小説を書きたかった猿
1.冒頭への長い道のり
1 冒頭への長い道のり
「俺は小説を書いて芥川賞と直木賞を同時受賞し、さらにノーベル文学賞を二十代のうちにもらって世界中に翻訳される本を作り続け、人類みんなが親しめる、新たなる聖書と呼べるような物語を完成させて、世界で一番偉大な小説家になるんだ!」
なんてことを公言してはばからなかった僕は、高校卒業後大学にも行かず職にも就かず、一心不乱に小説を書き続け、その究極の物語と呼べる小説もついに完結へと近づいていた――。
というのは嘘だ。
冒頭の発言だって独り言だった。
高校卒業後、僅かな期間であはあるが登録派遣型バイトを経験した僕は、肉体労働に自分は向いていない、体を壊しては元も子もない、と考えて、実家でだらだらと過ごし続けた。本は図書館で借りて読んだ。インターネットがあるからいくらでも暇は潰せた。
そして一年が経った。
そして二年が経った。
世間から離れて生きていることに対する焦燥感は、三年目からはほとんど感じなくなっていた。学生時代の友人たちからの遊びの誘いも自然と無くなっていた。
その後はほとんど記憶に残るようなことなどなく日々は過ぎた。
僕は今二十八歳で無職ニート。
小説は一編も完成していない。