七.
「店長、相変わらずエグいよー…」
秋一が隣の台で恨めしげな声を上げる。見れば店長のライフゲージはほとんど減っていないようだった。
「若者よ、強くなれ」
わざとらしくそう言って、店長は立ち上がった。
一週間が過ぎた。
オリジナル・キーを失ったことで、クリスは間もなく活動を止めてしまった。
零花がどこかへ持ち帰り、解析をしてくれているらしい。近く彼女の所属する組織は再編されることになったらしく、キーを探し出す段取りも整ってはいるらしいのだが、まだ先になるようだ。
あの男、木下は病院に運ばれて、傷が癒え次第逮捕されるらしい。あとで秋一に聞いた話だが、彼があの部屋のことを教えてくれなければ、あそこから抜け出すことは出来なかったそうだ。
言いたいことはあったが、それでひとまずはチャラだ。
あの部屋で聞いた謎の声。あれが零花の言っていた団体のトップなのだろうか。
けれど、それを知ったところで今の俺には何も出来ることはない。
結局、元通りの生活をしているのだった。
適当に授業を受けて、ゲームに打ち込み、帰宅する。
けれど、以前と変わらないその流れに、わずかな不満を抱えているのも事実。
彼女たちとの出会いがあったからこその、不満。
「なぁ、そういえば君ら、いつになったらあの子、連れてきてくれんの?」
「え、っと、どうする克己…?」
「あーっと、まあ、そのうち」
「そのうちそのうちって、いっつもそればっかりだよ君たちは」
そう言って、店長は背中を向けて歩いて行った。
「来て二日で転校したってのも、おかしな話だしなぁ…」
背後に店長を見送り、そう呟いて、どこか寂しげな表情を秋一は浮かべた。
「また会えるさ」
画面に向かってそう言った克己の横顔を、秋一は眺める。
「お前が言うなら、多分そうなんだろうな」
「そうそう」
画面には銀髪のアンドロイド、シルヴィア。
「ゆっくり待とうぜ」
いつかまた、近いうちに。
そんな予感。
試合の開始を告げる合図と同時に、克己はレバーを激しく動かした。
その足元に、ぼんやりと青く輝く球体が、転がっていた。