Neetel Inside ニートノベル
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この世の果てまで
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  彼らの物語

 

 むかしむかしある所に暇を持て余している高校生がいました、と俺は机に頬杖ついて考
えてる。それからどうなる?テロリストが突っ込んできてそれを救うヒーローになるか?
それともバンド組んでロックスターにでもなるか?……
 ホームルームは半ば終わりかけ。女教師がインフルエンザが流行っているので手洗いう
がいをするようにと話してる。
 俺にとって高校は退屈の極み。ありふれた顔ぶれと毎日顔を突き合わせ、ルーティンワ
ークのような授業を欠伸かきかきこなすだけ。このままじゃ静かに腐ってくだけ……だが、
どれだけ変化を望んでも何も起こらない。いつの間にか、人生なんてこんなもんさ、と俺
は諦めるようになった。

 今更、ヘーボンな日常なんて変わりゃしない。

 ホームルームが終わり、気だるい放課後に突入。俺が机に突っ伏していると誰かが後頭
部を叩いた。
「何寝ぼけてんだ、ユウ。どっか遊びいこーぜ」
 俺はは叩かれた後頭部をさすりながらヨウジを睨む。
「うるせー。お前サッカー部はどうしたんだ?」
「やめたよあんなの」
 クラスメイトたちは部活にいったり、繁華街に遊びにいったりと忙しそう。教室からど
んどん人が減っていく。
「ケンジもバスケ部やめてたな。お前ら根性なさ過ぎ」
 俺がそう言うとヨウジは笑った。
「もっと面白いことやりたいだけだよ」
 ヨウジはそう言って一枚の紙切れを机の上に置いた。
「創部申請書?」
「そういうこと。何か部活つくろうぜ!」
「何をするつもり?」
「それはこれから決める」
 俺は、はぁ~とため息をついて、申請書をヨウジのおでこに押し付ける。
「創ってから呼んでくれ」
「なぁ~面白いことやろうぜぇ」
 猫撫で声で懇願するヨウジ。そこへシンジがやってきた。
「何やってるのさ、2人とも」
「お~シンジか。この阿呆の馬鹿な考えを聞いてやってくれ」
 ヨウジがシンジの肩を叩き、一緒に部活を創ろう、と勧誘を始めた。
「いや、僕はカミカワくんとバンドやってるからさ、部活には入らないの」
「それは知ってるけどさ、まぁそこはどっちもやるってことで、青春を燃やし尽くそうじゃ
ないか」
 ヨウジの勧誘に苦笑いのシンジ。そこへカミカワが割り込む。
「シンジと俺は世界を目指すんだ。邪魔すんな」
 ヨウジとカミカワがじゃれあいを始める。こうなるとうざい。まったく馬鹿ばっかりだ……
 ガラッと扉が開いて、女教師が帰ってくる。
「ここにいるみんなだけでいいから聞いて」
「どしたの、キリコさ~ん」
 ヨウジはカミカワに馬乗りにされ、床に頬をつけながら叫ぶ。
「ヨウジ、先生って呼びなさい。まぁいいわ。今日から来る予定だった遅刻好きの転校生を
紹介するわね」
 キリコさんの後からへらへらした顔の男子高校生が入ってきた。
「さ、自己紹介して」
「みなさん、始めまして。キョウジです。よろしく哀愁!」
 教室が静まり返る。自己紹介したキョウジはすべったにも関わらずへらへら笑っている。
「キョウジくん、明日からは遅刻せずに来るのよ。席はあそこだから」
 へえへえ、とぺこぺこ頭を下げながらキョウジは指示された机に座る。
「転校生だって~」
「珍しい」
「どっからきたの~」
 アミ、ハツ、ユキのかしまし3人娘がキョウジの机に群がる。じゃれあってたカミカワと
ケンジも後に続く。
 教室にいた連中はみんなキョウジに興味津々。
 俺とシンジはその様子を眺めている。
「シンジはいかないのか?」
「う~ん、後でいいや」
 そう言ってシンジはipodを聴き始める。俺は窓の外を眺めながら、今日も平和だ、と
1人ごちる。
「おう、転校生だって?」
 どこから現れたのか、ケンジが横に立ってキョウジの方を見てた。
「ケンジか。そうみたいだな」
「隣りの組にも転校生が来るらしいぞ、明日。この時期に2人も転校生だって、珍しいよな。
しかも、女らしい!」
 ケンジがエロい顔をしてにやける。女ねぇ、どうせ不細工だろ、と俺が笑うとケンジが、
いや、すげー美人かもしれない、と期待に鼻を膨らませて言った。妄想を語り続けるケンジ
を無視して、俺はシンジに話しかける。
「何聴いてるんだ?」
 シンジは片方のイヤホンを外す。
「いや~ずっとコピーしたいと思ってる曲なんだけどね。何しろ僕とカミカワくんだけじゃ
できそうもない曲なんだ。メンバーがあと最低でも2人いないとね。聴いてみる?」
 俺は差し出されたイヤホンを耳にあてる。なんだか懐かしい曲だ。
「タイトルは?」
「レディオヘッドの『パラノイド・アンドロイド』だよ」
「良い曲だな」
「でしょ!どう僕と一緒にバンド組まない?」
「断る」
 そんなぁ~と落胆するシンジ。俺はイヤホンを外す。耳にはまだそのメロディーが残って
いる。なんか変な気分だ。ちょっと感傷的になってる。そんな気分を誤魔化すように、また
俺は窓の外を眺める。もう秋が近い。キョウジって転校生が馬鹿笑いしながら話してるのが
聞こえる。それを聞いて笑うかしまし3人娘。カミカワとヨウジが下ネタを言ってる。ケン
ジはまだ妄想を続けてる。シンジは音楽を聴きながら指先を机を叩きながらリズムをとって
る。

 これが俺の日常。騒がしく、泣きたくなるほど平凡な……

 だが、まぁ、それもいいか、なんて俺は思う。いつもなら不平不満を吐くところだけど、
たぶん、シンジから聴かされた曲のせいだろう。不思議なもんだ。ま、とにかく、しばらく
はこれでいいや。それにしても……あ~ぁ、俺の物語はいつめでたしめでたしで終わるんだ
ろうな。
 突然の睡魔。俺は眠たくなって、目を瞑る。
 





 終わり








 ――――





 ナナシは手を止めて、ペンを本の脇に置く。ナナシの体の電池は寿命を迎えている。す
ぐに彼の体は活動を停止するだろう。それでも彼の顔は晴れやかだ。目を閉じて、終わり
を迎え入れようとしている。意識が遠のく瞬間、彼の頭の中に見覚えのある女性の笑顔が
現れる。それは遥か過去に愛した女性なのだが、名前すら忘れてしまった彼はそれが誰だ
かわからない。それでも、彼はその顔を死の間際で思い出せたことは幸福なのだ、と考え
る。そして彼は動かなくなり、静寂が訪れる。
 彼によって綴られた物語はこれ以上続きはしない。

 だが、それでも、「彼らの物語」は続いていく。







〈了〉




       

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Neetsha