セーブストーン 1 2
淳司(あつし)の場合 1
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-1
『あの瞬間に戻りたい』
紅黒いものが染み出していく――彼の手が冷たくなっていく。
大型トラックの走り去った路面に転がったまま、彼は苦痛にあえいでいた。
このままだと彼は死ぬ。確実に、命がなくなる。
救急車も間に合いそうにない。
せっかく…成功したのに。
やっと…初デートまでできたのに。
先ほど見たばかりの、あの笑顔がまぶたに浮かぶ。
できるなら。もしできるなら。
『あの瞬間に戻りたい……』
それは、ほんの数分前のことだった。
「楽しかったな!」
日暮れ時。いつもより一本駅よりの道で。
彼は彼女と、一緒に歩いていた。
彼はいっぱいの笑顔だ。
「うん!」
彼女もにっこり笑っている。
「あそこにはなんどか行ってるけど、今日が一番楽しかったわ!」
「俺も!」
――ああ、幸せそうだな――
胸を満たす幸福感。
オレは思わず、きのうのことを思い出していた。
そう…きのう。
胸を満たす幸福感のただなかで、オレはフシギな存在とであったのだ。
いつもより、すこし早く起きてしまったオレは、制服に着替えてしまうととなんともなしにベランダに出ていた。
ここからは“合流地点”が見える。
家を出て登校ルートをすこしゆくと、ひとつの角がある。
ここをすぎてしばらくすると、あいつが小走りで追いついてくるのだ。
あいつ―― 勇(いさみ)。
幼なじみでクラスメイト…というより、物心ついていらいのクラスメイトという腐れ縁だ。
部活も同じ文芸部。
現在、やつは文芸部で一緒になった女子に告白すべく“パラメータ上げ”に励み、オレはそれを応援している。
やつの想い人の名は、西崎みすず。
文武両道で可愛くて、しかし文芸部員と思えぬほど活発で熱血。
トレードマークの大きいリボンをはためかせ、いつも一生懸命走り回っている彼女はみんなの人気者だ。
(もちろんオレも彼女を好きだ。
恋愛感情ではなく、仲間としてだけど、彼女は最高の仲間のひとりだ。
最高の仲間のいまひとりが勇のやつであるのは、照れくさいのでナイショだ。特に本人には。)
そんな彼女につりあう存在になろうってんで、苦節数ヶ月間、やつは必死に勉強し、スポーツに励み、部活もがんばった。
そんなやつを、彼女も憎からず思っているのを俺は知っている。
ふたりが恋人同士になるのはもはや時間の問題だった。
大事な仲間たちがしあわせになるのは、オレにとってはほんとうにうれしいことだ。
“まんいちオレがいなくなっても、ふたりはこれで、大丈夫になる。”
オレは青空に向けてのびをした。
いまオレは、すごく晴れやかで安らかで――シアワセな気持ちだ。
これがゲームなら、絶対セーブするだろうな。
「…セーブできたら、な」
「できますよぉ♪」
「え?!」
そのとき横合いから、いきなり女の子の声。
オレはとりあえず声のした方を見た。
するとそこにはティンカーベル(の親戚みたいの…つまりいわゆる妖精ってイメージの少女)が浮かんでいた。
「え…妖…精?」
「はーいだいたい大正解です~☆」
そうのたまったティンカーベル(仮)は、どっからかとりだした応援セットで“どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~”をやらかした(笑)。
「はじめましてアツシくん。あたしはアプリコットっていいますぅ。運命向上委員会セーブストーン普及課副課長代理。でもでも親しみを込めてプリカちゃん☆って呼ぶのも可ですぅ♪」
「……はぁ」
(ほかにもいろいろとツッコミどころは満載だけど)なんでアプリコットでプリカなんだろう。まあいいや。
彼女は派手に見得を切りながらこういった。
「あたしがアナタの前に現れた理由はただひとつ!!
そこにセーブを求める人がいるから!!
というわけで運命向上委員会開発・セーブのできるマル秘アイテム『セーブストーン』をアナタにお売りいたします!!
定価はその時点での全財産、5926円!
たったそれだけでやり直しのきく安心な未来がアナタのものに!!
いかがですかアツシくん?!」
「試してみてもいいかな」
「もちのろんですう!」
そういうと彼女はどこからか、紺色のビー玉を取り出した。
「ここのちょっと銀色になってる部分に指を置いて念じればぁ、セーブロードができるんですよぉ」
「なるほど――“セーブ”」
オレはさっそくそうしてみた。
手の中のビーダマは一瞬青白い光を放つ。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。だいじに使って下さいねぇ。」
「なるほどね。それじゃ試すね――“ロード”」
オレは速攻ロードをこころみた。
すると手の中のビーダマは一瞬黄色っぽい光を放つ。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と、プリカが数秒前のセリフを繰り返しはじめた――予想通り。
どうやら成功、これはホンモノであるらしい。
「上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。だいじに使って下さいねぇ。…ってこれ一回言いましたよね」
え?!
「ふふふおどろいてますねぇ。大丈夫失敗したわけじゃないんですぅ。
データロードしてもその間の記憶は世界中の全員に残るんですよぉ。
まっセーブストーンのこと知らない人は、予知夢マボロシでじゃびゅ見たかな~って思うだけなんでナンでもないんですけど、知ってるあなたは過去のっていうか未来の失敗を覚えててやりなおすなんてこともできるんですぅ。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
なんだかすごいんだな。
でもこれでどうやらこれがホンモノらしい、ということはわかった。
「いちおーワレモノですからぁ、お取り扱いには注意してくださいねぇ。故障以外で返品交換はできませんからぁ。
アフターさーびすはセーブストーンを額に当ててぇあたしを呼んでくれれば24時間いつでもOKですぅ」
「ありがとう。それじゃこれ、いただくよ。
でもお金をどこに入れるの?」
それこそオレのさいふに入ってしまいそうな彼女が、これだけの現金をいったいどう輸送するのだろう。
「その点はご心配なくぅ。
魔法でしゅわっと! はいいただきました」
念のためポケットから財布を出してみると、あ、お金はなくなっている。
「…すごい」
「優しくて紳士的なアツシ君にはおまけしてあげたいけど、規定だから許してくださいね。
あふたーさーびすは末永くがっちりばっちりやらせていただきますので☆」
「よろしくね、プリカ。
それじゃオレ、ガッコあるからもう行くね。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ってはじめてでしたっけ☆ やーんあたしったらはじめてなんて☆☆」
ひとりかわいらしく盛り上がってから、彼女はかききえた。
もうそろそろいいころあいだろう。オレは家の中に入った。
淳司(あつし)の場合 1-1
『あの瞬間に戻りたい』
紅黒いものが染み出していく――彼の手が冷たくなっていく。
大型トラックの走り去った路面に転がったまま、彼は苦痛にあえいでいた。
このままだと彼は死ぬ。確実に、命がなくなる。
救急車も間に合いそうにない。
せっかく…成功したのに。
やっと…初デートまでできたのに。
先ほど見たばかりの、あの笑顔がまぶたに浮かぶ。
できるなら。もしできるなら。
『あの瞬間に戻りたい……』
それは、ほんの数分前のことだった。
「楽しかったな!」
日暮れ時。いつもより一本駅よりの道で。
彼は彼女と、一緒に歩いていた。
彼はいっぱいの笑顔だ。
「うん!」
彼女もにっこり笑っている。
「あそこにはなんどか行ってるけど、今日が一番楽しかったわ!」
「俺も!」
――ああ、幸せそうだな――
胸を満たす幸福感。
オレは思わず、きのうのことを思い出していた。
そう…きのう。
胸を満たす幸福感のただなかで、オレはフシギな存在とであったのだ。
いつもより、すこし早く起きてしまったオレは、制服に着替えてしまうととなんともなしにベランダに出ていた。
ここからは“合流地点”が見える。
家を出て登校ルートをすこしゆくと、ひとつの角がある。
ここをすぎてしばらくすると、あいつが小走りで追いついてくるのだ。
あいつ―― 勇(いさみ)。
幼なじみでクラスメイト…というより、物心ついていらいのクラスメイトという腐れ縁だ。
部活も同じ文芸部。
現在、やつは文芸部で一緒になった女子に告白すべく“パラメータ上げ”に励み、オレはそれを応援している。
やつの想い人の名は、西崎みすず。
文武両道で可愛くて、しかし文芸部員と思えぬほど活発で熱血。
トレードマークの大きいリボンをはためかせ、いつも一生懸命走り回っている彼女はみんなの人気者だ。
(もちろんオレも彼女を好きだ。
恋愛感情ではなく、仲間としてだけど、彼女は最高の仲間のひとりだ。
最高の仲間のいまひとりが勇のやつであるのは、照れくさいのでナイショだ。特に本人には。)
そんな彼女につりあう存在になろうってんで、苦節数ヶ月間、やつは必死に勉強し、スポーツに励み、部活もがんばった。
そんなやつを、彼女も憎からず思っているのを俺は知っている。
ふたりが恋人同士になるのはもはや時間の問題だった。
大事な仲間たちがしあわせになるのは、オレにとってはほんとうにうれしいことだ。
“まんいちオレがいなくなっても、ふたりはこれで、大丈夫になる。”
オレは青空に向けてのびをした。
いまオレは、すごく晴れやかで安らかで――シアワセな気持ちだ。
これがゲームなら、絶対セーブするだろうな。
「…セーブできたら、な」
「できますよぉ♪」
「え?!」
そのとき横合いから、いきなり女の子の声。
オレはとりあえず声のした方を見た。
するとそこにはティンカーベル(の親戚みたいの…つまりいわゆる妖精ってイメージの少女)が浮かんでいた。
「え…妖…精?」
「はーいだいたい大正解です~☆」
そうのたまったティンカーベル(仮)は、どっからかとりだした応援セットで“どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~”をやらかした(笑)。
「はじめましてアツシくん。あたしはアプリコットっていいますぅ。運命向上委員会セーブストーン普及課副課長代理。でもでも親しみを込めてプリカちゃん☆って呼ぶのも可ですぅ♪」
「……はぁ」
(ほかにもいろいろとツッコミどころは満載だけど)なんでアプリコットでプリカなんだろう。まあいいや。
彼女は派手に見得を切りながらこういった。
「あたしがアナタの前に現れた理由はただひとつ!!
そこにセーブを求める人がいるから!!
というわけで運命向上委員会開発・セーブのできるマル秘アイテム『セーブストーン』をアナタにお売りいたします!!
定価はその時点での全財産、5926円!
たったそれだけでやり直しのきく安心な未来がアナタのものに!!
いかがですかアツシくん?!」
「試してみてもいいかな」
「もちのろんですう!」
そういうと彼女はどこからか、紺色のビー玉を取り出した。
「ここのちょっと銀色になってる部分に指を置いて念じればぁ、セーブロードができるんですよぉ」
「なるほど――“セーブ”」
オレはさっそくそうしてみた。
手の中のビーダマは一瞬青白い光を放つ。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。だいじに使って下さいねぇ。」
「なるほどね。それじゃ試すね――“ロード”」
オレは速攻ロードをこころみた。
すると手の中のビーダマは一瞬黄色っぽい光を放つ。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と、プリカが数秒前のセリフを繰り返しはじめた――予想通り。
どうやら成功、これはホンモノであるらしい。
「上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。だいじに使って下さいねぇ。…ってこれ一回言いましたよね」
え?!
「ふふふおどろいてますねぇ。大丈夫失敗したわけじゃないんですぅ。
データロードしてもその間の記憶は世界中の全員に残るんですよぉ。
まっセーブストーンのこと知らない人は、予知夢マボロシでじゃびゅ見たかな~って思うだけなんでナンでもないんですけど、知ってるあなたは過去のっていうか未来の失敗を覚えててやりなおすなんてこともできるんですぅ。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
なんだかすごいんだな。
でもこれでどうやらこれがホンモノらしい、ということはわかった。
「いちおーワレモノですからぁ、お取り扱いには注意してくださいねぇ。故障以外で返品交換はできませんからぁ。
アフターさーびすはセーブストーンを額に当ててぇあたしを呼んでくれれば24時間いつでもOKですぅ」
「ありがとう。それじゃこれ、いただくよ。
でもお金をどこに入れるの?」
それこそオレのさいふに入ってしまいそうな彼女が、これだけの現金をいったいどう輸送するのだろう。
「その点はご心配なくぅ。
魔法でしゅわっと! はいいただきました」
念のためポケットから財布を出してみると、あ、お金はなくなっている。
「…すごい」
「優しくて紳士的なアツシ君にはおまけしてあげたいけど、規定だから許してくださいね。
あふたーさーびすは末永くがっちりばっちりやらせていただきますので☆」
「よろしくね、プリカ。
それじゃオレ、ガッコあるからもう行くね。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ってはじめてでしたっけ☆ やーんあたしったらはじめてなんて☆☆」
ひとりかわいらしく盛り上がってから、彼女はかききえた。
もうそろそろいいころあいだろう。オレは家の中に入った。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-2
『二回目』
その日、勇(いさみ)はみすずに告白。
ふたりは恋人同士になったのだ。
その翌日、つまり今日――が初デート。
ふたりは駅向こうの遊園地にいって盛り上がった、ようだ。
(ようだ、というのは…そこまでのぞきにいくほど、オレだってヤボじゃないからだ。
オレが彼らが帰る時間帯にふたりの帰路にいたのは、単にヤボ用と偶然のせいである。念のため。)
さて、しばしオレが回想にふけっていると、その間にふたりは別れを告げたようだ。
みすずは角を曲がったらしくもう見えず、勇だけがこっちにむけて歩いてくる。
よし、にやけてるにやけてる。
ここはひとつ、ひやかしてやれ(笑)
オレはひょいとやつの前に飛び出した。
「危ない!!」
しかしやつは、いきなり叫んでおれをつきとばした。
なに? なんなんだ??
