Neetel Inside 文芸新都
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ある阿呆
♯2

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 2007年6月15日。

 携帯のアラームがなっている。
 何の変哲も無い冷たい機械音、この「ソ」の音が朝の弱い僕にとって、世の中で一番嫌いな音だ。この「ソ」は僕を憂鬱な気持ちへといざなってくれるし、これくらいの音で起きないくらい図太い性格ならいいのだが、どちらかというと神経質に近い僕は彼によって現実へと追いやられる。
 与えられた仕事を至極的確にそして、迅速に遂行することができさぞかし彼も満足感に浸っているだろう。
 清々しい朝なんておもったことは一度も無い。今日は昨日少し飲み過ぎたアルコールに酔い頭の中では血液が脈打っている。

 今日の始まりも最悪だ。



 強い尿意を感じたため、二度寝することをとりあえず諦めトイレへ向かう。
 トイレは離れにしかないため、部屋の扉を開け古い木造建築特有のギシギシという床の音を響かせながら、居間を通り抜け、油の染み付いたせまっくるしい台所へと進む。
 そして、扉を開けスリッパを履き庭へと出る。

 庭には、1本の大きな枇杷の木が立っている。子供の頃、好きだった枇杷をなんとなく食べ終わった後に種を植えたら、見る見る間に成長していき僕の身長を追い抜かして立派な大木となった。しかし、いまだに実を結んだことはない。

 いつも通りの風景が目の前に広がるはずだったのだが、外へと出た瞬間に周りをとりまく空気に妙な違和感を感じた。
 フッと、庭の端にそびえる枇杷の木に目を向ける。

 (ソレ)がそこに突っ立ていた。

 (ソレ)を見た瞬間、不思議な気持ちがした。
 死というものを考えたときに輪廻がなければその瞬間に無になると考え眠れなくなったときのような。
 好きで好きでたまらなかった女の子の彼氏にその子との性行為をおこなったという話を聞かされたときの胸の痛みのような。
 ライブ中に盛り上がって最高のエクスタシーと虚無感を同時に感じているときのような。
 そんな、いろいろな自分の感情の端々をでっかい寸胴鍋にいれてムリヤリ混ぜ合わせたような感覚に襲われた。
 ただただ、いままでに感じたことのあるような感覚なのだが、それを同時に感じているためひどく錯乱した。
 いや、むしろどこかで感じたことのある懐かしいものだったのだから冷静だったのかもしれない。
 夢の続きを見ているのか、昨日飲み過ぎた酒が幻覚をみせているのか、頭が単純にいかれちまったのか、何がなんだかわからなかった。

 しかし、はっきりと(ソレ)はここに佇んでいた。枇杷の木の下で。


 

       

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