Neetel Inside 文芸新都
表紙

三人とコーヒーが大きな丘で
第一章

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◆第一章 三人の兄弟

街の人々はピーターとアンシーとエマを三兄弟だと思っていました。
三人共この街には珍しい、苦いチョコレート色みたいな黒髪をもっていましたし、大きな瞳、人懐っこい笑顔がそっくりだったからです。
本人達も、三人が同じ服を着るとまったく見分けがつきませんでした。
何より三人は八歳頃から三年近く兄弟のように、いつも一緒にいたからでした。

三人共別々の家庭の子供でした。
ピーターは街のはずれでパン屋を営むガブリ家の一人息子、
アンシーは少し離れた街の貴族ヒメミ家の一人娘、
そしてエマは牧場を営むワトス家の三人娘の末っ子でした。
彼らが兄弟でないことを聞いた街の人は必ずおどろき、必ず同じ事を聞くのでした。
『それぞれ遠くに住んでいる三人が、どうやって仲良くなったの。』
聞かれるたびに三人は毎回仲良くなった経緯を思い出そうとするのですが、どうしても思い出す事ができないのでした。

彼らの住んでいる所はポロナワ54。高い山の頂上に位置していてる街
来客も無く、またほとんどの街人がわざわざ山を降りてまでこの街を離れようとはしませんでした。
そのため自然に子供が親の職業を継ぐようなシステムが成り立っていたので、
閉鎖的でしたが、平和な街でした。
職業関連以外の教育を必要としなかったので学校も無く、
11歳の彼らは街から少し離れた丘で、毎日雲をつかまえたりのんびり遊んだりしていました。
雲で消しゴムを作ったり、
ピーターがすぐに泥だらけにしてしまう靴のかわりに新しく真っ白な雲の靴を作ったり、
たんぽぽで作ったコーヒーが大好きなエマの父親ウォーターズのためにマグカップをつくってあげたりしていました。(一度間違えてニコルおじさんの吐いた煙草の煙を雲と間違えてマグカップを作ってしまい、そのマグカップでコーヒーを飲んだウォーターズを病気にさせてしまったりもしました。)

     


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とある晴れた日、いつもの丘でピーターとアンシーが、雲で出来た網を木の棒にくっつけて虫取り網を作っていると
街の方からエマが小さな体を揺らし、悲しそうな顔で丘を登ってきました。
『エマ、遅かったじゃないか。』
ピーターが網と木の棒にくっつける作業を中断して話しかけました。
『そうね。この虫取り網で夜の大人達の寝言を捕まえて、翌日の朝に三人で聞こうと提案したのはエマじゃない。』
アンシーも軽く責めるように言いました。
けれどもエマは何も返事をせずに、ただうつむいてしまいます。
ピーターとアンシーは不思議に思い、お互いの顔を見合わせてしまいました。
『どうしたんだ。何も話さないなんて。』
『そうよ。遅れた人はまず謝るものなのよ、どうかしたの。』
エマは心配そうに顔を覗き込んでくる二人の間まで歩き、座った後に大人しい彼女にぴったりな小さな口で、
『私、この街をずっと離れなければならないみたいなの』
とつぶやきました。
ピーターとアンシーはビックリして どうして?、と同じタイミングで訊きました。
エマはすこしのあいだロングヘアの髪を両手でなでながら、
自分の頭の中で話を整理した後、
『私の家は牧場で生計をたてているの。今年は山の下の街で、動物達が狂いながら死んじゃうデンセンビョウがはやったの。だから動物達がほとんと居なくなったみたいなの。だから山の上でデンセンビョウにかかっていないうちの動物たちが、下の街でどうしても必要みたいなの。』
二人はエマの言うデンセンビョウの意味がわかりませんでしたが、動物達が狂って死んでしまう『それ』がとても恐ろしいものに感じられました。
『それなら君の牧場の動物達を下の街に連れていったら、すぐに帰ってこれるじゃないか。』
『そうよ。この街から下の街へ行って帰ってくるだけなら、山道を越えるのは大変でしょうけどお月様が二度真ん丸になるころには帰ってこれるじゃない。』
ピーターとアンシーが言いました。
しかし
『私も最初はそう思ったの。もちろんパパにも言ったの。だけどうちの牧場の動物達は全部山の上にしかいない動物なの。だからパパしか世話することが出来ないらしいの。』
『なら君のパパだけがいけばいいじゃないか』
『独ぼっちなんてパパがかわいそうなの。うちの町長さんがどうしてもって頼んでいるらしいの。よく知らないけれど、下の街からギジュツとかキョウイクってものがお礼としてもらえるらしいの』

(言葉の終わりを『の』で終わらせるのがエマの癖でした。
ピーターかアンシーがどうしていつも言葉を『の』で終わらせるのかと質問したのですが、
エマが言う所には自分の中で言葉の一区切りをつけているみたいでした)

