Neetel Inside 文芸新都
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泥辺五郎短編集
「裸にバスケットシューズ」(微エロ注意)

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 全裸でバスケをしていると、時折股の間から汗以外の汁が溢れ出る。指先に触れて舐めてみると、甘酸っぱい味がして、青春だな、と天谷久留美はふと思った。

 天谷たち衣笠高校女子バスケットボール部は、インターハイに向けて恒例の全裸練習にいそしんでいた。この時期、バレー部や卓球部、男子バスケ部などは他校への遠征が重なり、体育館は女子バスケ部の貸し切り状態となる。部員はTシャツとハーフパンツを脱ぎ、パンティとブラを更衣室に置き去りにして、ソックスとバスケットシューズだけを履いて練習を始めるのだ。
「全裸になることで、筋肉のわずかな始動を観察し、相手のフェイントを見破ることが出来る。また、レギュラー陣の無駄のない筋肉の付き方やしなやかな動きは、下級生たちには大いに参考になるやろ。さあ、弾き飛ばせるんや、おまえらの青春の汗やそれ以外の液体を!」

 女子バスケ部を率いる前田監督がこの練習を取り入れて以来、全国大会ベスト8、ベスト4、準優勝と、着実に部は強くなっていた。今年こそは念願の全国制覇を、という思いで、特に三年生の部員たちは服を脱ぐのにも力を入れる。全裸練習を待ち侘びて普段から授業中もノーブラノーパンで過ごす剛の者もおり、男子生徒たちの集中力を低下させていた。全裸練習があまりに効果的なので、早朝や深夜にこっそりと体育館でやる者さえいて、他の部の男子生徒に見つかり、大問題になりかけたこともある。しかしどういうわけかその子と男子生徒は今では学年一仲の良いカップルになってしまっていた。

 天谷はスレンダーな体格とチーム一のスピードを生かし、コート内を縦横無尽に駆け巡り、後輩たちの羨望の眼差しを浴びていた。走り回るごとに、視られるごとに、天谷の身体からは体液が迸る。あまりにも股から溢れ出るそれを隠すためにも、天谷は走ることを止めず、汗をかき続けた。スリーポイントダンクシュートを決め、ライン際ギリギリのドリブルからドライブシュートを決め、ダブルドリブルの上を行くトリプルドリブルを完成させた。
 しかしこと全裸練習時に関してのみ、天谷に並ぶ実力を発揮するものもいる。
 栗原早苗はいつもならば動きも遅く、シュートも下手で、パスさばきはどうしようもないといった、鈍重な眼鏡娘だったが、それらを補って余りある武器が彼女にはあった。バスケットボールとほぼ同じ大きさの二つの乳房である。
 彼女の胸はフェイントに大きく役立った。ボールを投げた、と思わせておいて、実は乳を揉みほぐしただけ、パスが渡った、と思ったら彼女の手にはボールはなく、ただおっぱいを揺らしているだけ、という具合に。マンツーマンで彼女についた選手は皆ボールと胸とを間違い続けて混乱し、ボールではなく彼女の乳を奪いに行く者まで出る始末。もっとも中には、しっかりと彼女の胸を認識しつつ吸い付いていく奴もいた。
 そしてもう一人、キャプテンであり真性のレズでもある東出孝美は、華麗なる指先のテクニックを駆使し、相手デフェンスの乳首をつまみ、あるいは弾くことで、隙を作り、シュートを決めた。時には隙を作るだけでなく、相手に「好き……」という感情まで芽生えさせることもあった。
 天谷は、もしも公式戦でもみんな全裸で戦えたのなら、栗原さんやキャプテンの半ば反則的テクニックを駆使して、楽に全国優勝を果たせるだろうに、と思っていた。汗とそれ以外にまみれる自分の姿を全国中継される時を想像して、また体液を絞らせた。

「皆さん、どうかしてマスよ!」
 体育館に片言の日本語が響き渡る。部員の中でただ一人、全裸で練習することを恥ずかしがり、常に手で胸や股間を隠しているせいで、普段の十分の一の実力も発揮出来ないでいた、アメリカからの留学生、二年のルイス・フィリップであった。彼女は日本に、とりわけこの部に馴染もうとすることに熱心なあまり、全裸になるところまでは素直に皆に倣ったものの、どこかおかしいとは薄々感じていたらしい。
 ちなみに、前田監督は今年で四十歳になる精力絶倫の独身男性でありました。
「大体監督は服着たまんまなんておかしいじゃないデスか……」
「前歯に陰毛が挟まったような物言いしとらんと、はっきり言わんかい」監督の視線はルイスが懸命に隠そうとしている小ぶりの乳房を凝視して言う。
「ジャージの下にはきっと、私タチの裸を見てそそり立ち、勃起し、怒張しているpenisがあるはずdeath!」
 何を今さら、と天谷は思う。
 片手で楽に隠せる胸で羨ましいわ、と栗原は手のひらで隠しきれない己の乳輪を眺める。
 東出は心のよだれを垂らしている。
「しゃあないの、ほんなら見せたるわ」
 前田監督はルイスの指摘を受け、堂々とジャージの上下を脱ぎ、トランクスをびりびりと引き裂き、部員たちと同じように全裸になった。
 そこにはルイスの言った通り、高々とそそり立つ男根があった。penisという名の金字塔が打ち立てられていた。恐れも恥じらいもなく、威風堂々とそれは天を目指していた。
「やっぱり私タチの裸をイヤラシイ目で見ていたんじゃないデスか!」
 しかし監督のナニを見て驚く部員はルイス以外にはいなかった。一人嬌声をあげるルイスに劣情を催す、東出傘下の部員はいた。
「ルイス、それは違うわ」
 泣きそうな顔で、それでいて監督のソレから目を離せないでいるルイスに天谷は優しく声をかけた。
「監督はね、この練習の時だけあんな風ってわけじゃないの」
「ど、ドウイウことデスか?」
「普段からずっと、私たちを見ている時は股間を膨らませっぱなしなのよ」
 そうそう、だよねー、とあちこちで肯定の声があがる。
「ルイス、おまえは近頃の日本娘からは失われた、おぼこい乙女心を持つ、よいおなごじゃのう。儂はおまえらを見てそそり立つ股間を隠したことなんてあれへんぞ」
 そう、ルイスは相手の目をしっかり見て話す習慣が身についていたため、監督と対峙する時はいつも目ばかりを見ていた。誰が見ても一目で分かる監督の股間の盛り上がりに気付けなかったのだ。
「そうデシタか! いつもイヤラシイ目で見ていたのなら、この練習は特別助平な目的でやっていたわけではないのデスね」
 そうだよ、と監督はルイスに微笑みかけた。誤解の解けたルイスは、ぱあっと顔を綻ばせ、思わず監督に抱きつく。胸に頬を寄せたつもりが、あまりにも監督のソレがびんびんであったために、亀頭が彼女に口づけする形になってしまった。
「オウ……ファーストキス、でした」
「わかってくれたのなら、それでいい」
「ハイ!」

