Neetel Inside 文芸新都
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オショーネシーへの考察
1.孤独への考察

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1.孤独への考察
 
目の前にある2つの棺おけを見ても、未だに信じることができなかった。
棺おけの中の死体はまるで眠っているようだったし、それについ一昨日まで動いていた人間だったからだ。
誰かの小説の一節を思い出した。

『彼女はあっという間にしんで、あっというまに焼かれてしまった』

あっという間に死んでしまった私の家族は、これからあっという間に焼かれるのだろう。


 4日前から、私たちは伊豆へ旅行に行っていた。
父が職場で、あまったからと3枚分旅行ツアーのチケットをもらってきたのだ。
チケットを渡した父の部下は、私にすみません、すみませんと言ってきた。彼に罪はない。
伊豆温泉旅行2日間ツアーのたび。チケットにはそう書いてあった。
伊豆は、特に何もないところだった。
観光地にもかかわらず、あまり特徴が見当たらなかった。
正直に言えば、がっかりした。
私たちは、そこで温泉を満喫した。というよりも、温泉以外することがなかったのだ。
旅館では宴会が催され、料理はそれなりに美味しかった。
酔っ払った男性が裸になって踊りだしたのをよく覚えている。平穏だった。

帰りに事故は起きた。ツアーが終了し、観光バスで駅まで送ってもらう時だった。
私は、前の座席にいる両親に今回の旅行がいかにすばらしいものであったかを力説していた。
父は温泉しかなかったけどな、と言い、母は裸踊りが面白かったと言った。
こんな会話が最後になるんだったらお礼を言っておけばよかったと後悔している。

信号が青になり、交差点に進入する。左から急にブレーキ音がしたかと思うと私のすぐ目の前に鉄骨があった。父と母はいなくなっていた。


同じバスで死んだのは父と母だけだった。事故の詳細は、まだよくわからない。
警察の人は、トラックにつまれていた鉄骨がブレーキの衝撃で荷台から飛んで父と母の頭を強打したという。
なんで死体が無傷なのか、検死の人が不思議がっていたと警察の人が言った。
 それ以上は何も言わなかった。私には親戚がいない。完全に孤独の身となった私のことを察してくれたのだろうと思う。
棺の中の父に話しかけてみた。元気? 返事はない。


高校の担任が、大丈夫かと聞いた。大丈夫なわけがない。
気の毒にね、大丈夫かしら。葬儀に来た母の友人が後ろでつぶやいている。
担任がおい、大丈夫かと肩を揺さぶった。担任の顔を見つめて、しばらくしてようやく声を出すことができた。


「父と母の死体見ましたか? すごいきれいですよね、鉄骨が直撃したのに。運がいいんだか悪いんだか」


半ば自嘲気味に言った私の肩を、担任は優しく抱いてくれた。
『孤独は牢獄のようなものだ』あの小説の一節を思い出す。


一人になった私は、牢獄の隅でうずくまっていた。

       

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