Neetel Inside 文芸新都
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MAD小説
『ビスク』――ヨエル

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明日時給八百円のバイトを休んでしまおう。
ストレスを表すようにスピーカーから爆音の流されている部屋で大場圭吾はそう心に決めたが数分後には再び考え直そうとしていた。

いつだって思い出すのは雨の日で、それに彼女はひどく雨が似合っていた。
雨が彼女の魅力を――透き通る白い肌や細くて茶色がかった髪、小動物のようになにかに怯えたような仕草も僕は好きだった――より一層引き立たせていたし、世界がモノクロでも彼女自身ないし彼女の周囲だけは鮮やかな赤や青、緑や黄が曇り空の下で遊んでいた。
 それはまさにこの世の絶景だったんだ。

いつもは下りの電車に乗って颯爽と帰宅をする僕だが、今日は駅で上り方面の電車を待っていた。
 彼女の家はこの辺りでは一番栄えている駅の周辺にあるらしい。なんでも現在は一人でアパートを借りて住んでいるとのこと。親御さんと色々揉めたのだろうか。余計なことを勘ぐってしまう。

こんな雨の日には少し遠回りして、ある道を通ることにしている。それは小学校のときの通学路だった道だ。

直だととても冷たいので、ビニールシートを四つ折りにして、それに座って南を見ていた。

「ただいま」
と小さな声で言った。返事は返ってこない。いつもどおりだ。そう彼は思った。が、いつも通りではないことに気づいた。いつもは無視されていたのだが、今は本当に答える人がいないのだ。それに気づくと彼は自分が無性に寂しくなっているのに気づいた。彼はその思いを無理矢理頭から追いやろうとした。気のせいだ。そう無理矢理思った。
木島はテレビをぼーっと見ていた。ずっとぼーっと見ていた。

       

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