授業が終わり、放課後になった。
教室には俺と遥子の二人しかおらず、俺達は席について話していた。
「これから、持田に告白してくる。ちゃんと見守ってくれよ」
「わかった。あのね、裕次、その前にひとつ言いたいことがあるんだけど…」
「何?」
「多分信じられないと思うんだけど、真面目に聞いてくれる?」
「うん、何?」
「でも、普通では考えられないようなことなの。それでも聞いてくれる?」
「そうか、何?」
「結構真剣な話なんだよ?適当に聞いたりしちゃダメだよ?」
「ok、わかった。そろそろ本題に入ろうか」
―――なんか言いづらい…。
なんだか喋っちゃいけない気がする。
いままでこのことを誰かに話したことはあった。
案の定、誰も信じてくれなかった。
ちゃんと聞いてくれた人もいたけど、心の中ではこれっぽっちも信じてなかったんだ。
そうだよね。
私だってこんな話、いきなりされたら冗談だって思う。
裕次だって、きっと信じてくれない…。
そういえば裕次にこの話をしたことは、いままで一度もなかった。
なんでだろう?
取り立てて理由があった訳でもない。
思い返せば、裕次と話をしている時に、タイムリープのことが頭に浮かんだことがない。
好き…だからなのかな。
好きな人と話してる時は、嫌なことなんて忘れちゃうもんね。
―――嫌なこと?
なんで今、私はタイムリープを嫌なことだと思ったの?
むしろこんな能力、誰も持ち得ない、素敵なものじゃないの?
…本能的に感じているのかもしれない。
素敵なのは上辺だけ。
この能力を使ったことによる、のちに起こりうる反作用を恐れているんだ。
「どうした遥子?」
…裕次。
うん。
一人で悩んでたって仕方無い。
裕次に話して、一緒に考えてもらおう。
「…あのね、タイムリープって知って」
「遥子っ!!」
私の言葉は、教室の入り口に立っていた人物にかき消された。
「モッチー…?」
そこには、持田由実がいた。
スッと、教卓の前に立つと、二人を一瞥した。
廊下側とは反対の窓から、涼しげな風が入ってきている。
その長く綺麗な髪をたなびかせ、廊下まで吹き抜けていた。
妖美な雰囲気を漂わせ、瞼を閉ざしている。
「遥子、吉崎君。二人とも、昨日、そして今日のことは次には持ち越せないわ」
持田由実は窓の方へゆっくりと歩いていく。
「普通なら、今日のことは明日も覚えている。
でもあなたたちはもう、世界の秩序から外れてしまっているでしょう?」
「由実…?」
いつもと雰囲気が違う。
何か様子がおかしい。
そう思ったときには、窓のふちに手が掛けられていた。
「由実…何、してるの?」
持田由実は、窓から身を乗り出した。
涙が、頬を伝っていく。
「嫌…、助けて遥子…」
「!」
窓のふちから手を放す。
体が完全に教室から外へ出た。
「由実!」
「おい!ここ4階だぞ!!」
「由実!!」
二人は、持田由実がいた窓に駆け寄る。
下を眺めた。
真っ赤な薔薇。
その中心。
明らかな異物が身を固めていた。
「きゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
また、時が巻き戻る。