Neetel Inside ニートノベル
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お前のケーキはオレのもの。
レシピNo.3 跳躍時計

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~『ぼくのゆめ』いちねんさんくみ たいむ=おらんじゅ=ばるさむ~

 ぼくのゆめは、れんきんじゅつしになることです。
 むかし、あそんでくれたおじいさんがいってました。
 れんきんじゅつは、ゆめをかなえることができる、すごいぎじつなんだよ。
 ぼくはだから、れんきんじゅつしになりたいです。
 そうして、『すぺきゅらむ』をつくって、おじいさんのびょうきがなおるくすりをみつけてあげたいです。
 そうしたら『ちょうやくどけい』をつくって、くすりをかってきて、おじいさんのところへいって、びょうきをなおしてあげたいです。


レシピNo.3 跳躍時計(※ベータ版)

 使用者は、時間を移動することができる。
 使用法
 1.上部の青いボタンを押す
 2.裏面のダイヤルを回し、時計の針を合わせる(5秒もどりたいなら-5に秒針を合わせる)
 3.もう一度上部の青いボタンを押す

 ――T=O=バルサムの王立アカデミー錬金術学部学士課程卒業論文より


 手順1.未知との邂逅。(前)

「えーと………」
 ややあって小僧が声を上げた。
 小僧は途中からひとりぼけーとしたカオでいた――あの時のオレもこんなカオだったのか。いやオレはこれよりはマシだったはずだ。そうでなければおかしい。
「あの、お兄さん……いまの話、ホントですか……?」
「ああ、ホント。
 五年後のあんたがオレに、使命と金を託してここに派遣した。
 いまの、そして未来のあんたを豊かにするために、な」
 こんな突拍子もないハナシだっつーに、小僧は疑う様子もない(驚いてはいるが)。
 時間を超える、て研究をしてたからもあるだろうが――ここまで馬鹿素直だとマジで大丈夫か、とすら思ってしまう。
 今は都合がいいから助かるが、早いとこラサに教育させた方がよさそうだ。
 あいつをあのまま放置して、万一オレまであんなアホになったら目も当てられない。
 手口はヤツがオレに仕掛けたのと同じ、イカサマファンドでいいだろう。ただし今度は小僧が無事ですむカタチで解決させる。これなら、小僧からヤツへの信頼も増して一石二鳥だ。
 さてそのヤツはというと、スペキュラムのなか気さくげな笑顔(営業用――相変わらず、殴りたくなる効果満点だ)でプレゼンを続けている。
「金は全部で一億ゴールドある、てか、あった。
 あんたにはこの金を増やしてほしい。
 で、五年後の今日までに、そのうち一億をオレに持たせ、今日の朝へと送ってほしい。
 それにはあんたの発明品を完成させる必要があるがな」
「ぼくの、…発明?」
 小僧はちょこっと首を傾げた――まあ、オレもあの頃は、生活に紛れてこの世紀の大発明のコト忘れ去ってましたさ。しかしああもう止めろその顔。ラサのヤツめがまた鼻の下伸ばしてやがる。
 まさか、狙ってるんじゃないだろうな。いや、オレはそんな悪党じゃない。今も昔もそれだけは間違いない、はずだ。
 まあそれはいい。とっととフォローしくされラサ。
「“跳躍時計”。卒論に書いただろ。時間移動ができるってアレだ」
「………ああ!
 ひょっとしてそれをたくさん売ってお金を作るんですか?」
「違う違う。そんなコトしてみろ、とんでもないコトになる」
「???」
 小僧はまたしても首をかしげた――ああ、今のコイツに権力の悪どさなんか、100万回説明したって理解できない。これは世の中に悪人がいることなんて、おとぎばなしのレトリックだとかたく信じてる連中とおんなじツラだ。
 ラサも同一の見解に達したらしい、一秒で説明を諦めた。
「や、わかんないならいいんだ。とにかく、関係者以外にゃ内緒で作ってくれ。そしたらそれを使って、オレが金を返しにいってやるから」

     

手順2.未知との邂逅。(中)

「お話はわかりました。
 でも、どうしてですか?
 あの、時計は頑張れば作れるかも知れません…けど、お金もうけなんて。
 今ぼく、アルバイトでやっと生活してるんです。そんなぼくにお金を託して頂いても…。しかもこんな大金。恐れ多くて……。」
 するとラサは、一見照れたよーに笑ってアタマをかいた。

「困ったなあ。もし金、返せないと大変なコトになっちゃうぞ」

 身体がびく、とこわばった。

 あの笑い。
 ――あの、笑い。

 今も忘れない、ああ今も忘れてない。
 あの笑いでヤツはオレを陥れたのだ。
 あの笑いでヤツは……

 落ち着け、オレ。
 これは仕事、あれはターゲット。
 それに、陥れられるカタチで始めたとはいえ、金貸しの仕事は性に合っていたし、おかげで美味しい思いもしたし、もちオトシマエだってきっちりつけた。
 今のオレは決してヤツに、好きにされている存在じゃない――ご主人様なのだ。
 だからヤツが、どんな風に笑おうが、オレは全く怖くもない。むしろ同じ笑いで可愛がってやるさ。
 ひとつアタマをふると冷静さが戻ってきた。よし、監視再開だ。こんなことで使い魔にナメられてたまるもんか。