クラクション、飛んだ視界、鈍い物音、肩と腰の痛み、アスファルトの感触。
めまいをこらえ、身を起こすとそこには、血を流して倒れているやつがいた。
紅黒いものが染み出していく――やつの手が冷たくなっていく。
大型トラックの走り去った路面に転がったまま、勇は苦痛にあえいでいた。
このままだと彼は死ぬ。確実に、命がなくなる。
救急車も間に合いそうにない。
って、冗談だろ?!
勇…やっと両思いになれたんだぞ。
初デートだってできたんだぞ。
しかもそいつはついさっきのこと。
こんなのってあるか?! あってたまるか!!
どうにかしなくちゃ。どうにか……
そうだ。
オレはポケットを探った。
あった。
濃紺色の、魔法のビーダマ――セーブストーン。
どうしようもなく震える指を、銀色の部分に置く。
頼む。
オレたちを戻してくれ。
なにもかもがシアワセだった、あの瞬間に!!
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。肩と腰の痛みは消えてなくなり、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの3回目ですねぇ。なんかすっごい音してましたけどひょっとして事故ったりしてました? よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………勇は?」
「もちのろん! 助かってます、というかまだ事故っていないですね、そもそも。
ウチでのんびり寝てますよ、今頃は」
そうか、成功したんだ。
勇、助かったんだ。
と思ってると、彼女――プリカが小さな手で、ぺしぺしとオレのほっぺたをはたいてきた。
「んもーぼーぜんとしてない!!
今度はちゃんと気をつけてくださいねっ。
まったくも~、世話が焼けるんだからぁ」
「ありがとう…プリカ」
プリカのハイテンションでなんとか自分を取り戻したオレは、彼女にお礼を言った。
彼女の売ってくれたセーブストーンのおかげだ。
つまり彼女は勇の命の恩人に等しい。
「え…ああたしじゃないですぅ。せーぶしといて、ちゃんととっさにロードできた、アツシくんのおかげですよぉ。
これからもその友情、大事にしてくださいね♪
そうそう、念のため申し上げますと、今は月曜の朝。時間が戻ってますからお気をつけてくださいね。それじゃしつれいします♪」
彼女はかききえ、オレは家に入ることにした。
向こうにみえる、あの角をすぎるとあいつが小走りで追いついてくる――はずだ。
はたして勇はいつもどおり、オレの肩を叩いて「おっす」と言った。
その日、勇はみすずに告白。
ふたりは恋人同士になったのだ。
その翌日、つまり今日――は初デート。
(オレ的には、二回目だけど…。)
ふたりは駅向こうの遊園地にいって盛り上がった、ようだ。
しばしオレが回想にふけっていると、その間にふたりは別れを告げたらしい。
みすずは角を曲がったらしくもう見当たらず、勇はこっちにむけて歩いてくる。
おお、にやけてるにやけてる。
ひやかしてやりたいのはやまやまだけど――
ここで飛び出すと危ないのをオレは知っている。
のでここは一旦、そこの角を曲がって待ちぶせだ(笑)
待つこと数秒。
射程範囲に入った!
「勇♪」
しかし驚かされたのはオレのほうだった。
「危ない!!」
やつが、いきなり叫んでオレをつきとばした。
なに? なんなんだ??
クラクション、飛んだ視界、鈍い物音、肩と腰の痛み、アスファルトの感触。
めまいをこらえ、身を起こすとそこには、血を流して倒れているやつがいた。
紅黒いものが染み出していく――彼の手が冷たくなっていく。
大型トラックの走り去った路面に転がったまま、彼は苦痛にあえいでいた。
このままだと彼は死ぬ。確実に、命がなくなる。
救急車も間に合いそうにない。
そんな――そんな。
また繰り返しだなんて!
だめだそんなの。
戻さなくちゃ。
オレは震える手でポケットを探った。
あった。
濃紺色の、魔法のビーダマ――セーブストーン。
「そ…れ…?」
勇が、前よりはダメージが小さかったのだろう、かすかな声で問いながらセーブストーンを見る。
「だいじょぶだ。いまこれで戻すから…」
どうしようもなく震える指を、銀色の部分に置く。
その瞬間。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
オレはさっきの角にいた。
そして勇が歩いてきた。
ああ、時間、もどったのか……
ここで勇に声をかけるのはキケンなんだよな。ヤツをからかうのはあきらめとこう(明日まで)。
と思ったら、勇はなんと角を曲がってこっちに来た。
「あ…淳司!」
勇はオレの腕をつかんだ。
「いまの! おぼえてるだろ淳司!!
何が起きたんだ一体!!」
「勇……」
淳司(あつし)の場合 1-2
『二回目』
その日、勇(いさみ)はみすずに告白。
ふたりは恋人同士になったのだ。
その翌日、つまり今日――が初デート。
ふたりは駅向こうの遊園地にいって盛り上がった、ようだ。
(ようだ、というのは…そこまでのぞきにいくほど、オレだってヤボじゃないからだ。
オレが彼らが帰る時間帯にふたりの帰路にいたのは、単にヤボ用と偶然のせいである。念のため。)
さて、しばしオレが回想にふけっていると、その間にふたりは別れを告げたようだ。
みすずは角を曲がったらしくもう見えず、勇だけがこっちにむけて歩いてくる。
よし、にやけてるにやけてる。
ここはひとつ、ひやかしてやれ(笑)
オレはひょいとやつの前に飛び出した。
「危ない!!」
しかしやつは、いきなり叫んでおれをつきとばした。
なに? なんなんだ??
クラクション、飛んだ視界、鈍い物音、肩と腰の痛み、アスファルトの感触。
めまいをこらえ、身を起こすとそこには、血を流して倒れているやつがいた。
紅黒いものが染み出していく――やつの手が冷たくなっていく。
大型トラックの走り去った路面に転がったまま、勇は苦痛にあえいでいた。
このままだと彼は死ぬ。確実に、命がなくなる。
救急車も間に合いそうにない。
って、冗談だろ?!
勇…やっと両思いになれたんだぞ。
初デートだってできたんだぞ。
しかもそいつはついさっきのこと。
こんなのってあるか?! あってたまるか!!
どうにかしなくちゃ。どうにか……
そうだ。
オレはポケットを探った。
あった。
濃紺色の、魔法のビーダマ――セーブストーン。
どうしようもなく震える指を、銀色の部分に置く。
頼む。
オレたちを戻してくれ。
なにもかもがシアワセだった、あの瞬間に!!
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。肩と腰の痛みは消えてなくなり、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの3回目ですねぇ。なんかすっごい音してましたけどひょっとして事故ったりしてました? よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………勇は?」
「もちのろん! 助かってます、というかまだ事故っていないですね、そもそも。
ウチでのんびり寝てますよ、今頃は」
そうか、成功したんだ。
勇、助かったんだ。
と思ってると、彼女――プリカが小さな手で、ぺしぺしとオレのほっぺたをはたいてきた。
「んもーぼーぜんとしてない!!
今度はちゃんと気をつけてくださいねっ。
まったくも~、世話が焼けるんだからぁ」
「ありがとう…プリカ」
プリカのハイテンションでなんとか自分を取り戻したオレは、彼女にお礼を言った。
彼女の売ってくれたセーブストーンのおかげだ。
つまり彼女は勇の命の恩人に等しい。
「え…ああたしじゃないですぅ。せーぶしといて、ちゃんととっさにロードできた、アツシくんのおかげですよぉ。
これからもその友情、大事にしてくださいね♪
そうそう、念のため申し上げますと、今は月曜の朝。時間が戻ってますからお気をつけてくださいね。それじゃしつれいします♪」
彼女はかききえ、オレは家に入ることにした。
向こうにみえる、あの角をすぎるとあいつが小走りで追いついてくる――はずだ。
はたして勇はいつもどおり、オレの肩を叩いて「おっす」と言った。
その日、勇はみすずに告白。
ふたりは恋人同士になったのだ。
その翌日、つまり今日――は初デート。
(オレ的には、二回目だけど…。)
ふたりは駅向こうの遊園地にいって盛り上がった、ようだ。
しばしオレが回想にふけっていると、その間にふたりは別れを告げたらしい。
みすずは角を曲がったらしくもう見当たらず、勇はこっちにむけて歩いてくる。
おお、にやけてるにやけてる。
ひやかしてやりたいのはやまやまだけど――
ここで飛び出すと危ないのをオレは知っている。
のでここは一旦、そこの角を曲がって待ちぶせだ(笑)
待つこと数秒。
射程範囲に入った!
「勇♪」
しかし驚かされたのはオレのほうだった。
「危ない!!」
やつが、いきなり叫んでオレをつきとばした。
なに? なんなんだ??
クラクション、飛んだ視界、鈍い物音、肩と腰の痛み、アスファルトの感触。
めまいをこらえ、身を起こすとそこには、血を流して倒れているやつがいた。
紅黒いものが染み出していく――彼の手が冷たくなっていく。
大型トラックの走り去った路面に転がったまま、彼は苦痛にあえいでいた。
このままだと彼は死ぬ。確実に、命がなくなる。
救急車も間に合いそうにない。
そんな――そんな。
また繰り返しだなんて!
だめだそんなの。
戻さなくちゃ。
オレは震える手でポケットを探った。
あった。
濃紺色の、魔法のビーダマ――セーブストーン。
「そ…れ…?」
勇が、前よりはダメージが小さかったのだろう、かすかな声で問いながらセーブストーンを見る。
「だいじょぶだ。いまこれで戻すから…」
どうしようもなく震える指を、銀色の部分に置く。
その瞬間。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
オレはさっきの角にいた。
そして勇が歩いてきた。
ああ、時間、もどったのか……
ここで勇に声をかけるのはキケンなんだよな。ヤツをからかうのはあきらめとこう(明日まで)。
と思ったら、勇はなんと角を曲がってこっちに来た。
「あ…淳司!」
勇はオレの腕をつかんだ。
「いまの! おぼえてるだろ淳司!!
何が起きたんだ一体!!」
「勇……」
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-3
『勇』
ここから一番近いのは神社だった。
勇がみすずを呼び出して、告白した神社。
オレはそこで、キセキの種明かしをした。
「へーすげーな……セーブストーンか。
オレも今晩アタリせーぶしてーとか夜空に叫んでみっかな(笑)
ともかくありがとな。お前のおかげで助かった。
やっぱ淳司は頼りになるぜ!」
勇はそういうとにっこりわらった。
――夕日を受けて、勇の髪が光ってる。
笑顔はもっと光ってる――
不意に気がついた。
この立ち位置。
勇が大鳥居を背に――オレがその正面に立つ。
この位置関係、きのうと同じじゃないか。
きのう――勇がみすずに告白したとき。
実は昨日、心配になって見に来てしまったのだ。
勇がみすずの下駄箱にらぶれたぁをいれるとこ。
そして神社で告白するとこ。
俺が月曜朝のデータをロードしたせいで、これらはすべて“やりなおし”という事態になってしまった。
ちょっとドジな勇が、ちゃんともう一度やれるかどうか心配で…
だから知っているのだ。
勇はそこに立って、みすずに告白したのだ。
みすずはここに立って、勇の告白を聞いていたのだ。
あのときみすずがみていたであろうものを、今オレはみている。
夕日を受けて、勇の髪が光ってる。
笑顔はもっと光ってる。
“――なんだかまるでこれって――”
って、何を考えているんだオレ。
いやいや、そんなアレな。こいつはホントにただの悪友だしっ。ていうかこいつはみすずのものなんだしっ。
『そうこいつはみすずのものだ』
『オレがいなくなって、そしたらこいつを、みすずがまもる』
そのときずきんと胸が痛んだ。
しまった、今日はちょっと無理をしてしまったらしい。
予定の日まで、入院はしたくない。
まだ入院なんか、したくない。
一ヵ月後。病院の門をくぐったら――
『おれはもう帰ってこれないかもしれない』
「――し。淳司!!
お前大丈夫か?
ひょっとして、そいつ使うとなんかカラダに無理とかくるんじゃないか?」
「え……いや。そういうアレはなかったよ、うん」
気づくと勇がオレの肩を揺さぶっていた。
「だったらいいけど…ってお前熱あるんじゃないか?」
「えっ」
そのコトバと同時に額に手が触れる。
「だっだいじょうぶだからマジほんと」
オレはあわてて一歩後退。
至近距離、心臓に今は悪すぎる。
なんなんだよオレ。どうしちまったんだよ。
「まいっかとにかく帰ろうぜ。大事な親友に風邪なんかひかれちゃたまんねーからなっ」
「…ありがと」
オレたちは連れ立って神社を出た。
薄暗い道をふたりで歩く。
すぐとなりを勇が歩いている。
オレたちってけっこうくっついて歩いてたんだななんてことをなぜか思う。
何だかなあ……
やがていつもの分かれ道。
ここをまがってオレはウチへもどるのだ。
「あ、それじゃ…」
「淳司!!」
いきなり勇がオレの肩をつかんだ。
「な…」
白い光、飛んだ視界、クラクションにまじる鈍い物音、肩と腰の痛み、アスファルトの感触。
めまいをこらえ、身を起こすとそこには、血を流して倒れている勇がいた。
「あ……」
戻…さなきゃ。
オレは震える手でセーブストーンを取り出す。
「いま、もど、す……」
しかし勇は手を伸ばし、オレの手首をつかんだ。
「まて……
その、まえに…覚え…とけ…
おま…ぼーとし、すぎ……
つぎ、は」
勇は微笑んだ。
勇の手が路面に落ちた。
「勇――――!!」
どうして!!
どうしてどうして!!
オレは平気なんだぞ!! セーブストーンもってるんだから!!
なのになんでたすけるんだ!!