『ギジュツ?キョウイク?』
二人はギジュツとキョウイクがどのようなものか検討もつきませんでした。
『その二つはこの街のハッテンにどうしても必要なものらしいの、だから私もわがままいえないの』
ピーターもアンシーも知らない言葉をたくさん並べられてしまい、頭がこんがらがってしまったので、何も言えずに黙ってしまいました。
エマはそんな二人をみて慌てながら
『でっ、でも一生帰ってこれない訳じゃないの、いつかは帰ってこれるの。それに山の下の街も悪い事ばかりじゃないらしいの、下の街のコーヒーは果物の種で作るみたいで、うちのパパが飲むたんぽぽで作るまずいコーヒーと違っておいしいみたいなの。
それはギジュツがこの街に入ってくれば私たちでも作れるらしいの
次帰ってくる時には三人でそのおいしいコーヒーを飲みたいの。』
エマが笑顔を作って言いました。
二人もエマが帰ってこれることがわかったので少しほっとして、笑顔になりました。
『それじゃ君のパパにあのまずいコーヒを無理矢理飲まされることもなくなるんだね』
(ピーターはエマの父親であるウォーターズからいつも無理矢理たんぽぽで作った土臭くて苦いコーヒーを飲まされていました。
ウォーターズはいつもピーターに、大人の男はコーヒーを飲めなければいけない。大人になりたいのならコーヒーを飲むんだなと言われていました。
アンシーから弱虫で子供とバカにされていたピーターは、いやがりながらも必ずマグカップ一杯を飲み干していました。)
『そうなの。本当のコーヒーは夜も眠くならなくなるくらい美味しいものらしいの。』
『ふふ。あなたのパパの飲むコーヒーも別の意味で眠れなくなるものですものね。』

三人はそれから果物の種でつくったコーヒーはどのようなものかを網を作りながら話続けました。
ピーターは、たんぽぽのコーヒーが土臭いのだからきっと空に生えている果物でつくるコーヒーは空みたいな味であると主張し、
アンシーは、果物の種の種類によって味が変わるもので、自分が大好きな木苺の種で作ったコーヒーを飲むのが楽しみだと言い、
エマは、果物の種でできるものだからとても甘いのではないかと言いました。

空が深紫色になり、三人が街に帰るための街へと続く森を歩いているとき
ピーターとアンシーはエマから、10度朝と夜がひっくり返るころに彼女が旅立つことを聞き、
それまでにたくさん思いでをつくることを約束しました。

     


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それから三人は毎日、街の塔に住んでいるフクロウが50回鳴くころまであそびました。
(大人達はフクロウでジカンというものを見つけていると言っていましたが、三人にはよくわかりませんでした。
この季節では200回なくころには夜から朝になるらしいのです。)

○夜に家を抜け出し、住宅街の様々な家の庭を渡り歩きながら雲の虫取りあみで大人の寝言を捕まえてこっそり聞いたり(アイ、トバク、バイシュンフなど三人にはよくわからないことだらけでしたが)
○前からエマがやりたがっていたおままごとを、沼の泥で作った人形をつかってしてあげたり(今まではリーダー格のアンシーが却下していました。)
○太陽の一番よく当たる湖畔で真っ黒に焼いた肌を使って、夜の真っ暗な丘でかくれんぼをしたり
○ウォーターズが寝ている時、顔の上に雲をのっけてまっしろなヒゲをつくるイタズラなどをしました。


大人の寝言を捕まえて、こっそり朝にきいてみよう。
難しいことばは雲につつんで食べちゃおう。
たくさん食べれば食べるほど甘く感じる蜜になる。
愛はとっても気持ちよく、
賭博はとっても楽しくて、
売春婦はとっても欲しいもの!

     


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9回朝と夜がひっくり返り、いよいよエマが下の街へと旅立つ頃になりました。
その日はなにもせずにただいつもの丘で横になりながら
絵本に出てくる様々なドラゴンのデザインの善し悪しを決めたり、
まだ見た事のないウミという大きなしょっぱい湖の話、
消しゴムはいったい言葉の他になにが消せるのか、
どうして僕らには鳥のようにくちばしがないのか、
様々なことを横になりながら話しました。

太陽が赤いオレンジジュースのような色になりフクロウが鳴き始めたころ、
アンシーが突然何かを思いついたように飛び上がりピーターとエマに語りかけました。
『忘れていたわ。私たち三人がお互いのことを忘れてしまわないようになにか目印を残しておかないと。』

ピーターはアンシーがなぜそのような事を言うのかがわかりませんでした。
ピーターには自分が絶対にアンシーとエマを忘れる事が無い自信があったからです。
アンシーはなんと情の無い愚かな女の子だろうと思いました。

『目印なんて必要ないよ。僕がアンシーとエマのことを忘れるはずがないじゃないか。エマもそうだろ、僕とアンシーのことを忘れるはずが無いよな。』
エマは笑顔で頷き
『ええ。二人ともかけがえのない友達ですもの。アンシーは冷たいの』
二人から責められたように感じたアンシーは少しムッとして言い返しました。
『私ももちろん忘れるわけないわよ。でもなにがあるかわからないじゃない。
私達がどうして出会ったのか、三人共思い出せないのよ。記憶なんて曖昧なものかもしれないわ。』
ピーターは確かに自分が出会いや仲良くなった理由を思い出せないことを思い出し(?)、
忘れてしまわないか少し不安になりました。

