「この国は、ほんの数年までGDP第2位の経済大国でした」
教卓ではげた教師が言った。
「現在ではどうでしょう。GDPは8位。統一朝鮮にも劣っています。一位は言わずともユーロ連邦、二位はアメリカ、三位はソヴィエトです。当時の第二位である日本、そのGDP約5000億円。つまり現在のアメリカ合衆国と同等のレベルだったわけですね。日本がどうしてここまで落ちつぶれたのかについては諸説ありますが、自民党による60年間にも及ぶ独裁体制がこの状態を生んだといわれています。麻生太郎ですね、彼は漢字がわからず、カップめんの値段すら分からないのに庶民の気持ちが分かる、などと発言するなど、まさにこの国の恥とも言える存在でした」
教師は、頭を掻き揚げながら窓の外を見つめる。
「それを、変えたのが民主党、小沢さんと鳩山さんですね。十数年前に起こった百年に一度といわれた大不況を、自民党からの政権交代という方法で乗り切りました。彼らがいたからこそ、私たちはこうして、平和な日本国で生きていられるわけです」
「さて、明後日貴方たちは投票を行うわけですが、この国で生きていられるのはどの政党のおかげだったのか、それをよく考えて投票してください。では、これで終わります」
起立、礼。委員長の澄んだ声を聞き、それを合図に授業が終わった。
メディア・リテラシーをつけるためとしてこの学年はあるという。
だが、教えられるのはいかに民主党がすばらしい政党で、自民党がすさんだ政党だったか、だけだ。情報の取捨選択以前に、情報が少なすぎる。先の戦争の影響か分からないが、自民党の資料がまったく無いのだ。
バブルがはじけたのは自民党のせいで、その景気を作り出したのは民主党。大不況を生き残れたのは民主党のおかげ。鳩山伝。兄の死を乗り越えて、政権交代と日本の復興、第二ロッキード事件。
政治に関心があるものは民主党には入れようとはしない。行動と結果が矛盾している、怪しいからだ。
ネットの情報だが、それに関して調べること、民主以外を支持することは問題ではないのだが、排民主論を唱えた学生が交通事故で死んだり、新興政党である社会党の党首が暗殺されたりと大きな行動を起こすと障害として排除されるらしい。
物の好きこと無かれ。
私の友人数人を除き、他の人たちはみな民主党へ入れるようだ。
私自身、この国の行く先を案じて民主には入れないほうが良い、と常日頃口にしているのだが、右翼学生の戯言程度にしか認識されず、むしろ危険思想らしい。
おかげさまで消されずにすんでいるが、一学期の情報論の成績が赤点だったのは辛かった。