そのうえに忠告なんて――死んでしまうのに!!
「ばか…やろう…」
勇。ほんとにばかやろう。
いつもいつもこんなんばっかじゃないかおまえ。
「いまもどすからな…生き返れよ!」
たすけなきゃ。
こいつをたすけなきゃ。
失いたくない。
離れたくない……!!
オレは必死で勇のカラダを抱き起こして、そして。
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。肩と腰の痛みは消えてなくなり、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
ああ、成功したんだ。
プリカのハイテンションになんだか人心地がついた俺は大きくため息をついていた。。
「でも、ほんとによかったですね。
がんばってくださいね、アツシくん」
「ありがとうプリカ。
それじゃオレ、ガッコあるからもう行くね。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ああ毎度といえるこのシアワセ☆ やーんもーあたしったら☆☆」
ひとりかわいらしく盛り上がってから、彼女はかききえた。
もうそろそろいいころあいだろう。オレは家の中に入った。
淳司(あつし)の場合 1-3
『勇』
ここから一番近いのは神社だった。
勇がみすずを呼び出して、告白した神社。
オレはそこで、キセキの種明かしをした。
「へーすげーな……セーブストーンか。
オレも今晩アタリせーぶしてーとか夜空に叫んでみっかな(笑)
ともかくありがとな。お前のおかげで助かった。
やっぱ淳司は頼りになるぜ!」
勇はそういうとにっこりわらった。
――夕日を受けて、勇の髪が光ってる。
笑顔はもっと光ってる――
不意に気がついた。
この立ち位置。
勇が大鳥居を背に――オレがその正面に立つ。
この位置関係、きのうと同じじゃないか。
きのう――勇がみすずに告白したとき。
実は昨日、心配になって見に来てしまったのだ。
勇がみすずの下駄箱にらぶれたぁをいれるとこ。
そして神社で告白するとこ。
俺が月曜朝のデータをロードしたせいで、これらはすべて“やりなおし”という事態になってしまった。
ちょっとドジな勇が、ちゃんともう一度やれるかどうか心配で…
だから知っているのだ。
勇はそこに立って、みすずに告白したのだ。
みすずはここに立って、勇の告白を聞いていたのだ。
あのときみすずがみていたであろうものを、今オレはみている。
夕日を受けて、勇の髪が光ってる。
笑顔はもっと光ってる。
“――なんだかまるでこれって――”
って、何を考えているんだオレ。
いやいや、そんなアレな。こいつはホントにただの悪友だしっ。ていうかこいつはみすずのものなんだしっ。
『そうこいつはみすずのものだ』
『オレがいなくなって、そしたらこいつを、みすずがまもる』
そのときずきんと胸が痛んだ。
しまった、今日はちょっと無理をしてしまったらしい。
予定の日まで、入院はしたくない。
まだ入院なんか、したくない。
一ヵ月後。病院の門をくぐったら――
『おれはもう帰ってこれないかもしれない』
「――し。淳司!!
お前大丈夫か?
ひょっとして、そいつ使うとなんかカラダに無理とかくるんじゃないか?」
「え……いや。そういうアレはなかったよ、うん」
気づくと勇がオレの肩を揺さぶっていた。
「だったらいいけど…ってお前熱あるんじゃないか?」
「えっ」
そのコトバと同時に額に手が触れる。
「だっだいじょうぶだからマジほんと」
オレはあわてて一歩後退。
至近距離、心臓に今は悪すぎる。
なんなんだよオレ。どうしちまったんだよ。
「まいっかとにかく帰ろうぜ。大事な親友に風邪なんかひかれちゃたまんねーからなっ」
「…ありがと」
オレたちは連れ立って神社を出た。
薄暗い道をふたりで歩く。
すぐとなりを勇が歩いている。
オレたちってけっこうくっついて歩いてたんだななんてことをなぜか思う。
何だかなあ……
やがていつもの分かれ道。
ここをまがってオレはウチへもどるのだ。
「あ、それじゃ…」
「淳司!!」
いきなり勇がオレの肩をつかんだ。
「な…」
白い光、飛んだ視界、クラクションにまじる鈍い物音、肩と腰の痛み、アスファルトの感触。
めまいをこらえ、身を起こすとそこには、血を流して倒れている勇がいた。
「あ……」
戻…さなきゃ。
オレは震える手でセーブストーンを取り出す。
「いま、もど、す……」
しかし勇は手を伸ばし、オレの手首をつかんだ。
「まて……
その、まえに…覚え…とけ…
おま…ぼーとし、すぎ……
つぎ、は」
勇は微笑んだ。
勇の手が路面に落ちた。
「勇――――!!」
どうして!!
どうしてどうして!!
オレは平気なんだぞ!! セーブストーンもってるんだから!!
なのになんでたすけるんだ!!
そのうえに忠告なんて――死んでしまうのに!!
「ばか…やろう…」
勇。ほんとにばかやろう。
いつもいつもこんなんばっかじゃないかおまえ。
「いまもどすからな…生き返れよ!」
たすけなきゃ。
こいつをたすけなきゃ。
失いたくない。
離れたくない……!!
オレは必死で勇のカラダを抱き起こして、そして。
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。肩と腰の痛みは消えてなくなり、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
ああ、成功したんだ。
プリカのハイテンションになんだか人心地がついた俺は大きくため息をついていた。。
「でも、ほんとによかったですね。
がんばってくださいね、アツシくん」
「ありがとうプリカ。
それじゃオレ、ガッコあるからもう行くね。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ああ毎度といえるこのシアワセ☆ やーんもーあたしったら☆☆」
ひとりかわいらしく盛り上がってから、彼女はかききえた。
もうそろそろいいころあいだろう。オレは家の中に入った。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-4
『会えない、時間』
その日、勇(いさみ)はみすずに告白。
ふたりは恋人同士になったのだ。
その翌日、つまり今日――が初デート。
(オレ的には三回目だ……)
ふたりは駅向こうの遊園地にいって盛り上がった、ようだ。
しばしオレが回想にふけっていると、その間にふたりは別れを告げたらしい。
みすずは角を曲がったらしくもう見えず、勇はこっちにむけて歩いてくる。
おお、にやけてるにやけてる。
おもわずからかいたくなったけど――
『ダメだ』
へたに一緒に歩いてるとまたいつはねられるやら。
オレはとりあえず、家路をたどる勇を見守るだけにしておくことにした。
そのおかげか、無事勇は家につくことができたのだった。
オレはほっとため息をつく。
よし。セーブしとくか。
オレはセーブストーンを取り出すと銀色の部分に指を置き……
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
オレは、さっきの角にいた。
そして勇が歩いてきた。
え? 時間が、もどってる??
何を間違ったのか。一瞬ぼーぜんとしてしまうオレだが、ぼーぜんとはしていられない。
とにかくここで勇に声をかけるのはキケンなのだ。というか、気づかれたらたぶんまずい。
と思ったら、勇はなんと角を曲がってこっちに来た。
「おう…」
「来るな馬鹿!!」
だめなんだ一緒にいちゃ!
キケンなんだよ今日だけは!!
オレは叫ぶと逃げ出した。
しかしそれがよくなかった。
気がつくとすぐ前に巨大な車体。
オレの肩をつかむ感触。
これから起こるであろう事が走馬灯のように脳裏をよぎった。
そんなのダメだ。
オレはとっさにポケットに手を入れた。
戻れ――月曜日の朝に!!
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。肩をつかむ感触は消えてなくなり、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
ああ、成功したんだ。
プリカのハイテンションにようやく人心地がついた俺は大きくため息をついていた。。
「でも、ほんとによかったですね。
がんばってくださいね、アツシくん」
「ありがとうプリカ。
それじゃオレ、ガッコあるからもう行くね。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ああ毎度といえるこのシアワセ☆ やーんもーあたしったら☆☆」
ひとりかわいらしく盛り上がってから、彼女はかききえた。
もうそろそろいいころあいだろう。オレは家の中に入った。
その日、勇(いさみ)はみすずに告白。
ふたりは恋人同士になったのだ。
その翌日、つまり今日――が初デート。
オレ的には四回目だけど……
これまでのことでこりたオレは、外出せずにうちにいた。
気になる。すごく気になる。
けど、見に行くわけには行かない。読むともなしに本を読んだりして、ひたすらに時間を潰した。
そうしていると、ようやく窓の外が暗くなってきた。
横目でにらんでねばってねばって、すっかり暮れてしまうのを待つ。
なぜなら、そのころならいくらなんでも、勇は家についてるはずだから。
横目でにらんでねばってねばって…
そうしていると空はやっと夕陽の色を消し去った。
オレは階段を駆け下りる。
やっと、やっと、やつに会える。
やつの無事な顔を見て、セーブしよう。
オレは玄関を飛び出すと駆け足で勇のウチへと向かった。
まずはいつもの合流点をすぎ、太い道をまっすぐ。
次の角を左に曲がると……
そのときオレは凍りついた。
なんとやつはそこにいたのだ。
そしてやつには大型トラックがつっこもうとしている!!
うそだ、なんで!!
「やめろ――!!!!」
それから数秒間のことは覚えていない。
ただ、必死でオレはポケットに手を入れて………
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
ああ、成功したんだ。
プリカのハイテンションにようやく人心地がついた俺は大きくため息をついていた。
「でも、ほんとによかったですね。
がんばってくださいね、アツシくん」
「ありがとうプリカ…。
それじゃオレ、ガッコあるからもう行くね。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ああ毎度といえるこのシアワセ☆ やーんもーあたしったら☆☆」
ひとりかわいらしく盛り上がってから、彼女はかききえた。
もうそろそろいいころあいだろう。オレは家の中に入った。
果たして翌朝。
合流点をすぎるとあいつは追いついてきて「おす」とオレの肩をたたいた。
淳司(あつし)の場合 1-4
『会えない、時間』
その日、勇(いさみ)はみすずに告白。
ふたりは恋人同士になったのだ。
その翌日、つまり今日――が初デート。
(オレ的には三回目だ……)
ふたりは駅向こうの遊園地にいって盛り上がった、ようだ。
しばしオレが回想にふけっていると、その間にふたりは別れを告げたらしい。
みすずは角を曲がったらしくもう見えず、勇はこっちにむけて歩いてくる。
おお、にやけてるにやけてる。
おもわずからかいたくなったけど――
『ダメだ』
へたに一緒に歩いてるとまたいつはねられるやら。
オレはとりあえず、家路をたどる勇を見守るだけにしておくことにした。
そのおかげか、無事勇は家につくことができたのだった。
オレはほっとため息をつく。
よし。セーブしとくか。
オレはセーブストーンを取り出すと銀色の部分に指を置き……
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
オレは、さっきの角にいた。
そして勇が歩いてきた。
え? 時間が、もどってる??
何を間違ったのか。一瞬ぼーぜんとしてしまうオレだが、ぼーぜんとはしていられない。
とにかくここで勇に声をかけるのはキケンなのだ。というか、気づかれたらたぶんまずい。
と思ったら、勇はなんと角を曲がってこっちに来た。
「おう…」
「来るな馬鹿!!」
だめなんだ一緒にいちゃ!
キケンなんだよ今日だけは!!
オレは叫ぶと逃げ出した。
しかしそれがよくなかった。
気がつくとすぐ前に巨大な車体。
オレの肩をつかむ感触。
これから起こるであろう事が走馬灯のように脳裏をよぎった。
そんなのダメだ。
オレはとっさにポケットに手を入れた。
戻れ――月曜日の朝に!!
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。肩をつかむ感触は消えてなくなり、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
ああ、成功したんだ。
プリカのハイテンションにようやく人心地がついた俺は大きくため息をついていた。。
「でも、ほんとによかったですね。
がんばってくださいね、アツシくん」
「ありがとうプリカ。
それじゃオレ、ガッコあるからもう行くね。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ああ毎度といえるこのシアワセ☆ やーんもーあたしったら☆☆」
ひとりかわいらしく盛り上がってから、彼女はかききえた。
もうそろそろいいころあいだろう。オレは家の中に入った。
その日、勇(いさみ)はみすずに告白。
ふたりは恋人同士になったのだ。
その翌日、つまり今日――が初デート。
オレ的には四回目だけど……
これまでのことでこりたオレは、外出せずにうちにいた。
気になる。すごく気になる。
けど、見に行くわけには行かない。読むともなしに本を読んだりして、ひたすらに時間を潰した。
そうしていると、ようやく窓の外が暗くなってきた。
横目でにらんでねばってねばって、すっかり暮れてしまうのを待つ。
なぜなら、そのころならいくらなんでも、勇は家についてるはずだから。
横目でにらんでねばってねばって…
そうしていると空はやっと夕陽の色を消し去った。
オレは階段を駆け下りる。
やっと、やっと、やつに会える。
やつの無事な顔を見て、セーブしよう。
オレは玄関を飛び出すと駆け足で勇のウチへと向かった。
まずはいつもの合流点をすぎ、太い道をまっすぐ。
次の角を左に曲がると……
そのときオレは凍りついた。
なんとやつはそこにいたのだ。
そしてやつには大型トラックがつっこもうとしている!!
うそだ、なんで!!
「やめろ――!!!!」
それから数秒間のことは覚えていない。
ただ、必死でオレはポケットに手を入れて………
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
ああ、成功したんだ。
プリカのハイテンションにようやく人心地がついた俺は大きくため息をついていた。
「でも、ほんとによかったですね。
がんばってくださいね、アツシくん」
「ありがとうプリカ…。
それじゃオレ、ガッコあるからもう行くね。」
「は~い。
まいどありがとーございましたぁ~。ああ毎度といえるこのシアワセ☆ やーんもーあたしったら☆☆」
ひとりかわいらしく盛り上がってから、彼女はかききえた。
もうそろそろいいころあいだろう。オレは家の中に入った。
果たして翌朝。
合流点をすぎるとあいつは追いついてきて「おす」とオレの肩をたたいた。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-5
『キモチ』
尾行していくとやつは今度もうまくやった。
らぶれたぁもちゃんと入れて。告白も成功させた。
だがそのことは、今のオレにとっては不吉の前兆でしかなかった。
どうしよう。
このままだとあいつは明日にもデートに行って……
また事故にあうだろう。
どうすればそれを阻止できるんだ?
