Neetel Inside 文芸新都
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人間的思考の停止と新世界
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 正直、死にたいと思っていた
あの日、僕は絶望に我を忘れていた。

立ち上がることすら億劫で、夢か現実かも解らないまま、薬を飲んだ。
次に気がついたときには、自分は人間ではなくなっていた。
鏡に映るどす黒い陰が、へらへらと笑っていた。

自殺をするつもりで、意識がもうろうとする中、薬を飲んだ。
何かつらいことがあったわけでもない、両親は厳しいけど、優しいし。女に振られたわけでも、友達を失ったわけでもないし、虐めを受けた訳でもない。
特に何もない、でもその何もない、が僕には怖かったんだ。

薬を飲んで変わった僕は、全身の筋肉が弛緩し、ケツの穴が開いている感じがした。
全身がむず痒いような感覚、布ずれに性的感覚を覚えるほど肩が気持ちよくなっていた。
瞳孔は開き、手が震え、不気味に笑う口からはよだれが垂れそうになる。

僕はおかしくなってしまったんだ、もう戻れないんだ、もう人間じゃないんだ。
そんな事を考えるとすっと、肩の重みが抜けていった。

・・・

僕は毎日のように考えていた。
なんで僕は生まれたんだろう、人間は死ぬまでに何をやるべきなのか、死んだらどうなるのか、僕は・・・本当は何がしたいんだろう。

でも、薬を飲んで、死のうと思って、解ったんだ。
人間なんて所詮は蛋白質の固まり、動物と変わらないんだって。
僕だけかもしれないけど、それを考えたら、少し楽になれたんだ。

・・・

それからは、毎日のようにOD(オーバドーズ、薬を必要以上に飲む行為)を繰り返した。
病院に行って、鬱がつらいと言って薬をもらい、二・三日分の薬を口に放り込み、水で流し込んだ。
程なく、僕はおかしくなった。

最初は、気が楽になっていたのに、そのうち酷い被害妄想に襲われるようになった。
少し人に見られるだけで、僕が監視されているような感じや自分が犯罪者である感じがした。
あのとき、僕が自殺願望ではなく他の理由で薬を飲んでいたのなら、人を殺していたかもしれない。そう考えると今でも恐ろしい。

人が恐くなっていた僕は、おきまりのパターンで、引きこもりになったんだ。

ある日、とても天気が良かったので、少し出かけようと思ったんだ。
異変に気がついたのは椅子から立ち上がって、ヘッドフォンを外したとき・・・
「今聞こえている音楽は何だろう」って。
音楽が好きで、人と話しているとき以外は大抵ヘッドフォンをしていたので、音楽が聞こえているのは当たり前の生活をしていたが、そのときはヘッドフォンを外しても、音楽がやむことはなかったんだ。

誰かが、後ろから話しかけてきて、前には自分が立っていて、僕を見て居るんだ。
テレビからは自分を笑う声が聞こえてきて、壁という壁から目が出てきて、僕を見ていたんだ。
怖くなかったと言ったら嘘になるかもしれないけど、僕は新世界の住人になった気分で、音楽に合わせて首を振りながら一日中、自分と向かい合って話しをした。

もう一人の自分はすごい良い奴で、僕に少し休めよ、と言ってくれた。
気がつくと一人、椅子の上で四日が経過していた。
栄養失調と薬の副作用で動ける状態ではなかった僕は、自分から、119番を押した。

あの時の、一瞬の世界は、今でも脳裏に焼き付いている。いや、脳自体が焼けただれて腐りかけているだけかもしれない。

程なく、救急車で運ばれた僕は点滴を受けながら、このまま死ぬんだって思っていた。
このまま死ぬなら、少し楽で良いな、なんて甘ったれた事を考えながら。

次に気がついたときは、友達が僕の目の前にいて、泣いていた。
そのとき、僕は一番してはいけない事をした、と気がついたんだ。
それから僕は人間に少しでも戻るために、リハビリを始めた。

・・・

       

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