかしくねえってっ!」
こいつのノリ突っ込みはたまに意味分からん。
「いや、今はそんなことどうでも良いんだ、それより演劇やろうぜ、え・ん・げ・き」
「きしょいから区切るなよ……、んで、なんでいきなり演劇なわけよ?」
俺がなおゆきにそう聞くと、待ってましたと言わん勢いでなおゆきが語り始めた。
「そう、あれは半年前の話だったかな……」
「俺は知り合いのいる学園の文化祭に行ってたまたま演劇部の公演をちらっと見たわけよ」
「ほぅ……」
「そうしたらさぁ、めっちゃ可愛い子が舞台の上でなんかやってるわけよ」
「あー、なんとなく話が見えてきたぞ……」
「俺はこれだっ! っておもったね、演劇をやれば可愛い女の子と付き合い放題じゃね? なぁ、なぁっ!」
素晴らしく頭の構造が簡単なやつだな、こいつは。
「あー、そうなんじゃねえの?」
俺は呆れてなおゆきの話を適当に聞き流そうとした。
「あー、ちょ、てめぇ、大親友の俺が演劇やろうぜって言ってるんだからここは、そうっすね、俺まじなおゆき様についていきますわ、ぐらいのこと言ってくれてもいいんじゃね?」
「なおゆき、顔近い……」
こいつはたまに熱くなるときがあるが今がまさにそうだな。
こうなったこいつはひたすらにめんどくさい……
「分かった、じゃあお前と一緒に演劇部をやればいいわけだな?」
とりあえずなおゆきの押しに折れておくことにした。
「へへ、そうこなくっちゃな」
なおゆきが満足げな表情で俺にそう言う。
なんか負けた気がしてやるせない気持ちになるな。
そんなこんなで俺となおゆきは可愛い子と付き合うために演劇部をやることになった。