ライトノベル投稿死南
第五章 応募編
無事に印刷が終ったら次は原稿をまとめましょう。プリンタが吐き出していった
反対順に重ねていくと自然に順番どおりになります。ページ出力をしていればこん
な方法をわざわざ取る必要もありませんが、ただでさえややこしい設定欄からページ
出力の項を見つけ出すのは存外骨が折れるものです。見つけたら見つけたでまた数値
による設定があなたを待ち受けておりますので、ここは無視すると考えるのが妥当で
す。応募する賞によってはページ数を原稿真下に書くか、左下・または右下とわかれ
ていますので、ここは刷らずにおいて、後から手書きでページ数を書き入れるとよい
でしょう。
まとめ終わったら最後の確認、何度目かの推敲にはいりましょう。何度もしたから
間違いないなどと油断せず再び試みてください。画面上の文字では見過ごしていた誤
字が紙に出力されるととたんに目に付くものです。ほら、これを御覧になってくださ
い。第二章の構築編でキャラの名前をいっとき「 」のスペース二つ分で省略して
書き進めていきましたね。後から姓名判断で導き出した売れるキャラの名前を入れた
つもりのあなたでしたが、ここでいくつか埋め損ねていたのです。「 は」になっ
ていますね。これが選考委員の方々の目に入ればその瞬間にゴミ箱行きのところでし
た。わざわざ新しく印刷する必要はありません。ボールペンで書き足しておけばそれ
でよいのです(*1)。ついでに人名の隣にルビも振っておきましょう。ルビとはフリガ
ナのことです。洗浄便座の女性だけが使う秘密のボタンとはまた別の話です。
ここで別紙、もしくは原稿の裏などに書くあなたの個人情報があります。
職業年齢が標準の人はなにも悩むことはありません。問題はそうではないときです。
無職と打ってから二度バックスペースキーを押します。アルバイターと打ちます。
バックスペースキー長押しで前行の後ろまで消してしまいました。フリー。これは
なかなかよい感じです。でもこれではフリーライターともとれるかもしれません。
これでは経歴詐称です。空白にしておきましょう。履歴書と同じでいいのです。
年齢は１歳なら鯖をよんでも問題ありません。万一受賞したら「気が動転したので
間違えた」とでも言っておけば平気です。それでもなお、どのように気が動転すると
年を一個間違えることに繋がるのかを聞きたがる輩がいたら、手近なカナヅチで
こめかみの下辺りをパンと叩いてやってよろしい。目が覚めたら記憶が消えています。
ここではペンネームを決めるのがあなたの仕事です。不吉な名前をつけたら売れる
ものも売れません。響きがよく覚えやすい名前をつけましょう。青い空。蒼井空など
爽やかな印象がありプラスに感じられる気がしたあなたは、姓名判断サイトでそれを
占ってみます（*2）。すると凶ばかりで即刻この名前を廃案にしてください。
次は、有名な作者の名前を姓名判断にかけてみて、売れてるのによくない画数だ
ったり、最悪だったりするのを見てあなたは不思議に思います。作家の姓名判断に
夢中になり数時間が過ぎました。またノートパソコンが夏の気温に負けて熱くなり
だします。あなたの一日はペンネームを考えることで過ぎていきます。
名前も決まったところで原稿に穴を開け、ヒモで閉じたら封筒の用意をしましょう。
大判が必要なので100円ショップなどで買っておきます。エクスパック５００という、
相手に印鑑をもらい対面で渡してもらうエクスパック５００という郵便もありますが、
これはひかえましょう。どうせ受かりませんから高い料金払うだけ無駄です。そうし
たら宛名を書く作業です。取り合えず有名な電撃小説大賞の住所で練習してみましょう。
「東京都千代田区神田駿河台1-8 東京YWCA会館
(株)アスキー・メディアワークス 「第○○回 電撃大賞○○○部門」係
書けましたか？ 拝見。違います。YWCA会館です。あなたがお書きになったのはワイ
エムシーエーです。西城秀樹です。これで送ろうものなら審査員から頭に電撃が走る
まで殴られ病院代がかさむだけなので常に注意をしておきましょう。書き損じた箇所
は手ごろな紙を上から貼って書き直すか、修正液で消してください。時代はエコです。
やたらに新しい封筒に書き直してはなりません。これで落とされるかどうかは定かで
はありませんから、気に病む心配は無用です。若いうちはやりたいことなんでもでき
るのですから。
さて、封筒の宛名も書けて閉じた原稿を読み直していたら次々に誤字脱字が散見し
ボールペン片手に書き込み作業を進めてヒモを縛りなおしてたら時間はすでに夕の
５時１５分です。郵便局はもう閉まっています。もちろん慎重なあなたは締め切り
最後の日である今日まで読み返しをしていたので（*3）、ここで逃すともう終わりです。
しかし諦めることはありません。特定の郵便局には「ゆうゆう窓口」という場所が
あり、通常の受付時間を終えてもまだ今日付けで消印を押してくれるサービスがあ
るのです。はやまってポストに入れずによかったですね。そしたら来年の賞に持ち
こされるか、切手不足で返ってきたのを親御さんに見られて笑われ、血みどろの
戦いに発展するかのどちらかです（*4）。
該当する窓口にいき「これをお願いします」とでもいい渡します。すると局員は
特に表面の「○○小説大賞」の部分はあなたが思うほど見もせず、机に置いたのち
立ち上がると、なにとぞこの荷物がブッ壊れますようにとばかりに、激しく消印
スタンプをバンバンと二度叩きつけますが怒ってはなりません。受賞してからで
よいのです。「きみのおかげで自分がちっぽけだと認識できたよ」と一言添えると
何かしら満足感が得られる場合もありますが、時間が時間なのでやめましょう。
*1 ボールペンの製造会社に1次選考落ちの責任を追及するのはいささか疑問だ。
それだと封筒と用紙の製造会社も訴えねばならない。
*2 私は将来の内気気質で彼女もいた日がないが、結婚線が２本ある。これは外国人が
意味もわからず漢字で「妹」と入れた腕のタトゥーと同等のしろものだ。
*3 誰でもそうだ。私もそうだ。締め切り前に送れる人とは多分、まあ、そういう
人なのだろう。空が空色なのとよく似ている。納得してくれますか？
*4 受取人が切手代を払って受け取ってくれる場合も有るが、
その場合は相手が貴方の頭を電撃が走るほど殴りつける口実づくりとも受け取れる。