いっそのこと、オレが“ちゃんと”ひかれてしまえばいいのか?
ヘタをすればあと一ヶ月もないかもしれない生命なのだ。
“それで勇をたすけられるなら、それでもいいかも……”
それとも。
“この場でケガでもさせてデートにいけなくしてしまえば?”
告白を成功させたヨロコビでやつはぼーっとしている。
ちょうどオレはやつの後ろにいる。
つまり今なら、どうにでもできる。
カオも、見られずにやれるだろう……
しかしそのときオレは気づいた。
向こうの木の陰に誰かいる!
しかもそいつも勇を見ている。
このままだと危険だ。オレは急いで声をかけた。
「おい。
なーにこんなくっらいとこでひたってんだよ。
特定のシュミの奴が見てたらさらわれるぞおまえ」
「あいかわらず破壊されたツッコミをなさいますねあつしくん」
「おかげさまで」
フンイキは一気にほぐれ、木の影にいた人物はすっと立ち去った。
オレはほっとしながら、やつと家路をたどり始めた。
とはいっても、オレのアタマの中はぐるぐるしっぱなしだった。
いつもどおり漫才めいた会話をしながらも、どうしたらいいのか、そんな言葉ばかりが駆け回る。
いつもの分かれ道でやつと別れたけど、やつのことが頭を離れない。
オレはそっと引き返すと、やつをウチまで尾行することにした。
頭の片隅でなにやってんだ俺、という声はする。
でも、気になるんだ。
家に入るのだけでも見届けたいんだ。
角の向こうをのぞいたオレは、驚くべきものを見た。
「っていうか、セーブしてぇ~!!」
「できますよぉ♪」
「え゛?!」
なんと。
勇のまえにプリカがあらわれ。
(漫才全開のやり取りをしながらも)勇はセーブストーンを購入したのだった。
しかも。
やつは抜け目なくそいつを使い、直後自分を襲った交通事故を、見事なかったことにしたのだ(もちろんオレもとっさにロードしたのだけれど、同じその瞬間にやつもロードしたので結局、さっきに戻ったというわけだ)。
そうして無事に、家に入っていった。
そこまで見届けると、オレはおもわず電信柱にもたれていた。
“これでもう大丈夫だ”
これでもう、やつを見張り続けないでいい。
やつが交通事故で明日、死ぬことはもうなくなったのだ。
“これでいい。セーブしておこう”
オレは紺色のビー玉の、銀色の部分に指を置いて……
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして目の前にはプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………え」
オレはぼうぜんとしていた。
「間違えた……」
「え? どうしたんですかアツシくん??」
オレはなんということか、セーブしようと思ってロードしてしまった、らしい。
「セーブストーンは使い手の真意を汲み取って作動します。
誤操作というのはありえませんよ」
「そんな…オレはふたりが両想いになった、平和な今日をセーブしようと……」
「それはココロのどこかに、この結果へのわだかまりがあるんですね。
ときどき、あることです。
心当たりはありませんか?」
「わだかまり? 心当たり…?」
オレのまぶたに速攻うかんだのは、なんとあの光景だった。
『夕日を受けて、勇の髪が光ってる。
笑顔はもっと光ってる。』
“――なんだかまるでこれって――”
「…そんな」
オレは愕然とした。
「だってオレは…勇は…」
ありえないだろ、それは。
そうつぶやいてみるけれど、回想は止まらない。
至近距離、おでこに置かれた手、隣を歩くぬくもり――
肩をつかんだ、手首をつかんだ感触――
叫び声がオレをとめようとした。
かすれた声と死にそうな笑顔がオレに遺言を伝えた。
弾む声が、告白の成功を――
痛い。
『そうですよ。そうなんですよあつしくん。おかげさまでうまくいっちゃったんですよ』
胸が痛い。
『そうですよ。そうなんですよあつしくん。おかげさまで…』
「オレはなにもしてない……」
「アツシくん?」
『そうですよ。そうなんですよあつしくん…』
「違う…」
そうだ。
オレはこんなことのぞんじゃいない。
「いやだ」
オレはそれをはっきりと口に出した。
「オレは…こんなの、いやだ」
みすずのことは、すきだ。
でも。
「勇を、とられてしまうのは、オレはいやだ!」
「……そうですか」
静かな声が聞こえた。
見るとプリカが、神妙な顔をしてうなずいていた。
「わたくしたちには、お客様の行動の自由を制限する権利や、義務はございません。
必要に応じアドヴァイスを差し上げることはあっても」
「あ、…」
いま、オレってばかなりすごいことを。
そしてそれはプリカにばっちり聞かれているし!!
「あの、いや、その」
「あたしに気を使われることはありませんよ、アツシくん。
むしろ優しくて素敵なアツシくんのシアワセのためなら、このプリカ、はりきって応援しちゃいたいキモチ満々なんですから!!
それがたとえ、どんなカタチ、どんなものであったとしても」
「プリカ……」
プリカのくれたアドヴァイス、それは。
「かなり地味な方法ですが…
今日をくりかえしてください」
淳司(あつし)の場合 1-5
『キモチ』
尾行していくとやつは今度もうまくやった。
らぶれたぁもちゃんと入れて。告白も成功させた。
だがそのことは、今のオレにとっては不吉の前兆でしかなかった。
どうしよう。
このままだとあいつは明日にもデートに行って……
また事故にあうだろう。
どうすればそれを阻止できるんだ?
いっそのこと、オレが“ちゃんと”ひかれてしまえばいいのか?
ヘタをすればあと一ヶ月もないかもしれない生命なのだ。
“それで勇をたすけられるなら、それでもいいかも……”
それとも。
“この場でケガでもさせてデートにいけなくしてしまえば?”
告白を成功させたヨロコビでやつはぼーっとしている。
ちょうどオレはやつの後ろにいる。
つまり今なら、どうにでもできる。
カオも、見られずにやれるだろう……
しかしそのときオレは気づいた。
向こうの木の陰に誰かいる!
しかもそいつも勇を見ている。
このままだと危険だ。オレは急いで声をかけた。
「おい。
なーにこんなくっらいとこでひたってんだよ。
特定のシュミの奴が見てたらさらわれるぞおまえ」
「あいかわらず破壊されたツッコミをなさいますねあつしくん」
「おかげさまで」
フンイキは一気にほぐれ、木の影にいた人物はすっと立ち去った。
オレはほっとしながら、やつと家路をたどり始めた。
とはいっても、オレのアタマの中はぐるぐるしっぱなしだった。
いつもどおり漫才めいた会話をしながらも、どうしたらいいのか、そんな言葉ばかりが駆け回る。
いつもの分かれ道でやつと別れたけど、やつのことが頭を離れない。
オレはそっと引き返すと、やつをウチまで尾行することにした。
頭の片隅でなにやってんだ俺、という声はする。
でも、気になるんだ。
家に入るのだけでも見届けたいんだ。
角の向こうをのぞいたオレは、驚くべきものを見た。
「っていうか、セーブしてぇ~!!」
「できますよぉ♪」
「え゛?!」
なんと。
勇のまえにプリカがあらわれ。
(漫才全開のやり取りをしながらも)勇はセーブストーンを購入したのだった。
しかも。
やつは抜け目なくそいつを使い、直後自分を襲った交通事故を、見事なかったことにしたのだ(もちろんオレもとっさにロードしたのだけれど、同じその瞬間にやつもロードしたので結局、さっきに戻ったというわけだ)。
そうして無事に、家に入っていった。
そこまで見届けると、オレはおもわず電信柱にもたれていた。
“これでもう大丈夫だ”
これでもう、やつを見張り続けないでいい。
やつが交通事故で明日、死ぬことはもうなくなったのだ。
“これでいい。セーブしておこう”
オレは紺色のビー玉の、銀色の部分に指を置いて……
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして目の前にはプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………え」
オレはぼうぜんとしていた。
「間違えた……」
「え? どうしたんですかアツシくん??」
オレはなんということか、セーブしようと思ってロードしてしまった、らしい。
「セーブストーンは使い手の真意を汲み取って作動します。
誤操作というのはありえませんよ」
「そんな…オレはふたりが両想いになった、平和な今日をセーブしようと……」
「それはココロのどこかに、この結果へのわだかまりがあるんですね。
ときどき、あることです。
心当たりはありませんか?」
「わだかまり? 心当たり…?」
オレのまぶたに速攻うかんだのは、なんとあの光景だった。
『夕日を受けて、勇の髪が光ってる。
笑顔はもっと光ってる。』
“――なんだかまるでこれって――”
「…そんな」
オレは愕然とした。
「だってオレは…勇は…」
ありえないだろ、それは。
そうつぶやいてみるけれど、回想は止まらない。
至近距離、おでこに置かれた手、隣を歩くぬくもり――
肩をつかんだ、手首をつかんだ感触――
叫び声がオレをとめようとした。
かすれた声と死にそうな笑顔がオレに遺言を伝えた。
弾む声が、告白の成功を――
痛い。
『そうですよ。そうなんですよあつしくん。おかげさまでうまくいっちゃったんですよ』
胸が痛い。
『そうですよ。そうなんですよあつしくん。おかげさまで…』
「オレはなにもしてない……」
「アツシくん?」
『そうですよ。そうなんですよあつしくん…』
「違う…」
そうだ。
オレはこんなことのぞんじゃいない。
「いやだ」
オレはそれをはっきりと口に出した。
「オレは…こんなの、いやだ」
みすずのことは、すきだ。
でも。
「勇を、とられてしまうのは、オレはいやだ!」
「……そうですか」
静かな声が聞こえた。
見るとプリカが、神妙な顔をしてうなずいていた。
「わたくしたちには、お客様の行動の自由を制限する権利や、義務はございません。
必要に応じアドヴァイスを差し上げることはあっても」
「あ、…」
いま、オレってばかなりすごいことを。
そしてそれはプリカにばっちり聞かれているし!!
「あの、いや、その」
「あたしに気を使われることはありませんよ、アツシくん。
むしろ優しくて素敵なアツシくんのシアワセのためなら、このプリカ、はりきって応援しちゃいたいキモチ満々なんですから!!
それがたとえ、どんなカタチ、どんなものであったとしても」
「プリカ……」
プリカのくれたアドヴァイス、それは。
「かなり地味な方法ですが…
今日をくりかえしてください」
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-6
『繰り返す今日』
「セーブストーンには残念ながら、ヒトのキモチをかえるチカラはありません。
デートを…というか、それ以前の告白を妨害できるまで。
つまり、妨害に失敗したらデータロードして。
“今日”をくりかえすのです」
――最悪、ヤツが根負けするまで。
なんだかせこい手段。でも、ほかにオレに選択肢はない。
オレはセーブストーンをぎゅっとにぎりしめ、ポケットの奥深くに入れた。
うわのそらで朝ごはんをかき込むと、オレは家を出た。
いつもの、合流点へと歩を進める。
一歩、二歩。
ここをすぎればやつがやってくるんだ。
軽快な足音が近づいてくる。
この足音が一瞬とまったら…
奴の手がぽんっと肩をたたく、はず。
落ち着け、落ち着くんだ。
いつもどおりにしてればいいんだ…
と自分に言い聞かせたそのとき足音がとまり右肩にぽんっと重みがかかった!
「うっす!」
「ひゃあっ!!」
と、オレは(小心なことに)とんでもない声をあげて飛び上がってしまった。
「い、勇(いさみ)…!
あ、ああ。おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
言い訳ももうしどろもどろだ。ああもうカオが熱くなってきた気がする。ひっこめひっこめ、こんなところで赤面してどーすんだ。
「んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か…」
しかしオレの努力むなしく、オレのカオは見てわかるほどの異変をきたしていたらしい。
「お前、熱あるんじゃないか? そーいや昨日からなんか変だと」
「っ」
まるっきりふつーにヤツがおでこに手を触れた。
「なっ、何言ってんだよっ。オレは昨日、墓参り行ってたからおまえと会ってないよ」
用意していた言い訳をなんとか口走り、一歩後退。
「えっと…そう、昨日親戚んちで飲まされちゃってさ。ちょっと二日酔いぎみなんだよ」
「マジ?!」
ヤツは叫ぶとでっかく目をむいた…失礼な。
(ヒトをまるで酒豪か何かのように…。)
しかし、ヤツはさらにつっこんできた。
「っていうかなんだって平日に墓参り? いや昨日ガッコきてたよな?」
しかしこれは予想通り。オレは軽くそいつをいなす。
「おいおい。熱あるのはそっちじゃないのか?
昨日は日曜! 今日は月曜!! しっかりしてくれよなホントにもー。海外旅行でも行ってきたのか?」
「んな金ねーって」
「だから密航。」
「するかっちゅーの!」
ようやくいつものペース。カオの熱さも引いてきた。
「ってか、だいじょぶそうか?」
「ああ。
いや~学生はつらいよなー。二日酔いじゃ学校休めませんからな~」
「あははは。
んじゃ行くか」
「うぃっす!」
勇はオレとならんで歩きながら、なんとはなしにポケットに手を入れる。
上着の右ポケット。
たぶん、セーブストーンを入れているのだろう。オレとおなじに。
が同時に、なんだか妙な顔をして、見覚えのある封筒をひっぱりだした。
表書きはやつの字で、『西崎みすず様』……
「あ!!」
突然の重要アイテムの出現(笑)に、オレはおもわず奇声をあげていた。
「なんだよ淳司。これが何か…?」
「……あ、いや、その、…
それ、みすずへのらぶれたぁ、…だよな?
