「僕と付き合ってください!」
「…ごめんなさい、生理的に無理かな…」
5階建ての校舎の屋上。また俺は振られた。
もはや、足早にその場を後にした少女に、最初ほどの悲しみを抱くことはなかった。
「また振られた…。なんで俺はこんなに好かれないんだ」
いままでに告白した回数は既に記憶の彼方にある。
その中で成就した回数は…いや、言うまでもないな。
先ほどの俺の発言から容易に読み取ることが出来るであろう。
中肉中背、運動はさほどできず、勉強は中の上。
こんな普通な、いや、普通よりやや劣っているような俺が、
彼女を作るなんざ、大変おこがましいことだったのだ。
俺は少しの間感傷に浸ると、教室に向かった。
今は放課後。
俺のクラス、“3-A”ではみんな部活をするか帰宅するかなどの理由で、
帰りのSHの後は15分足らずで、もぬけの殻となる。
だが、今日は違った。
俺が教室に向かうと、クラスメイトであり、俺の友人の山城太一、そして石原元哉が談笑していた。
山城は、目が鋭く少し髪をいじっているので、怖い印象を受けてしまうが、根はいい奴だ。
部活には所属していない。
石原は、野球部に入っていて、頭を丸めている。
恐らく、俺が今日告白すると知って、部活はさぼったのだろう。
正直、何度も振られ続けてきて、振られ慣れているとはいえ、
友人にからかわれるのは辛いものがある。
彼らがいる教室には、入りたくなかった。
しかし、教室にカバンが置いてあったため、仕方なく教室のドアに手を掛けた。
それと同時に二人の会話はピタリと止まり、猛ダッシュで俺のところへ駆け寄ってくる。
「吉崎、振られたんだろ?」
「バッカ、振られてなかったらコイツがこんな顔してるわけないだろ!?」
「だから持田はお前にはハードル高すぎだっていったじゃん!」
「夢見るのもいいけど、そろそろ現実も見ようぜ?」
…やっぱり恋の相談なんてするんじゃなかった。
こいつ等に相談して得られたものなんて、たかが知れているしな。
次に告白する時は、相談するのは止めよう。
少なくとも、山城と石原には。
俺は、カバンを手にすると、二人を軽くあしらって教室を出た。
「あれ?そこに落ちてるの吉崎のじゃないか?」
山城が机の下に落ちているノートに指をさす。
「吉崎裕次…。あいつ落としてったんだな。」
表紙に記入された名前を読み上げ、ノートをめくる。
「何のノート?」
石原がノートを覗き込んでくる。
山城はそれを煙たそうにする態度をとり、間を空けた。
「今読んでやるからそんなに寄るなよ…。えーと」
山城はノートに書いてある文を読み上げていった。
教室に二人の笑い声が響いた。