僕の目の前には生まれてから成犬になるまで、一度も洗ってもらったことのない雑種犬のような顔をした女がいた。
「ちょっとトイレ」
僕は席から立ち上がり、この場を設けた張本人である楠山を連れてトイレに入った。
「どういうことだよ!お前が可愛い子を紹介してくれると言うから、僕は貴重な日曜日の時間を割いて来てやったんだぞ!」
僕は怒りをあらわにする。そんな僕を楠山はにやにやしながら見ている。
「確かに俺は可愛い子を紹介すると言った。そしてあの子を連れてきた。……何か問題があるか?あの子はとても可愛らしいではないか」
「ふざけるな!ドブから汲んできた下水で洗ったタオルの様な顔をしてるじゃないか!あれが可愛いのなら僕は一流アイドルとして日本を席巻できるぞ!」
はあ、と楠山は大げさに溜息をついた。なんだ、その人を見下した目は。
「君……本当に北原くんかい?俺の知っている北原史郎(きたはら しろう)は、人を見た目で判断するような人間ではないはずなのだが……」
楠山の言葉に、僕は心を痛める。確かに、人を見た目で判断するのは最低の人間がすることだ。
「さあ、心を入れ替えたまえ。君はもともと綺麗な心を持った人間だ。幸いこのトイレは俺たちの座っていた席と近い場所にある。もう一度、純真無垢なその瞳で彼女を観て御覧」
そうだ、僕は身も心も美しい人間なんだ。彼女の本質を見抜くことが、僕には出来る。
いや、僕にしかできない。
僕はトイレから出て、こっそりと彼女を観た。
「やっぱブスじゃねえか!!!!!!」
本当に可愛いひと
1話
「お前の目は本当に節穴だな。確かにあの子は汚い。昔の隅田川より汚い。しかし、それは仮初の姿なのだ」
「何だと?」
「よく観ろ。あの子の顔を。目は大きく鼻はすらっとしている。そう、あの子はダイヤの原石なのだ。ただ、風呂に入っていなくて汚い。それだけなのだ」
……確かに、よく観ると彼女は綺麗な目鼻立ちをしている。ような気がした。気のせいかも知れないが。
「いいか、俺は彼女の本当の姿を知っている。彼女はある事があってから、風呂が嫌いで身なりを整えない人間になってしまったんだ」
そう言うと楠山はわざとらしい泣き真似をし始めた。
「なあ北原、お前の力で彼女を元に戻してくれないか?俺はもう一度彼女の綺麗な姿を観たいんだ。こんなこと、お前にしか頼めない」
昔からこいつは人を丸めこむのが上手い奴だった。その人に何を言えばどう返ってくるのか分かっている。ギリシャの彫刻のような顔で、その人が欲しい言葉を欲しい時に掛ける。
「その話、本当なんだろうな?」
そんな訳で僕は例に漏れず、楠山の口車に乗ってしまった。
「ああ、本当さ。この写真を観ろ」
楠山は不敵な笑みを浮かべ、懐から一枚の写真を出した。僕はそれをむしり取る。
「こ、これは……」
そこには、美しいとも可愛いとも言える女性が写っていた。肌は小学生の給食着より白く、髪は横に置いた薄型PS3の側面より黒く艶がある。大きな目は眼窩から零れ落ちそうなほどだ。
「可愛い」
僕は無心で呟いていた。こんな女性を、観たことがない。
「だろう?」
楠山は満足げな顔で僕から写真を奪い取った。
「さて、君はどうする?この場から離れ、彼女との出会いを無かったことにするか?それとも、彼女とお近づきになるか?」
この時の僕にとって、写真が本当に彼女なのか?という疑問は些細なものだった。
「決まってらあ!」
僕は満面の笑みで、彼女がいる席へと戻って行った。
「何だと?」
「よく観ろ。あの子の顔を。目は大きく鼻はすらっとしている。そう、あの子はダイヤの原石なのだ。ただ、風呂に入っていなくて汚い。それだけなのだ」
……確かに、よく観ると彼女は綺麗な目鼻立ちをしている。ような気がした。気のせいかも知れないが。
「いいか、俺は彼女の本当の姿を知っている。彼女はある事があってから、風呂が嫌いで身なりを整えない人間になってしまったんだ」
そう言うと楠山はわざとらしい泣き真似をし始めた。
「なあ北原、お前の力で彼女を元に戻してくれないか?俺はもう一度彼女の綺麗な姿を観たいんだ。こんなこと、お前にしか頼めない」
昔からこいつは人を丸めこむのが上手い奴だった。その人に何を言えばどう返ってくるのか分かっている。ギリシャの彫刻のような顔で、その人が欲しい言葉を欲しい時に掛ける。
「その話、本当なんだろうな?」
そんな訳で僕は例に漏れず、楠山の口車に乗ってしまった。
「ああ、本当さ。この写真を観ろ」
楠山は不敵な笑みを浮かべ、懐から一枚の写真を出した。僕はそれをむしり取る。
「こ、これは……」
そこには、美しいとも可愛いとも言える女性が写っていた。肌は小学生の給食着より白く、髪は横に置いた薄型PS3の側面より黒く艶がある。大きな目は眼窩から零れ落ちそうなほどだ。
「可愛い」
僕は無心で呟いていた。こんな女性を、観たことがない。
「だろう?」
楠山は満足げな顔で僕から写真を奪い取った。
「さて、君はどうする?この場から離れ、彼女との出会いを無かったことにするか?それとも、彼女とお近づきになるか?」
この時の僕にとって、写真が本当に彼女なのか?という疑問は些細なものだった。
「決まってらあ!」
僕は満面の笑みで、彼女がいる席へと戻って行った。