マジで出すのそれ?」
「あ、ああ」
うなずいた勇はしかし、なんだかフクザツなカオでうなりだした。
――そうか。直前の今日のことを思い出しているのか。
直前の今日(も)、やつはこのらぶれたぁを出している。
しかし、その記憶があるにもかかわらず、手紙がここにある。
つまり、夢かデジャブと思っているんだな。――
ややあって勇は、うんうんとうなずくとこんなことを言い出した。
「なるほど、アレはぜんぶ予知夢だな。」
「は……?」
やつは“夢”の内容を、かいつまんでオレに話しだした。
「……………… へ~~~………………」
覚えてすぎ…覚えてすぎだよこいつ。
これだと、夢オチってパターンにもっていくのは困難かも…。
しかし、とりあえず、オレは最大限の努力を試みる。
「なんかさー……
マジだいじょぶか? やめといたほうがいーんじゃないの?
いやさー、ほら、みすずだってこんな超ぶっとんだ超ドリーマーなハナシ聞かされたら引くと思うぞー絶対」
「そうだよな。やっぱこれは言わないほうがいいよな」
「だろっ?」
「ああ。
よっしゃ~。お前のアドバイス、無駄にはしないぜ!
やっぱこう、告白はばしっと! 飾らず男らしく!! っだよな?」
しかし、納得したとみえたヤツは、ぜんぜん逆方向にナットクしてしまっていたりした。
「えっと…まあ…はぁ……」
違うんだ。そっちじゃないんだってばさ。
しかし理由が理由。そう言うことは、もちろんできず。
「よーし、俺はやるぞ!! うっしゃー、学校までダッシュだぁ!! うりゃ~~」
そのまま、ひとり勝手に盛り上がったヤツは、封筒をポケットに入れ直すのももどかしく走り出した……
かくして告白は、成功した。
ああ、やられてしまったか。
もどさなきゃ。オレはポケットに手を入れ、セーブストーンをさぐる。
そのとき、またしても、木陰に立つナゾの人影が目に入った。
いちょうの木陰の暗がりから、じっと。身動きもせず勇を見ている……
やつときたらシアワセにひたりまくっててまったく気づいていない。
とりあえずこれはほっておけない。オレは勇に声をかけ、帰り道へと連れ出した。
淳司(あつし)の場合 1-6
『繰り返す今日』
「セーブストーンには残念ながら、ヒトのキモチをかえるチカラはありません。
デートを…というか、それ以前の告白を妨害できるまで。
つまり、妨害に失敗したらデータロードして。
“今日”をくりかえすのです」
――最悪、ヤツが根負けするまで。
なんだかせこい手段。でも、ほかにオレに選択肢はない。
オレはセーブストーンをぎゅっとにぎりしめ、ポケットの奥深くに入れた。
うわのそらで朝ごはんをかき込むと、オレは家を出た。
いつもの、合流点へと歩を進める。
一歩、二歩。
ここをすぎればやつがやってくるんだ。
軽快な足音が近づいてくる。
この足音が一瞬とまったら…
奴の手がぽんっと肩をたたく、はず。
落ち着け、落ち着くんだ。
いつもどおりにしてればいいんだ…
と自分に言い聞かせたそのとき足音がとまり右肩にぽんっと重みがかかった!
「うっす!」
「ひゃあっ!!」
と、オレは(小心なことに)とんでもない声をあげて飛び上がってしまった。
「い、勇(いさみ)…!
あ、ああ。おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
言い訳ももうしどろもどろだ。ああもうカオが熱くなってきた気がする。ひっこめひっこめ、こんなところで赤面してどーすんだ。
「んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か…」
しかしオレの努力むなしく、オレのカオは見てわかるほどの異変をきたしていたらしい。
「お前、熱あるんじゃないか? そーいや昨日からなんか変だと」
「っ」
まるっきりふつーにヤツがおでこに手を触れた。
「なっ、何言ってんだよっ。オレは昨日、墓参り行ってたからおまえと会ってないよ」
用意していた言い訳をなんとか口走り、一歩後退。
「えっと…そう、昨日親戚んちで飲まされちゃってさ。ちょっと二日酔いぎみなんだよ」
「マジ?!」
ヤツは叫ぶとでっかく目をむいた…失礼な。
(ヒトをまるで酒豪か何かのように…。)
しかし、ヤツはさらにつっこんできた。
「っていうかなんだって平日に墓参り? いや昨日ガッコきてたよな?」
しかしこれは予想通り。オレは軽くそいつをいなす。
「おいおい。熱あるのはそっちじゃないのか?
昨日は日曜! 今日は月曜!! しっかりしてくれよなホントにもー。海外旅行でも行ってきたのか?」
「んな金ねーって」
「だから密航。」
「するかっちゅーの!」
ようやくいつものペース。カオの熱さも引いてきた。
「ってか、だいじょぶそうか?」
「ああ。
いや~学生はつらいよなー。二日酔いじゃ学校休めませんからな~」
「あははは。
んじゃ行くか」
「うぃっす!」
勇はオレとならんで歩きながら、なんとはなしにポケットに手を入れる。
上着の右ポケット。
たぶん、セーブストーンを入れているのだろう。オレとおなじに。
が同時に、なんだか妙な顔をして、見覚えのある封筒をひっぱりだした。
表書きはやつの字で、『西崎みすず様』……
「あ!!」
突然の重要アイテムの出現(笑)に、オレはおもわず奇声をあげていた。
「なんだよ淳司。これが何か…?」
「……あ、いや、その、…
それ、みすずへのらぶれたぁ、…だよな?
マジで出すのそれ?」
「あ、ああ」
うなずいた勇はしかし、なんだかフクザツなカオでうなりだした。
――そうか。直前の今日のことを思い出しているのか。
直前の今日(も)、やつはこのらぶれたぁを出している。
しかし、その記憶があるにもかかわらず、手紙がここにある。
つまり、夢かデジャブと思っているんだな。――
ややあって勇は、うんうんとうなずくとこんなことを言い出した。
「なるほど、アレはぜんぶ予知夢だな。」
「は……?」
やつは“夢”の内容を、かいつまんでオレに話しだした。
「……………… へ~~~………………」
覚えてすぎ…覚えてすぎだよこいつ。
これだと、夢オチってパターンにもっていくのは困難かも…。
しかし、とりあえず、オレは最大限の努力を試みる。
「なんかさー……
マジだいじょぶか? やめといたほうがいーんじゃないの?
いやさー、ほら、みすずだってこんな超ぶっとんだ超ドリーマーなハナシ聞かされたら引くと思うぞー絶対」
「そうだよな。やっぱこれは言わないほうがいいよな」
「だろっ?」
「ああ。
よっしゃ~。お前のアドバイス、無駄にはしないぜ!
やっぱこう、告白はばしっと! 飾らず男らしく!! っだよな?」
しかし、納得したとみえたヤツは、ぜんぜん逆方向にナットクしてしまっていたりした。
「えっと…まあ…はぁ……」
違うんだ。そっちじゃないんだってばさ。
しかし理由が理由。そう言うことは、もちろんできず。
「よーし、俺はやるぞ!! うっしゃー、学校までダッシュだぁ!! うりゃ~~」
そのまま、ひとり勝手に盛り上がったヤツは、封筒をポケットに入れ直すのももどかしく走り出した……
かくして告白は、成功した。
ああ、やられてしまったか。
もどさなきゃ。オレはポケットに手を入れ、セーブストーンをさぐる。
そのとき、またしても、木陰に立つナゾの人影が目に入った。
いちょうの木陰の暗がりから、じっと。身動きもせず勇を見ている……
やつときたらシアワセにひたりまくっててまったく気づいていない。
とりあえずこれはほっておけない。オレは勇に声をかけ、帰り道へと連れ出した。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-7
『途切れた朝・A』
まもなくいつもの分かれ道。このへんで勇はトラックに轢かれたことがある。どうしよう、大丈夫なんだろうけど、やっぱりちょっと心配だ。
そんなことを思っていると、うっかり道を曲がりそこねたりして。
前と同じく、当の勇にたしなめられて、オレはヤツと別れ、曲がり角を曲がった。
背後から、前にも聞いたヤツの声。
「あ~。セーブしてぇ~」
「できますよ☆」
そして、プリカの声。
「アプリコット…?」
「だいせいか~い! どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~☆」
「って、そーじゃねーだろこの会話っ。
だいたい俺たち初対面だろ?! どうしてこう、ふつーにお知り合い的会話してるんだよ?! つかなんっでこんな未知の生命体みてゼンゼンおどろかねーよ俺!」
ああ、こいつもオレとおなじ轍ふんでる(笑)
ほほえましく思えたオレは、もうちょっとだけこの会話を聞いてしまうことにした。
「そりゃ~そうですよぉ~。
だってあたしは昨日の今日に、イサミと運命的かつ情熱的な出会いを果たしてぇ、セーブストーンをお売りしちゃったものぉ☆
だーからこれ以上セールストークしたところで意味なっしんぐ!! セーブストーンはおひとりさまにひとつしかお売りできない仕組みなんですぅ。ま~お客様同士が売り買い譲渡されるのはぜーんぜんいーんですけどぉ」
「でも……
いまは『セーブストーンを買ったのより前』…のはずだよな?
だってオレ、今日みすずに……。
らぶれたぁ、出したはずなのに出してなくって…だから、も一度出して…。
なのになんで、これはもってるんだ? お前のことは、知ってるんだよ……」
うわ…勇のヤツ!
なんだってこんなとこは鋭いんだよっ。
いつもはってか今朝だってなんだかトンデモぼけぼけだったくせにっ。
「セーブストーンは絶対レベルの存在です。
一度取得がなされれば、どこかで取得以前のデータがロードされても消えはしません」
「……ってことは、つまり???」
「だれかがデータロードをしたんですよ。
イサミがあたしから、セーブストーンを買った後に」
やつはぽんっと手を打った。
って、まてプリカ。まさか、暴露るつもりか?!
オレはあわててセーブストーンを取り出す。
しかしプリカがすっと、さりげなく手を掲げた。
「そのひとのデータ記録時点が月曜日の朝だったんですね。だからこういうことになった、と。
まあ、あんまりあることじゃありませんから。大目に見てあげて下さいよ」
「そう、だな。
俺も“昨日”、それで生命が助かったんだし……」
「こういうことはたまーにあるんですけど、最初のときはみなさん混乱しますからぁ。こーして担当がフォローに回るわけなんですねぇ。
というわけで、すっきりさっぱりガッテンですねっ。ではではプリカはこのへんで☆
またなんかあったら呼んで下さいねぇ。ディナーのおさそいでもOKですよぉ、なんてきゃっ、あたしってば☆」
盛り上がるプリカをおいて、勇は続きの家路をたどりはじめた。
ゆっくりと慎重に。
そのまま、トラックにひかれることなんかなく、家に入っていった。
それを見届け、オレはゆっくりと、セーブストーンに親指を置いた。
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「おはよ、プリカ」
「おはようございますアツシさん」
プリカはぴょこっと空中で一礼する(器用だ)。
「さっきは焦ったでしょ? でも大丈夫、プリカはそんなヘマはしませんよ♪
だってこーみえても、運命向上委員会セーブストーン普及課副課長代理ですから! いぇい!!」
プリカはにっこりVサイン。
「そうだったね。ごめんね、プリカ」
「そんなあ。
もーアツシさんてば優しすぎです~。プリカのはーとはわしづかみですよう。
でもでもこのかたには心に決めたあのひとが! う~ん、たまんないですぅ」
そしてほっぺたに手を当てて、可愛らしく盛り上がる。
「ではでは、この淡いキモチが禁断の想いに変わる前に、プリカはお仕事に戻ります。
頑張ってくださいねアツシさん。応援してますからね!!」
「ありがとう。プリカもお仕事頑張って」
プリカはにこにこ小さな手を振ると、虚空にかききえた。
オレはそれを見送ると、ウチへ入った。
再びの朝は(っていうか、“も”)、すっごくいい天気だった。
まるで俺のココロと正反対に。
さて、今日こそほんとに、どうにかしなくちゃ。
考え考え、ご飯をお腹に入れると(着替えと身支度はしてあった)、オレはウチを出た。
いつもの合流点。しばらく歩くと後ろから、軽い足音が聞こえてきた。
オレに近づいて…一瞬とまる。
「うっす!」
「ひゃあっ!!」
ぽんっと肩にかかる重み。
オレはまたしてもとんでもない声をあげて飛び上がってしまった。
「い、勇(いさみ)!
ああ、おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
「んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か……」
と、勇はいぶかしげなカオになる。
「お前、熱あるんじゃないか? そーいや昨日からなんか変だと」
「っ」
ヤツが当然のように手を伸ばす。
突然のことに避けられないまま…
その手がおでこに触れてしまう。
オレは息を飲んでいた。
「なっ、何言ってんだよっ。オレは昨日、墓参り行ってたからおまえと会ってないって」
必死でそう言って、一歩後退。
「え? お前昨日、ガッコ来ただろ??」
「おいおい。熱あるのはそっちじゃないのか?
昨日は日曜! 今日は月曜!! しっかりしてくれよなホントにもー……」
オレはデジタルの腕時計を示した。
曜日の表示は当然、Monだ。
「おいおいうそだろ」
しかし、勇の時計の表示もMon。
やつは呆然としたカオになり立ち止まる。
「なんでだ?
どうしてまた、月曜日なんだ??」
ぶつぶつぶつ。
呟きながら、またしても、ポケットに手を突っ込んでみて、またしてもらぶれたぁをひっぱりだす。
「冗談だろ…」
そしてうんざりとつぶやくと、ふたたびポケットに手を入れた。
これはっ…!
