KIYOSUMI-NET。
広い電子の海の片隅で混沌として存在している、とある高校の学校裏サイトの一つの通称だ。
大阪市に居を構える私立清澄学院高校。その全学年の生徒が足しげく閲覧しては意味の無い書き込みや陰口を叩いたりしているそのサイトの一部の人間の間で、あるゲームが流行していた。
そのゲームとは「置き」と呼ばれていた。
放課後。
全校生徒が下校を開始し一部の生徒が部活でまだ校内に残っている最中、一人の男子生徒がそのゲームに参加しようとしていた。
「なんか目ぼしいゲームはないかな……今日ぐらいあると思うんだけど……」
彼は後者裏に鬱蒼と生い茂った芝に寝転びながら、携帯電話のディスプレイに映った掲示板のスレッドに目を通していた。
「置き」のスレッドは掲示板のジャンルとして独立して、単独で掲示板が用意されている。しかも、一部の人間しか閲覧できないようにパスワード制になった言わば会員制の掲示板だ。そのURLとパスワードは裏サイトのごく一部の人間の間で密かに知られているが、KIYOSUMI-NET内で表立って話題にされる事はない。要は、裏サイトの更に裏に存在しているまさに地下の地下(アンダー・ジ・アンダーグラウンド)のゲーム。
「置き」のルールは至極単純。置き姫と呼ばれているゲームマスターがとある決められた賞品を密かに校内に配置し、それをゲッターと呼ばれるプレイヤー達が探し出してその名の通りゲットするだけのゲームだ。一応言っておくが、「置き」のプレイヤー達は3機の乗り物が合体したロボットではない。あしからず。
そんな単純なゲームが何故流行しているのかというと、ゲットできる物の存在がでかい。とある嗜好の持ち主なら飛びつくように、その嗜好の持ち主でなくても興味本位から参加していつのまにかのめり込むそんなゲームだからだ。
彼、KIYOSUMI-NET内固定ハンドル『とっしぃ』は常連の「置き」参加者――つまりはKIYOSUMI-NET内の置き板でそれなりに名の知れたゲッターだった。ここではしばらくの間彼のことをとっしぃと呼ぶ事にする。
とっしぃは今年の始めから行われてきた50回以上ものゲームでの参加率は60%以上、賞品のゲット率は3.5割。なかなかの好成績を収めている。ゲッターの間でも指折りのゲッターとして認識されている。
「お、ビンゴだ。スレが上がってるじゃん」
とっしぃがスレッドの書き込みに目を止めた。
194 :置き姫ゆきな♪ :09/10/11 17:13:55 ID:KYhscHo
図書室の歴史コーナーに置きました♪
一応、わかりやすいように少し目印も出してます。
じゃあ、ゲーム開始!
ゲームの開始を告げる置き姫の書き込みだった。
芝生から立ち上がると、とっしぃは全速力で走り出した。
「図書室の歴史のコーナーに置いた……。ここなら近いな……!」
時々書き込まれる置き姫の出すヒントに従って、ゲッターは行動を開始する。
待機している場所によって、賞品に辿り着ける確率が上がる。
とっしぃは息をつかぬまま、開きっぱなしのドアから旧校舎に入り図書室までの階段を一気に駆け上った。
旧校舎の四階の一番奥、放課後には読書が大好きな物好きしか集まらない部屋が見えてきた。
誰かに追いかけられているのかと思うくらいの速さで図書室の中に入ったとっしぃは、「何があったのか」という目でちらりと見てくる図書委員の女子の視線を横目に、歴史本のコーナーへと到達する。
まだ、他のゲッターは見当たらない。
195 :とっしぃ ◆GateKpERE. :09/10/11 17:15:11 ID:Tub4CJIY
一足お先に、現着しました!
早速、現場に到着した事をスレッドに書き込みする。
(よっしゃ、一番乗りだ! これならいける!)
心の中でガッツポーズを取ると、とっしぃは再び携帯のWEB画面を更新して新しい書き込みがないか確認する。
今のところ、他のゲッターの参加表明の書き込みだけで、置き姫のより深く突っ込んだヒントの書き込みは無い。
校舎内のわかりやすい場所を現場に選んだともなれば、他のゲッターもすぐにここに辿り着いてくるだろう。そうなってはゲットできないかもしれない。
賞品が置かれていないか、くまなく歴史本のコーナーを舐めるような目つきで見渡す。
ふと、とっしぃがある本に視線をやった。
それは「物語 新撰組隊士悲話」というハードカバーの本だった。分厚い本の上から、透明なビニールのような物が少しはみ出ているのが見えた。
(わかりやすいように目印……これかもしれないな!)
おもむろにその本を手に取り、開く。
そこには、ジップロックの袋に入った賞品があった。
198 :とっしぃ ◆GateKpERE. :09/10/11 17:18:20 ID:Tub4CJIY
速攻ゲットしました!
わかりやすい目印も現着してからすぐに見つけることができました。
置き姫ゆきな♪さんありがとうございました!
ゲットの報告の書き込みを終え、とっしぃは携帯を折りたたむとニッと口の端を上げた。
先ほどゲットした賞品を制服の裏ポケットに突っ込むと、意気揚々と図書室を出る。
視線の向こうに、男子生徒が物凄い勢いで図書室に駆け込んできた。おそらく、他のゲッターなのだろう。すれ違いに彼を横目で優越の視線で見ると、とっしぃは旧校舎の屋上へと続く階段を上っていった。
屋上に辿り着くと、人目のつかない隅でとっしぃは裏ポケットから先ほど手に入れた賞品を取り出した。
ジップから賞品を取り出してそれを広げると、とっしぃは恍惚とした表情で、というか傍から見れば変態染みた表情でまじまじとそれを見て呟いた。
「今回は結構良いじゃんか……、黒とピンクの水玉だ……」
これで通算14回目のゲット達成に、とっしぃは硬く拳を握った。
彼の手の中で広げられた商品、それは女物の下着。
早い話がパンツ。
これは「置き」というゲームに魅せられたパンツゲッター、とっしぃとその周囲の者達に起こった出来事についてのお話。