 迷いの無くなったルイスと共に、天谷たちは全裸トレーニングを続け、一回り成長してインターハイを迎えた。
 まともにユニフォームを着なければいけない公式戦では栗原早苗はベンチウォーマーだったが、彼女の胸はベンチ内からでも相手を惑乱させる力を持つようになっていた。東出はその指で触れるものであれば、相手の腕でも背中でも、即座に性感帯へと変えることが出来た。そして天谷はその体液を分泌しやすい体質をさらに進化させ、常にユニフォームが透けるところまでびちゃびちゃにすることに成功した。おかげでほぼ全裸のように見える彼女の姿はテレビ中継され、全国制覇と共に自身の夢を達成したのである。
 余談ではあるが、全国大会決勝戦、五点ビハインドの場面で最後のタイムアウト時、部員は監督を囲んで気合いを入れた。そそり立つ監督の股間に手を置き、「監督のために、そして監督のpenisのために、最後まで諦めることなく戦いヌキましょう!」と檄を飛ばしたのは、誰あろう、ルイスその人であった。

 高校卒業後、栗原早苗は人を惑わす巨乳を生かし、「胸魔術(ボインパワー)」を扱うマジシャンとして世間を湧かしている。
 東出孝美は大学進学後、その指先を生かして多数の女生徒を己の信者とし、彼女を教祖とする宗教団体を設立した。
 天谷久留美は実業団に所属し、相変わらずのバスケ三昧の日々を送っている。ここでも日本一に輝くために、全裸トレーニングを提案しているが、大人たちは頭が固くてなかなか実現出来そうにない。

「思えば若いってだけでなんでも出来たんだよねー、あの頃は」
 卒業後二年、成人式の場で再会した栗原と東出と慣れない酒を飲みながら、まだまだ若いのに年寄りのような愚痴を天谷はこぼした。
「久留美ちゃんはあの大会で燃え尽きちゃったのかな」
 今も周囲から注目を集めている乳を揺らしながら栗原は笑う。
「まあ確かに若い方が何かと真っ直ぐで、利用しやすいよ」
 すっかり悪の総帥っぷりが様になってきた東出は、密かに天谷を籠絡しようと、悪魔の指先を天谷の手に伸ばす。しかし酒で身体が火照っている天谷の身体は既に大量の汗でコーティングされており、滑って弾かれた。
「そういえばルイスちゃん、今度子供が生まれるんだって」
 栗原はそう言うと、前田監督とルイスの結婚式の写真を取り出して眺めながら、いいなあ、とため息をついた。ルイスは三年に進級した後、正式に日本に帰化し、天谷たちの抜けた後のバスケ部を連覇に導く原動力となった。そして卒業後前田監督と結婚したのだ。
「でもきっと、バスケ部弱くなっちゃうね。もう監督はルイスちゃん一筋になるから、みんなを見ても常に勃起なんてしてられなくなるよ」
 もったいなさそうに言う東出の言葉を聞いて、天谷は自身の将来のヴィジョンが突如閃いた。
 母校の男子バスケ部を率いる監督に就任し、常時全裸練習を徹底させるのだ。女子の場合と違い、常に全裸でもそれほど問題視されることはあるまい。しきりにペチンペチンという音の響く体育館で彼女は恍惚に浸る自分を想像する。生徒たちの誰よりも液体をまき散らしている彼女のもとへ、水分補給のために生徒たちが群がってくるのを、彼女は大いなる愛情を持って抱き締めてやるのだ。
「久留美、よだれよだれ!」
 栗原が指摘しても虚ろな視線を宙にさまよわせたままの、妄想の国の住人となっている天谷のよだれを、東出はここぞとばかりに唇で受け止めた。それは甘酸っぱくて、まだまだ久留美の青春は続いているんだな、と東出は思った。


(了)

注:本文中に橘圭郎先生と静脈先生の作品への、許可を得ないままのリスペクト表現を挿入したことをお詫びします。

       

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