小さいころなら誰でも一度はあこがれる魔法使いという存在。
けれども私は魔法使いなんていうのものにはちっとも興味なんて沸かなかった。
「いたぞ、こっちだっ!」
都会のオフィス街にけたたましく木霊する男の声。
何人もの足音が私に近づいてくるのがわかった。
薄暗い路地に迷い込んでしまった。
いわばお決まりのピンチ状況だ。
まぁ、そんなこと考えられるうちはピンチでもなんでもないのだろうけど。
目の前には甲冑姿のまさに騎士という表現がふさわしいであろう男が、片手にした剣の刃先をこちらへ向けて佇んでいる。
表情を確認することはできない。
けれども多分、緊張と、勝利を確信した少しばかりの余裕の笑みが入り乱れたそれはそれはカオスな表情をしていることだろう。
「ん~、こまったな~」
私は鬱陶しい前髪をかき上げると騎士に向けておどけて見せた。
「……」
騎士はの返答をよこしたが、私に対する殺気が少しばかり増しているのが感じ取れた。
「……、ねぇ、騎士さん、協力してくれない?」
私はそう言って騎士にウインクした。
「黙れ、魔女っ!」
騎士の言葉に私は自傷の意笑みを漏らす。
魔女、確かに今の私はそう呼ばれるにふさわしい存在であろう。
他人から見れば、私は夢のような力である、いわば“魔法”と呼べる代物を扱うことができ。
その気になれば……
「もう、意地悪なんだから……」
私はそれだけ言うと瞳を閉じ、構築式を頭の中で形成する。
足音がだんだんと大きくなってきている、もう私に残されている時間はあまりなさそうだ、急がないと。
こんなことを言ってしまうと世間一般的な人々のイメージを崩してしまいかねないのだけれども。
魔法なんていうものは現実には存在しないんだよね。
人々が魔法と呼ぶものは、普通の人々が理解していない現象、事象を理解。
そしてそれを有効的および機能的に変換する作業の総称のことなんだけど……
まぁ、私も実はあんまりよく理解はしていない。
ほら、人間って脳の30パーセントも使わずに死んじゃうっていうでしょ?
その使わない部分をほんの20パーセントでも使えれば魔法は夢物語から現実的なものへ、理解できるものへ変化するらしい。
「構築……、完了っ!」
私は瞳を開き、頭の中に描いた魔術公式を人差し指で宙に描いた。
そして地面を勢いよく蹴り上げる。
すると私の体は重力を無視し、蹴り上げた勢いに任せて高々と宙に跳ね上がった。
「なっ……!」
騎士が唖然として私を見上げていた。
今日スカートを履いていたら危うく見られるところだ。
私は再び頭の中に簡単な魔術公式を構築、実行した。
すると私の体はふわりとまるで何かに支えられるかのごとく静かにビルの屋上へと舞い降りた。
そんなに難しいことをしているわけじゃない。
私に掛かっている重力のパロメーターをちょっとばかしいじくってあげただけ、ただそれだけだ。
「さてと……、あいつらしつこいからなぁ……」
そんなぼやきをもらしながら私はとある場所へと向かった。