淳司(あつし)の場合 1-7
『途切れた朝・A』
まもなくいつもの分かれ道。このへんで勇はトラックに轢かれたことがある。どうしよう、大丈夫なんだろうけど、やっぱりちょっと心配だ。
そんなことを思っていると、うっかり道を曲がりそこねたりして。
前と同じく、当の勇にたしなめられて、オレはヤツと別れ、曲がり角を曲がった。
背後から、前にも聞いたヤツの声。
「あ~。セーブしてぇ~」
「できますよ☆」
そして、プリカの声。
「アプリコット…?」
「だいせいか~い! どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~☆」
「って、そーじゃねーだろこの会話っ。
だいたい俺たち初対面だろ?! どうしてこう、ふつーにお知り合い的会話してるんだよ?! つかなんっでこんな未知の生命体みてゼンゼンおどろかねーよ俺!」
ああ、こいつもオレとおなじ轍ふんでる(笑)
ほほえましく思えたオレは、もうちょっとだけこの会話を聞いてしまうことにした。
「そりゃ~そうですよぉ~。
だってあたしは昨日の今日に、イサミと運命的かつ情熱的な出会いを果たしてぇ、セーブストーンをお売りしちゃったものぉ☆
だーからこれ以上セールストークしたところで意味なっしんぐ!! セーブストーンはおひとりさまにひとつしかお売りできない仕組みなんですぅ。ま~お客様同士が売り買い譲渡されるのはぜーんぜんいーんですけどぉ」
「でも……
いまは『セーブストーンを買ったのより前』…のはずだよな?
だってオレ、今日みすずに……。
らぶれたぁ、出したはずなのに出してなくって…だから、も一度出して…。
なのになんで、これはもってるんだ? お前のことは、知ってるんだよ……」
うわ…勇のヤツ!
なんだってこんなとこは鋭いんだよっ。
いつもはってか今朝だってなんだかトンデモぼけぼけだったくせにっ。
「セーブストーンは絶対レベルの存在です。
一度取得がなされれば、どこかで取得以前のデータがロードされても消えはしません」
「……ってことは、つまり???」
「だれかがデータロードをしたんですよ。
イサミがあたしから、セーブストーンを買った後に」
やつはぽんっと手を打った。
って、まてプリカ。まさか、暴露るつもりか?!
オレはあわててセーブストーンを取り出す。
しかしプリカがすっと、さりげなく手を掲げた。
「そのひとのデータ記録時点が月曜日の朝だったんですね。だからこういうことになった、と。
まあ、あんまりあることじゃありませんから。大目に見てあげて下さいよ」
「そう、だな。
俺も“昨日”、それで生命が助かったんだし……」
「こういうことはたまーにあるんですけど、最初のときはみなさん混乱しますからぁ。こーして担当がフォローに回るわけなんですねぇ。
というわけで、すっきりさっぱりガッテンですねっ。ではではプリカはこのへんで☆
またなんかあったら呼んで下さいねぇ。ディナーのおさそいでもOKですよぉ、なんてきゃっ、あたしってば☆」
盛り上がるプリカをおいて、勇は続きの家路をたどりはじめた。
ゆっくりと慎重に。
そのまま、トラックにひかれることなんかなく、家に入っていった。
それを見届け、オレはゆっくりと、セーブストーンに親指を置いた。
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして、目の前にはティンカーベルの親戚みたいなプリカがいる。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「おはよ、プリカ」
「おはようございますアツシさん」
プリカはぴょこっと空中で一礼する(器用だ)。
「さっきは焦ったでしょ? でも大丈夫、プリカはそんなヘマはしませんよ♪
だってこーみえても、運命向上委員会セーブストーン普及課副課長代理ですから! いぇい!!」
プリカはにっこりVサイン。
「そうだったね。ごめんね、プリカ」
「そんなあ。
もーアツシさんてば優しすぎです~。プリカのはーとはわしづかみですよう。
でもでもこのかたには心に決めたあのひとが! う~ん、たまんないですぅ」
そしてほっぺたに手を当てて、可愛らしく盛り上がる。
「ではでは、この淡いキモチが禁断の想いに変わる前に、プリカはお仕事に戻ります。
頑張ってくださいねアツシさん。応援してますからね!!」
「ありがとう。プリカもお仕事頑張って」
プリカはにこにこ小さな手を振ると、虚空にかききえた。
オレはそれを見送ると、ウチへ入った。
再びの朝は(っていうか、“も”)、すっごくいい天気だった。
まるで俺のココロと正反対に。
さて、今日こそほんとに、どうにかしなくちゃ。
考え考え、ご飯をお腹に入れると(着替えと身支度はしてあった)、オレはウチを出た。
いつもの合流点。しばらく歩くと後ろから、軽い足音が聞こえてきた。
オレに近づいて…一瞬とまる。
「うっす!」
「ひゃあっ!!」
ぽんっと肩にかかる重み。
オレはまたしてもとんでもない声をあげて飛び上がってしまった。
「い、勇(いさみ)!
ああ、おはよ。いやなんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
「んだよお前さ~。こっちがびびったじゃねー…か……」
と、勇はいぶかしげなカオになる。
「お前、熱あるんじゃないか? そーいや昨日からなんか変だと」
「っ」
ヤツが当然のように手を伸ばす。
突然のことに避けられないまま…
その手がおでこに触れてしまう。
オレは息を飲んでいた。
「なっ、何言ってんだよっ。オレは昨日、墓参り行ってたからおまえと会ってないって」
必死でそう言って、一歩後退。
「え? お前昨日、ガッコ来ただろ??」
「おいおい。熱あるのはそっちじゃないのか?
昨日は日曜! 今日は月曜!! しっかりしてくれよなホントにもー……」
オレはデジタルの腕時計を示した。
曜日の表示は当然、Monだ。
「おいおいうそだろ」
しかし、勇の時計の表示もMon。
やつは呆然としたカオになり立ち止まる。
「なんでだ?
どうしてまた、月曜日なんだ??」
ぶつぶつぶつ。
呟きながら、またしても、ポケットに手を突っ込んでみて、またしてもらぶれたぁをひっぱりだす。
「冗談だろ…」
そしてうんざりとつぶやくと、ふたたびポケットに手を入れた。
これはっ…!
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-8
『途切れた朝・B』
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはとっぷり暗くなり、場所はいつもの道に。
曲がり角の向こうからは、ハイテンションなプリカの声が。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。さすがに告白3連はきっついか~。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
おいおい、いきなりか。
呆然としていると、プリカの可愛らしい声がこんなことを言い出した。
「んも~すかーとのすそにばっかみとれない!! 中身はべつだん、イサミたちと変わらないんだからぁっ」
なに?
「まそれはそーとして、帰るなら早くかえっていーですよぉ。
別段あたしに用はないでしょ、今回はぁ」
「…あ、ああ」
プリカはなんだかむくれた様子。
「ふ~んだ。イサミなんかさっさとかえって惰眠をむさぼるがいいのですっ。明日になったらミスズちゃんとらぶらぶふぃーばーいえーいですぅ~。ふ~んだ~」
「おいおい…」
ここまでぼやきまくられて、よーやくヤツは、プリカがむくれてしまったことに気づいたらしい。
しかし、ヤツが手を伸ばし、なだめるより前にプリカは虚空に消えた。
今度会ったときに飴玉でもやるか。そんな風に考えているのだろう。
ポケットをさぐった勇は、ひとつタメイキをつくと歩き出した。
慎重に、ゆっくりと。
たぶん今回も、トラックを警戒しながら。
その背中が玄関に消えるのを見届けて、オレはセーブストーンに親指を置いた。
『LOAD!』
再びの朝は(っていうか、“も”)、やっぱりいい天気だった。
いや、そりゃあたりまえなんだけど。
そしてプリカも変わらず? ハイテンションだった。
さて…今日こそほんとに、何とかしなくちゃ。
考え考え、ご飯をお腹に入れると(着替えと身支度はしてあった)、オレはウチを出た。
いつもの合流点。しばらく歩くと後ろから、軽い足音が聞こえてきた。
オレに近づいて…一瞬とまる。
「おいっす!」
「ひゃあっ!!」
ぽんっと肩にかかる重み。
オレはやっぱりとんでもない声をあげて飛び上がってしまった。
「いっ、勇(いさみ)!
…ああ、おはよ。いや、なんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
ああしまった。顔が熱い。
勇はもちろんつっこんでくる。
「熱あんだろ? だったら休んだ方がいいんじゃないか?
出席日数は足りてんだしよ」
が――ここでおでこを触るとオレが逃げるのをうっすら覚えているのだろう――やつは上げかけた手を下ろした。
いや、それはべつにいいんだ。いいんだけどさ。
「おい、マジ大丈夫か?
送ってってやるよ。どうせ俺今日はフケる予定だし」
「えっ?!」
なんですと?!
「し…しないでいいのかよ告白!」
こんなカンタンに根負けしてくれるなんて!
「ああ、今日はちょっと、諸般の事情で。
まあみすずのキモチはわかってんだし、明日以降にしちゃろっかなと」
「余裕かよ……」
しかし、それはぬか喜びだった。ていうか、なんだそのタイド。
「ま、オトコの度量ってヤツですな。ってどこ行くんだよ」
かっちんときたオレは皆まで聞かずきびすをかえした。
「帰るんだよ! …ついてくんな、彼女でもあるまいし」
「淳司! おいどうしたんだよ!」
勇はおろおろうろたえて。
「わ、わかった! 俺が悪かった!!
逃げません。告白はちゃんとします!! だから…」
しかし、その言葉。
さらにむかついてオレはヤツをにらみつけていた。
「……なんだよ……」
しかし、言葉は出ない。
出るわけもないのだ。
オレはそのままもう一度きびすを返した。
今日の、こんな勇なんて。もうつきあっていられるか!
ポケットに手を入れ、オレはセーブストーンに親指を触れた…
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして目の前にはプリカがいる。
「ってこれ言うの何十回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「おはよ、プリカ」
「おはようございますアツシさん♪
あ、例の件でご報告があります。
……イサミさんが感づきました。
とはいっても、“誰か、繰り返しロードをしている存在がいる”ということをですけどね。
それが誰かということまでは、まだイサミさんは、気づいていません」
「ありがと、プリカ。
だいじょうぶ、カクゴはしてた」
オレはただひとつ、うなづいた。
勇のやつは、鋭いのだ。
いつもぼけぼけのくせして、肝心なとこ、だけは。
(ヤマカンなんかは、とんでもなく当たる)
だから、このことはカクゴしていた。
「ヤツは、たぶん感づく。
データロードを繰り返している存在がいること。
そして……」
それが、オレだということにも。
しかし、それ以上は、感づかせない。
感づかせるわけには行かないのだ、ぜったい。
「それで、やつはどうするって?
やっぱり…“今日”を繰り返す、て?」
「……はい」
プリカは、ちょっとうつむく。
「ごめんなさい。いち担当者としては…」
「わかってる。いいんだよプリカ、気にしないで」
「アツシさん……」
彼女だって仕事だ。勇だって客だ。それは仕方ない。
「これは、オレと勇の問題だから。
大丈夫、今度こそ、きっとやれるよ」
そう、今度こそ。
今度こそ、なんとか介入のチャンスを見つけてみせる。
オレは朝ごはんをお腹に収めると(着替えと身支度は済んでいた)、かばんを掴み飛び出した。
勇と漫才(爆)しつつ、学校へ行く。
授業を受ける。
勇、みすず(+その他若干名)と、部室の外の芝生で昼飯。
昼休みの終わりに、勇がみすずの下駄箱に手紙を入れるところをジャマできず、あやしまれないためにとりあえず勇にみつかってからかっておく。
放課後、こっそりとやつの後をつけ、いつもの神社へ。
オレはこっそりと、勇の様子を伺った。
これまでとおなじく、社殿の陰に身を隠して。
今度は、見つからないように。
淳司(あつし)の場合 1-8
『途切れた朝・B』
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはとっぷり暗くなり、場所はいつもの道に。
曲がり角の向こうからは、ハイテンションなプリカの声が。
「ってこれ言うの何回目でしたっけまっいーかぁ。さすがに告白3連はきっついか~。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
おいおい、いきなりか。
呆然としていると、プリカの可愛らしい声がこんなことを言い出した。
「んも~すかーとのすそにばっかみとれない!! 中身はべつだん、イサミたちと変わらないんだからぁっ」
なに?
「まそれはそーとして、帰るなら早くかえっていーですよぉ。
別段あたしに用はないでしょ、今回はぁ」
「…あ、ああ」
プリカはなんだかむくれた様子。
「ふ~んだ。イサミなんかさっさとかえって惰眠をむさぼるがいいのですっ。明日になったらミスズちゃんとらぶらぶふぃーばーいえーいですぅ~。ふ~んだ~」
「おいおい…」
ここまでぼやきまくられて、よーやくヤツは、プリカがむくれてしまったことに気づいたらしい。
しかし、ヤツが手を伸ばし、なだめるより前にプリカは虚空に消えた。
今度会ったときに飴玉でもやるか。そんな風に考えているのだろう。
ポケットをさぐった勇は、ひとつタメイキをつくと歩き出した。
慎重に、ゆっくりと。
たぶん今回も、トラックを警戒しながら。
その背中が玄関に消えるのを見届けて、オレはセーブストーンに親指を置いた。
『LOAD!』
再びの朝は(っていうか、“も”)、やっぱりいい天気だった。
いや、そりゃあたりまえなんだけど。
そしてプリカも変わらず? ハイテンションだった。
さて…今日こそほんとに、何とかしなくちゃ。
考え考え、ご飯をお腹に入れると(着替えと身支度はしてあった)、オレはウチを出た。
いつもの合流点。しばらく歩くと後ろから、軽い足音が聞こえてきた。
オレに近づいて…一瞬とまる。
「おいっす!」
「ひゃあっ!!」
ぽんっと肩にかかる重み。
オレはやっぱりとんでもない声をあげて飛び上がってしまった。
「いっ、勇(いさみ)!
