Neetel Inside 文芸新都
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探偵 佐伯泰彦 対 超人X
第七話  月夜に轟く雷鳴

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第七話  「月夜に轟く雷鳴」


起:人間椅子?

「ひとつ頼み事が有るんだ、聞いてくれるかい?」
 佐伯先生は神妙な顔付きで、僕に珍しくお願いをして来た。
 僕はその時、お役に立ちたくて躊躇わず(ためらわず)に”はい、やります”と言ってしまうが、是(これ)がのちのち後悔する事になる。
「”人間椅子”と言う話を知ってる?」
 もちろんそんな話知らないし、その言葉にどうも嫌な予感はしていた。 

 何故この様な話が出たかと言うと、佐伯先生が聞き出して来た“ある話”が元となったのだ。
 探偵という職業柄、情報の収集力は凄まじいもので、府立美術館三階の皮製の長椅子が家具職人の元に運ばれている事を知った佐伯先生は、地を飛ぶ燕の如き勢いでその家具職人の工場へ向かった。
 余りの速さに、僕が息を切らして工場へと到着する頃には既に話は済んでおり、いつもの笑顔で
「お腹空いたね、甘味屋にでも寄って帰ろうか」
 と呑気な事を言ったものです。

時は、現在より一日前、犬の散歩から帰って来た夕刻の事である。



承:闇を引き裂く雷鳴

 そして話は現在、すなわち佐伯先生と綾ノ森少佐が、超人Xと相対している場面へと戻る。
 今にも引き金を聞きそうな緊張感の元、死んだ様に寝息も立てずに目を閉じている足利大佐。
 無防備な彼に今、ピースメーカーの銃口は向けられ、絶好の人質となっている。
(どうにも分が悪いなぁ…)
 静寂が室内はおろか、館内全てを包む。
「其処を退いてくれたまえ。”永遠の炎”さえ頂けば危害を加えはしないよ」
 既に大森警部のどこか愛着のある顔付きは消え去り、冷たく鋭い目と顔付きは犯罪者特有のものとなる。
 二人は少しずつ、一歩一歩と後ろへと下がる…そして
 ”バッ”っと二人は息が合ったかのように各々(おのおの)の拳銃を取り出し向ける。 
 
 雷の様な闇を引き裂く轟音が一度だけ響いた。
 ピースメーカーの銃口から白い硝煙が立ち上がる。
 そして彼らの足元に鉄の塊が二つ、床に落ちる音がした。



転:超人X 永遠の炎を奪う 

「今回は上手く行ったけど、次は今みたいに上手く行くとは思わない方がいい。どちらか一人は死ぬかもしれないよ」
 それは本当に一瞬の出来事。銃口が超人Xへ向けられたと思った時には、彼は既に膝をつき低い姿勢で引き金を引いていた。
 人の目で追える限界の速度だった…
 超人Xは一瞬の内に、二発の弾丸で自分を狙う二つの拳銃へ向けて撃ち放ち、それを撃ち落としたのだ。
 その衝撃で痺れた腕を抑え、冷や汗の流れる真っ青な顔を超人Xへと向けた時、既に彼の手はショーケースへ向けられ、永遠の炎を手に取っていた。
 それもまた、”あっ”と言う声を上げる前に済んでおり、彼のその顔は実に満足げであった。
「予定道理とは行かないまでも、目的は済みました。それでは、ごきげんよう」
 二人はまだ氷の様に固まっており身動きが出来ない。そんな中、超人Xは三階の窓硝子を突き破り部屋から脱出を行った。
 月明かりを浴びた彼の姿はまさしく魔物そのもの、人外の生物がこの世に降臨したかの如き姿を見せる。
 しばらく…と言っても二、三秒の間だが、まるで金縛りにあったかの様に身動きが出来ないでいた二人であったが、腹に気を吸いこみ急ぎ窓辺へと向かう。
「…やられた…」
 綾ノ森少佐は力無く呟いた。



結:そして月夜にもう一人の怪物

「いや…まだです…」
 目に生気を取り戻した佐伯先生は力強く彼に言う。
「聞こえますか?この音…」
 二人は口を閉じ、耳を澄ませる。確かに何処からか”木の板が打ち合う”様な、カタカタと言う音が聞こえる。
「はい、この音が何か?」
「これは私が仕掛けた結界の鳴る音です。音の方向からすると別館の方向から聞こえます。彼は直ぐに外に出ようとはしていません。憎たらしい程に慎重な男の様です」
 そう、佐伯先生と僕はこっそり美術館の周囲に罠を仕掛けていたのだ。罠と言っても殺傷性のある物ではなく、場所を感知する為の今で言う”レーダー”の様な役目をする物を
「これは本館三階の周囲にしか音が聞こえません。そういう風に作ったのです。だから超人Xは、私達が彼の居場所に気が付いた事を知りません。今が好機です、私は奴を追います。綾ノ森少佐殿は足利大佐と一階の警備の者達を起こして美術館の外側を包囲していてください」
「しかし佐伯さん、奴は驚異的な銃捌き(じゅうさばき)を行うのだぞ、一人では危険だ」
 佐伯先生はニッコリ笑って
「大丈夫です、奴は人を殺したりしません。拳銃はあくまで脅しの道具です。それに私には秘密兵器があります。此処は私に任せて、無事に戻ってきた際は三階の、この部屋へ皆さんを集めてください。宜しくお願い致します」
 そう言うと、佐伯先生も三階から超人と同じ様に、まるで翼を持つかの如く飛び降りた。

 一人残された綾ノ森少佐はつぶやく
「同族嫌悪と言うものか。佐伯さん、あんたも化け物だよ」

 

       

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