Neetel Inside 文芸新都
表紙

探偵 佐伯泰彦 対 超人X
第十三話  決戦 その1

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第十三話 「決戦 その1」



起:僕だけが知っている

 僕は一生懸命考えた、今この場で「お前が犯人だ!」と叫んでも子供の戯言としか見られないのは、彼らの冷たい視線を受けて痛感した。
(し…失敗したかも…)
 さっきまでの勢い体の火照りは冷め、一気に体温が下降するのが分かる。
 僕には証拠がある!でもそれを皆に伝えて納得してくれるだろうか?
「大佐殿、そろそろ離して上げてはいかがです?相手は子供ですよ」
 静かだが、意志の強さを感じる声。そう、綾ノ森少佐だ。
「子供とは言え怪しいぞ。何故こんな所に居たのだ?言え!白状しろ」
「大佐殿、おやめ下さい」
 しらじらしくも佐伯泰彦に化けた超人Xが近寄る。
「この子は私の助手です。ここで超人Xが来るまで見張っいて貰ったのですよ」
 流石は超人X、人間関係まで全て調査済みとは恐れ入る。
 しかし、感心しているだけでは済まない。あの笑顔の裏にどんな闇が隠れているのか、それが読めない怪物なのだから。
 僕は足利大佐の手を退けると、そのまま小走りに綾ノ森少佐の元へ走り後ろに隠れた。
 多分子供が持つ”見えない何かを見る力”なのかもしれない、無意識に僕は綾ノ森少佐を頼ってしまったのだ。 
 


承:綾ノ森と正ちゃん

 僕はただ涙を目に溜め、佐伯先生に化けた超人Xを避ける様に彼の背中に隠れる。
 ふと見ると、超人Xの眼の裏に闇が見えた気がした。
「どうしたんだい?正ちゃん、綾ノ森少佐殿に失礼だよ」
 超人Xは誰がどう見ても”やさしい笑顔と仕草”で僕を呼ぶが、僕はそれに応じる訳にはいかない。
 何としてもこの事実をこの綾ノ森少佐に伝えなければならないのだから。
「君、どうしたんだ?君の保護者が待っているよ」
 綾ノ森少佐は少しめんどくさそうに僕に言う。
 僕はただ涙目で、声にならない声を彼に向って発していた。
(違うよ!あの人は佐伯先生じゃあない、超人Xだよ)
 口は一文字の様に横に広がり、目はうるうるの涙目、さぞ不細工な顔に違いなかったろう。
 だが流石と言うべきか、綾ノ森少佐は僕の意思をたったこれだけの仕草で拾い上げてくれる。
「…どうやら、この子は怖い思いをして気が動転している様だ。少し時間をください、便所に一緒に行ってきます」
 彼は僕の背中を押し、廊下に出る。笑い慣れていないのだろう、少しムスリとした歪(いびつ)な感じではあったが、彼は僕に微笑んでくれていた。
 僕らが廊下の人込みを抜けた頃、特別室で大きな笑い声が上がった。
「ハハハっ、どうやら小僧はこんな椅子に閉じ込められていて小便も出来なかったらしいな、声も出ん位に涙ぐんでいたわ」
「大佐が脅かしたので少し漏らしたのでは?」
「言えてるな、こいつは大笑いだ」
 少しは自重したらいいのに…僕は恥ずかしさと悔しさで顔を赤めながら綾ノ森少佐と一緒に、二階の隅にある便所へ足を踏み入れる。

 綾ノ森少佐は外をキョロキョロ見渡し、人気(ひとけ)が無い事を確認すると僕に向かってこう言った。
「…ここなら誰にも聞こえないだろう。何か用があって私に抱きついて来たんじゃないのか?」
 彼は真っ直ぐ僕を見て囁く様な声で問いかける。
 ここに来てようやく緊張がほぐれたのか、僕の涙はボロボロと止めど無く流れ出し、再び彼の腰に抱き付いた。



転:いざ!決戦の場へ

「…やはり、彼は佐伯泰彦ではないのか…」
 僕の説明を聞き、彼は目を天井に向けながらも顔を何度も傾ける。
 本能的であったが、綾ノ森少佐を選んだ事は正しかった。
 彼は僕の言葉を全て受け止め、彼なりの解釈だとは思うが同じく今の佐伯先生が超人Xである事を理解した。
「だとすれば、早く戻らねば彼は何らかの言葉で皆を丸めこみ逃げ出してしまう可能性がある。急ごう」
 僕の手を引き、急ぎ足で三階の特別室へと足を向ける。
「でも…みんながみんな僕の言葉を信じてくれるとは思えないんです」
 僕は弱々しく彼に言うが、彼は自信を持った鋭い眼差しで
「問題は無い、既に計画は出来ている。今は急いで部屋に戻ろう」
 彼の言葉に僕はただ”うん”とだけ言い、足並みを揃え特別室へと向かう。
 何故だか彼の言葉は心地良く、これからの戦いに勇気を与えて貰った様な気がした。



結:最後の怪物

「それでは皆さん、解散としましょうか?」
 その時、綾ノ森少佐の推測通り超人Xは軍警察、大阪府警の面々に捜査終了を告げていた。
 時刻は既に深夜三時、夜勤の兵隊、警察官だって人間だ。もう帰りたい時間である。
「あの二人は?」
「ああ、彼らは私がここで待っておきますよ、ご安心ください。皆さん大変ご苦労様でした」
 一斉に腰を上げた軍警察と府警の方々に別の声が響いた。
「ちょっと待ってください。今回の英雄を残して先に帰るのはあんまりじゃあないですか?」
 静かな声だが、透き通っていて誰の耳にも届くその声は超人Xの威圧のある声とも別の
 そう、例えて言うなれば”超人Xの声が拳銃の発砲音”だとすれば”綾ノ森少佐は寺の鐘が鳴る音”に思えた。
 腰を上げた面々も一瞬動きが止まり、室内は自然と無音の空間へと姿を変える。
「ああ、丁度良かったですね。お二人を待っていた所でした」
 再び静寂を破ったのはやはり佐伯先生に化けた超人X。
 どんな時でも彼は憎たらしい程冷静だ。
「お持たせして申し訳なかったです。彼も怖かったのでしょう、でも今はだいぶ落ち着きを取り戻したようです」
 綾ノ森少佐は、ゆっくり超人Xに近寄り手を差し出した。
「貴方と仕事が出来て光栄でした。よろしければ西洋の挨拶習慣ですが、シェイクハンドして頂けませんか?」
 超人Xはこれに応じ、二人は笑顔で握手を交わす。
 ”全員の目線が二人に集中した”

 …今思えば、綾ノ森少佐もまた怪物だったのだ。
 この握手を交わした瞬間、既に綾ノ森少佐が空間を支配していた事を今になって理解出来る。

 僕達と…超人Xの…決着の瞬間は直ぐそこまで来ていた。
 

       

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