…ああ、おはよ。いや、なんでもないんだ。ちょっとぼーっとしてただけだしっ」
ああしまった。顔が熱い。
勇はもちろんつっこんでくる。
「熱あんだろ? だったら休んだ方がいいんじゃないか?
出席日数は足りてんだしよ」
が――ここでおでこを触るとオレが逃げるのをうっすら覚えているのだろう――やつは上げかけた手を下ろした。
いや、それはべつにいいんだ。いいんだけどさ。
「おい、マジ大丈夫か?
送ってってやるよ。どうせ俺今日はフケる予定だし」
「えっ?!」
なんですと?!
「し…しないでいいのかよ告白!」
こんなカンタンに根負けしてくれるなんて!
「ああ、今日はちょっと、諸般の事情で。
まあみすずのキモチはわかってんだし、明日以降にしちゃろっかなと」
「余裕かよ……」
しかし、それはぬか喜びだった。ていうか、なんだそのタイド。
「ま、オトコの度量ってヤツですな。ってどこ行くんだよ」
かっちんときたオレは皆まで聞かずきびすをかえした。
「帰るんだよ! …ついてくんな、彼女でもあるまいし」
「淳司! おいどうしたんだよ!」
勇はおろおろうろたえて。
「わ、わかった! 俺が悪かった!!
逃げません。告白はちゃんとします!! だから…」
しかし、その言葉。
さらにむかついてオレはヤツをにらみつけていた。
「……なんだよ……」
しかし、言葉は出ない。
出るわけもないのだ。
オレはそのままもう一度きびすを返した。
今日の、こんな勇なんて。もうつきあっていられるか!
ポケットに手を入れ、オレはセーブストーンに親指を触れた…
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして目の前にはプリカがいる。
「ってこれ言うの何十回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「おはよ、プリカ」
「おはようございますアツシさん♪
あ、例の件でご報告があります。
……イサミさんが感づきました。
とはいっても、“誰か、繰り返しロードをしている存在がいる”ということをですけどね。
それが誰かということまでは、まだイサミさんは、気づいていません」
「ありがと、プリカ。
だいじょうぶ、カクゴはしてた」
オレはただひとつ、うなづいた。
勇のやつは、鋭いのだ。
いつもぼけぼけのくせして、肝心なとこ、だけは。
(ヤマカンなんかは、とんでもなく当たる)
だから、このことはカクゴしていた。
「ヤツは、たぶん感づく。
データロードを繰り返している存在がいること。
そして……」
それが、オレだということにも。
しかし、それ以上は、感づかせない。
感づかせるわけには行かないのだ、ぜったい。
「それで、やつはどうするって?
やっぱり…“今日”を繰り返す、て?」
「……はい」
プリカは、ちょっとうつむく。
「ごめんなさい。いち担当者としては…」
「わかってる。いいんだよプリカ、気にしないで」
「アツシさん……」
彼女だって仕事だ。勇だって客だ。それは仕方ない。
「これは、オレと勇の問題だから。
大丈夫、今度こそ、きっとやれるよ」
そう、今度こそ。
今度こそ、なんとか介入のチャンスを見つけてみせる。
オレは朝ごはんをお腹に収めると(着替えと身支度は済んでいた)、かばんを掴み飛び出した。
勇と漫才(爆)しつつ、学校へ行く。
授業を受ける。
勇、みすず(+その他若干名)と、部室の外の芝生で昼飯。
昼休みの終わりに、勇がみすずの下駄箱に手紙を入れるところをジャマできず、あやしまれないためにとりあえず勇にみつかってからかっておく。
放課後、こっそりとやつの後をつけ、いつもの神社へ。
オレはこっそりと、勇の様子を伺った。
これまでとおなじく、社殿の陰に身を隠して。
今度は、見つからないように。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-9
『捕捉、半落ち』
やつはこれまで2回と同じく、大鳥居にもたれてみすずを待っている様子。
だったが、ふいにこっちを振り返る!
「…おい!!」
走ってくる。
見つかった。しかし、頭をひっこめた瞬間のことだ、顔は見られていないだろう。オレは社殿をまわりこんで逃げ、勇をまくことにした。
しかし、オレの狙いは読まれていた。
社殿の角を曲がると、そこにはヤツが待ち構えていたのだ。
『しまった…』
そうだ。いつも、このパターンでつかまってた、ヤツと鬼ごっこをすると。
足はこいつのほうが速い。こんな至近距離では振り切れない。
それ以前に、顔を見られてしまった。
ぼうぜんとした表情の、勇。
立ちすくんでしまったオレ。
どうしよう…。
きまずい、きまずい沈黙。
ややあって、震える声が、問いを投げかけてきた。
「淳司…。
まさか、だよな?
俺のこと何度も何度も今朝に戻しやがった野郎は、おまえ…じゃないよな?」
「……………」
「お前、なのか?」
「…………………………何言ってるんだ?
おれにはわからないよ……。」
そう、オレはなにも“してない”。“知らない”。
“なんにも、わからない”のだ。
だってオレは“セーブストーンなんか持ってない”のだから。
すると勇はゆっくりとひとつ深呼吸して、こんなことを言い出した。
「淳司。
お前もセーブストーンを持っているんだろ。
みすずへの告白のことで、ロードしたんだろ。
だから前前回の今朝俺が話した、みすずへの告白の日取りがはっきり記憶に残ってた。
……もし、そうでなかったら……
前回の今朝、お前なんで、『告白しないでいいのか』なんて聞いてきたんだ?!
まさにこの日、俺がみすずに告白するはずだと……
一体、なにから判断したんだ?!!」
「っ」
突如口調を荒げて一喝。正直、怖かった。
でも、なんとか、オレは無難な回答を引っ張り出す。
「えっ…あの…そう、直感だよ。
おまえの態度からなんとなく……」
そう、オレはなにも“してない”。“知らない”。
だが勇は、すっと静かな表情になった。
「語るに落ちたな」
しまった。
本当になにも知らないなら。
――みすずへの告白のことで、データロードしていないなら。
そもそも『前回の今朝』などというコトバが通じるはずもない。
“何も知らない”オレがまずつっこむべきところは、そっちだったのだ…
「お前もあいつからストーンを手に入れた。そうなんだな」
このことについては、これ以上ごまかせない。
オレは観念して、言えるだけのことを言ってしまうことにきめた。
「そうだよ。
データロードを繰り返したのは、オレだ。
みすずに告白なんか…させられないから」
「なんでだ!!
お前まさか……
ホントはみすずのこと」
「ちっちがうよ!! そんなことはない!!」
「…え?」
ぼーぜんとする勇。
「……あ、その…
ほら、みすずは仲間じゃん。オレにとってはだから…そういう対象なんじゃなくて…別にオレはみすずを好きなんじゃない。これはホントだよ」
その誤解は、ホントに、マジで、困る。俺は必死で弁明していた。
「じゃあ…なんで……?」
「………
言えないよ」
言えるわけなんかない。
「言えない。絶対に」
「おい」
「とにかく告白なんかするな。いいな!!」
「おいっ」
勇がオレの肩をつかもうとする。オレは間一髪ポケットに手を滑り込ませ……
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして目の前にはプリカがいる。
「ってこれ言うの何十回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「おはよ、プリカ。
ごめん、オレ今日は急ぐから」
あんなロードの仕方だ、勇にははっきりと記憶が残っているだろう。
早めに家を出てうちに来るはず。
オレは大急ぎでご飯を済ませ玄関に向かった。
とりあえず学校に行ってしまおう。いくら勇でも、人の目のあるところならハデな行動はしてこない、なんとか時間を稼げるはず。
が。
「あら~いっちゃん、今日はどうしたの?」
一歩遅かったらしい。玄関には母さんと、そして勇。
「淳司にハナシがあるんです!! って淳司!!」
大慌てできびすを返したオレは、しかしやっぱり見つかっていた。
「さっきのこと!! ちゃんと聞かせろよな!! おい淳…」
「え? さっきって…??」
「淳司!!」
勇は母さんの横をすり抜けたらしい、走る足音が迫ってくる。
捕まったらオシマイだ。オレはポケットのセーブストーンに親指を置いて…
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして目の前にはプリカがいる。
「おはよ、プリカ。
ごめん、オレ今日はホントに急ぐから」
勇はさっきより早めに家を出てうちに来るはず。
オレは大急ぎでご飯を済ませ玄関に向かった。
とりあえず学校に行ってしまおう。いくら勇でも、人の目のあるところならハデな行動はしてこない、なんとか時間を稼げるはず。
しかし。
「あら? いっちゃ」
「おじゃまします!!」
一歩遅かった。
勇のヤツ、朝ご飯を食べないできたのか!
「淳司!!」
廊下の角を曲がって勇が現われる。オレはポケットに手を入れる。
『LOAD!』
淳司(あつし)の場合 1-9
『捕捉、半落ち』
やつはこれまで2回と同じく、大鳥居にもたれてみすずを待っている様子。
だったが、ふいにこっちを振り返る!
「…おい!!」
走ってくる。
見つかった。しかし、頭をひっこめた瞬間のことだ、顔は見られていないだろう。オレは社殿をまわりこんで逃げ、勇をまくことにした。
しかし、オレの狙いは読まれていた。
社殿の角を曲がると、そこにはヤツが待ち構えていたのだ。
『しまった…』
そうだ。いつも、このパターンでつかまってた、ヤツと鬼ごっこをすると。
足はこいつのほうが速い。こんな至近距離では振り切れない。
それ以前に、顔を見られてしまった。
ぼうぜんとした表情の、勇。
立ちすくんでしまったオレ。
どうしよう…。
きまずい、きまずい沈黙。
ややあって、震える声が、問いを投げかけてきた。
「淳司…。
まさか、だよな?
俺のこと何度も何度も今朝に戻しやがった野郎は、おまえ…じゃないよな?」
「……………」
「お前、なのか?」
「…………………………何言ってるんだ?
おれにはわからないよ……。」
そう、オレはなにも“してない”。“知らない”。
“なんにも、わからない”のだ。
だってオレは“セーブストーンなんか持ってない”のだから。
すると勇はゆっくりとひとつ深呼吸して、こんなことを言い出した。
「淳司。
お前もセーブストーンを持っているんだろ。
みすずへの告白のことで、ロードしたんだろ。
だから前前回の今朝俺が話した、みすずへの告白の日取りがはっきり記憶に残ってた。
……もし、そうでなかったら……
前回の今朝、お前なんで、『告白しないでいいのか』なんて聞いてきたんだ?!
まさにこの日、俺がみすずに告白するはずだと……
一体、なにから判断したんだ?!!」
「っ」
突如口調を荒げて一喝。正直、怖かった。
でも、なんとか、オレは無難な回答を引っ張り出す。
「えっ…あの…そう、直感だよ。
おまえの態度からなんとなく……」
そう、オレはなにも“してない”。“知らない”。
だが勇は、すっと静かな表情になった。
「語るに落ちたな」
しまった。
本当になにも知らないなら。
――みすずへの告白のことで、データロードしていないなら。
そもそも『前回の今朝』などというコトバが通じるはずもない。
“何も知らない”オレがまずつっこむべきところは、そっちだったのだ…
「お前もあいつからストーンを手に入れた。そうなんだな」
このことについては、これ以上ごまかせない。
オレは観念して、言えるだけのことを言ってしまうことにきめた。
「そうだよ。
データロードを繰り返したのは、オレだ。
みすずに告白なんか…させられないから」
「なんでだ!!
お前まさか……
ホントはみすずのこと」
「ちっちがうよ!! そんなことはない!!」
「…え?」
ぼーぜんとする勇。
「……あ、その…
ほら、みすずは仲間じゃん。オレにとってはだから…そういう対象なんじゃなくて…別にオレはみすずを好きなんじゃない。これはホントだよ」
その誤解は、ホントに、マジで、困る。俺は必死で弁明していた。
「じゃあ…なんで……?」
「………
言えないよ」
言えるわけなんかない。
「言えない。絶対に」
「おい」
「とにかく告白なんかするな。いいな!!」
「おいっ」
勇がオレの肩をつかもうとする。オレは間一髪ポケットに手を滑り込ませ……
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして目の前にはプリカがいる。
「ってこれ言うの何十回目でしたっけまっいーかぁ。よかったですねぇ~セーブしておいて。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「おはよ、プリカ。
ごめん、オレ今日は急ぐから」
あんなロードの仕方だ、勇にははっきりと記憶が残っているだろう。
早めに家を出てうちに来るはず。
オレは大急ぎでご飯を済ませ玄関に向かった。
とりあえず学校に行ってしまおう。いくら勇でも、人の目のあるところならハデな行動はしてこない、なんとか時間を稼げるはず。
が。
「あら~いっちゃん、今日はどうしたの?」
一歩遅かったらしい。玄関には母さんと、そして勇。
「淳司にハナシがあるんです!! って淳司!!」
大慌てできびすを返したオレは、しかしやっぱり見つかっていた。
「さっきのこと!! ちゃんと聞かせろよな!! おい淳…」
「え? さっきって…??」
「淳司!!」
勇は母さんの横をすり抜けたらしい、走る足音が迫ってくる。
捕まったらオシマイだ。オレはポケットのセーブストーンに親指を置いて…
『LOAD!』
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
と。
一瞬の黄色い閃光とともにほとんど全てが変わった。
あたりはすっかり晴れた朝。場所はウチのベランダに。そして目の前にはプリカがいる。
「おはよ、プリカ。
ごめん、オレ今日はホントに急ぐから」
勇はさっきより早めに家を出てうちに来るはず。
オレは大急ぎでご飯を済ませ玄関に向かった。
とりあえず学校に行ってしまおう。いくら勇でも、人の目のあるところならハデな行動はしてこない、なんとか時間を稼げるはず。
しかし。
「あら? いっちゃ」
「おじゃまします!!」
一歩遅かった。
勇のヤツ、朝ご飯を食べないできたのか!