また、アンシーが機嫌を損ねるのが心配になったので、
『そうだね。なにか目印を作っておけば安心かもね』
といいました。
アンシーは笑顔を作って言いました。
『そうでしょ。たしかにあなたの言う通りに、私達がお互いを忘れる事はないと思うけど、万が一に備えるってのも大事でしょ』
『でも目印ってどんなものを作るの?』
エマは軽く首をひねってアンシーに問いました。
『そうね。やっぱりとても目立って奇麗なものがいいんじゃないかしら。地味なものだと机にしまいっぱなしにしてしまうかも。やっぱり飾りたくなるくらいのものじゃなきゃ。』
確かに、とピーターとエマはうなずきました。
『アンシーは時々大人顔負けの思慮をみせるな。』
ピーターは思いました。
『それじゃ宝石とかかな。』
『飾っておけるほど大きなものが手に入るかしら?』
『それじゃ、雲で作った大きなぬいぐるみがいいの。真っ白なねこさんがいいの。』
『私達も大人になるのよ。ぬいぐるみなんて持っていて恥ずかしくなったらどうするのよ。』
『それじゃあ雲で作ったマグカップは?いつも作っているから慣れてるだろ。』
『割れちゃったらどうするのよ。』
ピーターは はぁとため息をつきました。
『アンシー。否定ばっかしているけれど、君にはアイディアがあるのかい。』
『そうねぇ。やっぱりいつも遊びなれてる雲を使ってなにかつくるのはいいかもしれないわ。でも何も思いつかないわ。』
三人は頭を抱えて考え込んでしまいました。

     


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空が暗くなり始めたころに、
アンシーが指をならして立ち上がり
『そうよ。花があるじゃない、ナーザリーの花!』
と大声で言いました。
『ナーザリーの花?湖の街側の反対側に咲いているやつのこと?』
『そうよ。あの花はとっても奇麗だし、水を与え続ければ一生の半分は枯れる事が無いって聞いた事があるわ。』
『そっか。それなら飾りたくなるかもしれないね。』
『お花はとっても奇麗なの』
アンシーは自慢げに腕をくんでこう言いました
『それじゃ今から取りにいくわよ。早くしないと本格的に真っ暗になっちゃうからね』
今からっ?
ピーターとエマは嫌だなあと思いました。
アンシーは一度決めた事をやめないとわかっていましたが、
『湖の反対側はとっても深くなっているし、ナーザリーの花は水辺ギリギリに咲いているらしいじゃないか。
夜だと足下が見えないから危ないよ。もし落ちてしまったら僕は泳げないから死んじゃうよ。』
『そうなの。あぶないの』
と遠回しに明日にしてほしいと主張しました。
『なによ弱虫。私達はもうほとんど大人なの。夜に歩けることが大人の証拠なの。』
アンシーは二人の意見を遮るように言いました。
『俺は泳げないんだって、夜の湖じゃもし落ちたら見えないし、』
とピーターは不安そうに抗議をしました。
はぁとアンシーはため息をついて
『わかった。なら私とエマの二人で行くわ。それでいいわよねエマ』
『えっ私は,,,』
『あなたが引っ越してしまうからすることなのよ。お願いよエマ』
『うん,,,』
自分のためと言われたエマは、断るわけにもいかず
頭を縦に振りました
『腰抜けピーターはここでナーザリーの花を入れる花瓶を3つ雲で作っておいて。』
とアンシーはからかうように笑いながらピーターに言いました。
『わかったよ。でも気をつけるんだよ』
『はいはいー』
アンシはエマ手をとって立ち上がらせて
そのまま手を繋ぎながら丘を下っていき、湖の方へ走っていったのでした。
『やれやれ』
とピーターは思いました。
ピーターは適当に雲をつかんで
『せっかく作るのだから三人別々の形にしよう。』
と思い
アンシーのための花瓶は、彼女の性格をイメージした大きな花瓶を
エマのは彼女の華奢な体をイメージした細い花瓶を
そして自分のは、いつかアンシーより大人でリーダーシップのある人間になりたいという思いからアンシーの花瓶よりほんの一回り大きい花瓶をつくりました。
『こんなものかな。』

二人はまだ帰ってこなかったのでピーターは横になりながら大人とはどのようなものだろうかを考え、
自分が大人になった姿を想像しました。
『やっぱりずっと弱虫のままなのかなぁ』
と不安になってしまいました。

それからフクロウが20度ほど鳴いたころでしょうか。
たった一人だけがピーターの元へナーザリーの花をもって
泣きながら帰ってきたのでした。

三つの花瓶
三つの花瓶
一つはいらなくなったので
二つの花瓶になりました。
いらない花瓶はどうしよう
いらない花瓶はどうしよう

       

表紙

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Neetsha