いん!
あらすじ
ようこそ。
目の前に、分厚い書物がある。
表紙には、わたしの知らない文字が記されている。
「イリスって、よんでね」
それがこの世界の名前であるのか、
表紙に描かれた、白い翼を広げた女神の名前なのか。
もしくは、その両方であるのか。
「手にとって開いてみれば、わかるんじゃないかしら?」
くすくすと、楽しそうな、愉快そうな声。
本の表紙の女神が、笑っていた。
けれど、糊が張りついてしまったのか、最初の一ページは、開くことが出来ない。
どうしたものかと思っていると、
「冒頭は、表紙と一緒で読めないわよ。あなたが読めるのは、ここだけ」
導かれるように、ページが開かれた。
分厚い書物の、半端なところから。
『第………章、偉大なる賢者『フィノ・トラバント』の………………』
微妙に読めない。
「大丈夫。本文はしっかり読めるから。たぶん」
何故?
「だってぇ、ネタばらししちゃうと、つまらないじゃなーい」
それは、まぁ、確かに。
「でもね、この物語が面白い保障はないわよ。むしろ、つまらないかも」
身も蓋もない。どんな話なのだろうか。
「魔法と呼ばれる力がある国での、物語よ」
それはありがちな。では登場人物は、魔法使い?
「女の子だから、魔女ね。自分の使い魔を求める、十五歳の女の子」
使い魔。それはそれは、またありがちな。
「そう、どこにでもある、ありふれた話よ。よければ、読んでみて」
時計を探して、辺りを見渡した。
そういえば、ここはどこだったか。
「お時間は、大丈夫かしら?
あなたが読もうとしている章は、
ライトノベルの一ページに換算すると、八十ページ程度になるわ。
最後まで通して読めば、おおよそ一時間ぐらいかしら。あくまで目安に考えて頂戴」
それぐらいなら、まぁ。しかし随分と具体的な。
ライトノベルというのが、そもそもよくわからない。
「気にしないで。さらに言えば、このあらすじも、本編とは関連性ないから」
……伏線?
「ないない。真面目にあらすじを考えていたら、何故かこんなになっちゃって。
あなたが誤解してしまうといけないから。念のためよ」
わかった。それではしばらく時間を潰していこう。
「ありがとう。ごゆっくりどうぞ。気にいって頂けると、幸いよ」