「淳司!!」
廊下の角を曲がって勇が現われる。オレはポケットに手を入れる。
『LOAD!』
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい
淳司(あつし)の場合 1-10
『To The Last Lot』
プリカの口上をみなまで聞かず、オレは部屋に駆け込んだ。
母さんには申し訳ないが、朝ごはんを断り、全速力で家を飛び出す。
そのかいあってオレは、勇に捕まることなく学校に到着することができた。
しかし、ヤツはクラスメイトだ。
気を抜くことはできない。
オレは右手をポケットに入れたまま、ヤツを警戒しつづけた。
ヤツはこちらを伺っているが、話し掛けてはこない。
まあ、そうだろうな。
昼休みになるとこれまで同様、ふいと教室を出て行った。
玄関に向かうのか?と思ったが、やつは階段を上っていく。
みすずにらぶれたぁ、出さないのか?
疑問には思ったが、深追いは危険だ。コレ自体ワナかもしれない。
オレはとりあえず教室へと戻った。
勇はらぶれたぁを出したか否か?
このことを確かめる方法は、ある。
放課後、予定があるか、みすずに聞くことだ。
はたして彼女は「今日はアイス食べに行くのごめんね~」と言って、クラスの女子数人と教室を出ていった。
一方で勇も、ひとりさっさと教室を出て行く。
どうなっているんだ? 告白、しないのか??
オレは充分な距離を置き、勇を追いかけた。
たどり着いたのはいつもの神社。
勇はこれまでと同じように、人待ち風情で大鳥居にもたれる。
どういうことだ?
みすずはこないのに。
わけがわからない。
どういうつもりなんだ。
意を決してオレは、勇に声をかけた。
「勇……」
「よ。」
勇はぜんぜん、なんでもないように手を上げて挨拶を返してくる。
「なん、で…
みすずに告白するんだろ?」
「しねぇ」
「っ!」
どういうことだ?
「したって同じだろ。戻されちまうんだからよ」
「…………。」
「お前、悩んでるんだろ」
「……。」
「なに、悩んでんだよ。
ひとりで悩んでんだよ。
お前のそれ、解決しないことには、俺のシアワセなあしたはソンザイしないんだ。
だからどんなことだって聞くぜ。
いちお、いちばんの親友だしな」
「…………だめだよ。
聞いたらなくなる…
勇のシアワセなあした。…それに、おれのあしたも」
「だからって、じゃあずっとくりかえすのか?
…セーブデータだったら俺も持ってる。繰り返しになるだけだぞ」
「………………………」
「お前は“今日”をくりかえすことで、俺を根負けさせようとしたな。
でも同じ事は、俺にだってできるんだ」
「…………………」
勇がポケットに手を入れ、繰り返す。
「お前が何も言わなければ、繰り返しになるだけだぞ」
「…言えるもんか。
こんなことぜったいいえない。
繰り返しになるとしても、ぜったいに」
勇がポケットの中でなにかを握り締める。
黄色い閃光が視界を覆う。
一瞬あたりが夕闇に変わる、でもオレも同じようにする。
『LOAD!』
プリカの口上をみなまで聞かずオレは部屋に駆け込んだ。
母さんには申し訳ないが、朝ごはんを断り、全速力で家を飛び出す。
そのかいあってオレは、勇に捕まることなく学校に到着することができた。
授業を受け、昼飯をなんとか食べて、そっと下駄箱へ。
こうなったらなりふりなんか構わない。みすずへの手紙なんか、出させない。
しかし現われたヤツはなぜか、手にした封筒をオレの下駄箱に入れた。
挑発かよ!
しかし、引っ張り出したそれの形状にオレはぼうぜんと立ち尽くす――
その封筒は、みすずへのらぶれたぁが入れられていた封筒の、色違いバージョンだったのだ。
HRが終わるが早いかオレは教室を飛び出した。
指定の時間までは結構余裕がある。けど、今のオレの身体では長い距離を走れない。
向かう先は? 手紙に書いてあった先、いつもの神社。
一気に、とはいかなかったが、走ったので息が苦しい。大鳥居に背を預け、息を整える。
と、ヤツが現われた。
「勇っ…!!」
その瞬間、腹立ちが一気に沸騰した。
「おまえ…おまえ…どういうつもりだよ!!!」
手紙を――ヤツがオレの下駄箱に入れたそれを封筒ごと――突き出す。
淡い水色と柔らかなカットで、なんとも優しい印象の封筒。ぶっちゃけ“らぶれたぁを入れるために生まれたよーな”シロモノだ。
すくなくっともふつー、ヤローがヤローにあてる手紙に使うもんでは決してない。
――なのになんだってこんなもんを使ったのかと問われると、ヤツはいけしゃあしゃあとこう言った。
「いや、これならお前を引っ張り出せると思って」
「……おまえっ……」
「まあ、お前は怒るだろうとは思っていたけど、ハナシすらできないんじゃどうにもならないだろ? お前も俺も、このまんまでいいわけはないんだし」
ふざけるな。
「え…」
「ふざけんなっ!!!!」
怒声が口から飛び出していた。
「な、…なんでそんなに怒るんだよ。これはその…」
勇は顔色を変えて後ずさり、へどもどと言い訳を試み始めた。
ヤツはたぶん、こんな便箋で呼び出しかければ好奇心の強いオレのこと、一体どんな変人がそーしたのやらと見に来ると踏んだのだろう。
わかってる。わかっているのだ。
しかし、これは。
いまの、オレにとっては。
「冗談だとしてもあんまりだろ!!
好きでもないのにこんなふうに…よりによってこんなのっ……
……あんまりだ」
もうどうしようもない。泣けてきてしまった。
なんとか、ヤツに背を向ける。
「淳司…まさか。お前が好きだったのって、……」
オレは必死で首を横に振った。違う、ぜったいに違うんだ。頼むからお前はそう思ってくれ。
だが、それは、失敗してしまったようだった。
勇の、呆然とした気配に、そう悟らざるを得なかった。
もうだめだ。
もうだめなのだ。
「おかしい…よな。
おれはお前のこと――みすずとのこと、ホンキで応援してた。
リロード…したのだって、最初はそんなんじゃなかったんだ。
おまえが…死に掛けてたから……
おれのこと車からかばって、ひかれて、死にそうになったから……」
涙と一緒に、言葉がぼろぼろこぼれだしてた。
勇は、たぶんこのことを覚えてはいない。わかっている、わかっているけど、止まらない。
「おれはセーブストーンもってるから、ひかれたって平気なのに。
『お前も、大事な、やつだから』って…」
勇は、何も言わない。
「……そういう大事じゃ、ないのにな。
変だよな、おれ。
……嫌いになったよな、おまえ。
なくなっちゃったよ。おれのあした。お前の平穏無事で…幸せだったはずの明日……」
~To Be Continued~
淳司(あつし)の場合 1-10
『To The Last Lot』
プリカの口上をみなまで聞かず、オレは部屋に駆け込んだ。
母さんには申し訳ないが、朝ごはんを断り、全速力で家を飛び出す。
そのかいあってオレは、勇に捕まることなく学校に到着することができた。
しかし、ヤツはクラスメイトだ。
気を抜くことはできない。
オレは右手をポケットに入れたまま、ヤツを警戒しつづけた。
ヤツはこちらを伺っているが、話し掛けてはこない。
まあ、そうだろうな。
昼休みになるとこれまで同様、ふいと教室を出て行った。
玄関に向かうのか?と思ったが、やつは階段を上っていく。
みすずにらぶれたぁ、出さないのか?
疑問には思ったが、深追いは危険だ。コレ自体ワナかもしれない。
オレはとりあえず教室へと戻った。
勇はらぶれたぁを出したか否か?
このことを確かめる方法は、ある。
放課後、予定があるか、みすずに聞くことだ。
はたして彼女は「今日はアイス食べに行くのごめんね~」と言って、クラスの女子数人と教室を出ていった。
一方で勇も、ひとりさっさと教室を出て行く。
どうなっているんだ? 告白、しないのか??
オレは充分な距離を置き、勇を追いかけた。
たどり着いたのはいつもの神社。
勇はこれまでと同じように、人待ち風情で大鳥居にもたれる。
どういうことだ?
みすずはこないのに。
わけがわからない。
どういうつもりなんだ。
意を決してオレは、勇に声をかけた。
「勇……」
「よ。」
勇はぜんぜん、なんでもないように手を上げて挨拶を返してくる。
「なん、で…
みすずに告白するんだろ?」
「しねぇ」
「っ!」
どういうことだ?
「したって同じだろ。戻されちまうんだからよ」
「…………。」
「お前、悩んでるんだろ」
「……。」
「なに、悩んでんだよ。
ひとりで悩んでんだよ。
お前のそれ、解決しないことには、俺のシアワセなあしたはソンザイしないんだ。
だからどんなことだって聞くぜ。
いちお、いちばんの親友だしな」
「…………だめだよ。
聞いたらなくなる…
勇のシアワセなあした。…それに、おれのあしたも」
「だからって、じゃあずっとくりかえすのか?
…セーブデータだったら俺も持ってる。繰り返しになるだけだぞ」
「………………………」
「お前は“今日”をくりかえすことで、俺を根負けさせようとしたな。
でも同じ事は、俺にだってできるんだ」
「…………………」
勇がポケットに手を入れ、繰り返す。
「お前が何も言わなければ、繰り返しになるだけだぞ」
「…言えるもんか。
こんなことぜったいいえない。
繰り返しになるとしても、ぜったいに」
勇がポケットの中でなにかを握り締める。
黄色い閃光が視界を覆う。
一瞬あたりが夕闇に変わる、でもオレも同じようにする。
『LOAD!』
プリカの口上をみなまで聞かずオレは部屋に駆け込んだ。
母さんには申し訳ないが、朝ごはんを断り、全速力で家を飛び出す。
そのかいあってオレは、勇に捕まることなく学校に到着することができた。
授業を受け、昼飯をなんとか食べて、そっと下駄箱へ。
こうなったらなりふりなんか構わない。みすずへの手紙なんか、出させない。
しかし現われたヤツはなぜか、手にした封筒をオレの下駄箱に入れた。
挑発かよ!
しかし、引っ張り出したそれの形状にオレはぼうぜんと立ち尽くす――
その封筒は、みすずへのらぶれたぁが入れられていた封筒の、色違いバージョンだったのだ。
HRが終わるが早いかオレは教室を飛び出した。
指定の時間までは結構余裕がある。けど、今のオレの身体では長い距離を走れない。
向かう先は? 手紙に書いてあった先、いつもの神社。
一気に、とはいかなかったが、走ったので息が苦しい。大鳥居に背を預け、息を整える。
と、ヤツが現われた。
「勇っ…!!」
その瞬間、腹立ちが一気に沸騰した。
「おまえ…おまえ…どういうつもりだよ!!!」
手紙を――ヤツがオレの下駄箱に入れたそれを封筒ごと――突き出す。
淡い水色と柔らかなカットで、なんとも優しい印象の封筒。ぶっちゃけ“らぶれたぁを入れるために生まれたよーな”シロモノだ。
すくなくっともふつー、ヤローがヤローにあてる手紙に使うもんでは決してない。
――なのになんだってこんなもんを使ったのかと問われると、ヤツはいけしゃあしゃあとこう言った。
「いや、これならお前を引っ張り出せると思って」
「……おまえっ……」
「まあ、お前は怒るだろうとは思っていたけど、ハナシすらできないんじゃどうにもならないだろ? お前も俺も、このまんまでいいわけはないんだし」
ふざけるな。
「え…」
「ふざけんなっ!!!!」
怒声が口から飛び出していた。
「な、…なんでそんなに怒るんだよ。これはその…」
勇は顔色を変えて後ずさり、へどもどと言い訳を試み始めた。
ヤツはたぶん、こんな便箋で呼び出しかければ好奇心の強いオレのこと、一体どんな変人がそーしたのやらと見に来ると踏んだのだろう。
わかってる。わかっているのだ。
しかし、これは。
いまの、オレにとっては。
「冗談だとしてもあんまりだろ!!
好きでもないのにこんなふうに…よりによってこんなのっ……
……あんまりだ」
もうどうしようもない。泣けてきてしまった。
なんとか、ヤツに背を向ける。
「淳司…まさか。お前が好きだったのって、……」
オレは必死で首を横に振った。違う、ぜったいに違うんだ。頼むからお前はそう思ってくれ。
だが、それは、失敗してしまったようだった。
勇の、呆然とした気配に、そう悟らざるを得なかった。
もうだめだ。
もうだめなのだ。
「おかしい…よな。
おれはお前のこと――みすずとのこと、ホンキで応援してた。
リロード…したのだって、最初はそんなんじゃなかったんだ。
おまえが…死に掛けてたから……
おれのこと車からかばって、ひかれて、死にそうになったから……」
涙と一緒に、言葉がぼろぼろこぼれだしてた。
勇は、たぶんこのことを覚えてはいない。わかっている、わかっているけど、止まらない。
「おれはセーブストーンもってるから、ひかれたって平気なのに。
『お前も、大事な、やつだから』って…」
勇は、何も言わない。
「……そういう大事じゃ、ないのにな。
変だよな、おれ。
……嫌いになったよな、おまえ。
なくなっちゃったよ。おれのあした。お前の平穏無事で…幸せだったはずの明日……」
~To Be Continued~