 さすがはオレというべきか、自失していたのは一瞬だったらしい。ラサのハナシはきっちりつながっていた。
 スペキュラムのなか、ヤツは小僧に誘うように笑いかけ、歌うように問い掛ける。
「あんた、今あの金で家賃払ったよな。
 アレのおかげで、生命が助かった。
 じゃあなんで金がここにきたか?
 それは五年後のあんたが、オレに金を持たせて送ったからだ。
 だってのに……」
 ここで思わせぶりに言葉を切る――小僧はラサを凝視して動かない。もはや完全にヤツの術中だ。
「もしもあんたが、五年後ここに金、送れなかったら?
 あの金は存在してないモノになってしまう。
 そしてあの金が、あんたのイノチを救ったあの金が、存在してないモノだったなら?
 ……存在してないモノになっちゃうよね。あんたのイノチも。
 つまり金を送れないとタイムパラドックスが発生。あんたは破滅。身体で、つかイノチで借金、払うことになっちゃうわけだ」
「!」
 小僧は口元を覆って鋭く息をのんだ。よほどのショックだったのだろう、顔にはもはや血の気がない。
 ラサが猫撫で声――これは猫ふぇちが猫を撫でたい時の声ということだ――でトドメをくれる。
「まあ最悪、タマシイはオレがサルベージしてさ、オレの使い魔としてでも転生させたるよ。
 あんたなかなか可愛いからな、悪いようにはしないぜ。それは絶対」
「そんな…!」
 見開いたままの小僧の目に、ついに薄く涙が浮かんだ――あの野郎、オレ様を使い魔だと? いくら脅し文句とはいえ、こんないたいけなオレになんてコトいいやがる。
 確かにあのオレは情けない。だがてめえが使い魔のくせに使い魔たぁ何事だ。
 必要なことだわかってる。しかし、アタマとココロとカラダはすべてまったく別モンだ。やっぱあいつ帰ってきたらシメる。絶対だ。

     

手順3.未知との邂逅。(後)

 どうしよう、助けて。
 コトバにこそしてないものの視線でそうすがられて、ヤツはいとも満足げなカオになる。この変態め。
 しかしそのヤツは、意外とさくさく先を進めた。
 ぽんぽん、と小僧のアタマを叩いてなだめる。
「まあそう恐がりなさんな。もしもの最悪の場合のハナシなんだから。
 時計については、ほれコイツ(とオレが書いたヒント本を手渡した)。今のお前のレベルじゃまだ理解できんだろうが、研究を重ねて読解すりゃヒントが読み取れるはずだ。
 ついでにスポンサーと指導教官も都合つけといてやった。後でお前のセンセに会ってくるといい」
 単純なことに、ラサが語り進めるにつれ、小僧の表情はみるみる明るくなっていく。
「――これで時計は大丈夫。
 あとは金だが、当座はオレが運用しとく。頃合いをみてぼちぼちレクチャーしてやるから、お前はまずは研究に集中しとけ。それでいけば間違いない。
 以上、なにか質問は?」
 そうして質問を振られる頃には、すっかりあの能天気な笑顔に戻っていた。
 小さく挙手して、これまた能天気な問いをかける。
「はいっ。
 このお金を送ってくれたのは、五年後のぼくなんですよね。
 五年後のぼくは、どうして五年前のぼくにお金を託したんですか? 五年後のぼくは……どんなひとなんですか?」
「ぶっちゃけ、気まぐれ、かな。理由も、性格も」
 おお、簡潔かつ言いえて妙だ(まあそれだけではないんだが)。
「そうですか……
 きっと優しいひとなんですね」
「ぶっ」
 すると小僧は深く深ーく頷いてのたまわり、オレとラサとは同時に吹いた――いったいなんでそーなるよ!!
「だって、いまぼく史上最大に困ってたんです。ちょうどその時にお金を届けてくれるなんて…。
 頑張らなきゃ。もしもぼくがちゃんとできなきゃ、未来のぼくさんにご迷惑がかかっちゃう。
 早く時計を完成させて、お金を増やしてあげなくちゃ。うじうじなんてしてられない。
 お兄さん!」
「あ、ハイ」
 ――今の小僧の御託に対し、言いたいことツッコミたいこと不満苦情に抗議クレームはむちゃくちゃある、だがそんなコトより――
「ラサ!! なんだよそのうれしそーなカオは!!
 ひょっとして、オレ様にお前ごときをお兄さま呼ばわりさせる気じゃなかろうな?! それは断じて許さんぞ!!」
 オレはたまらず叫んでいた。
 伝えたい、その気持ちにピアスが反応し、ヤツのピアスにオレの声を届ける。
「え…?」
 小僧はきょろきょろと辺りを見回し、ラサがまいったな~というカオでピアスを押さえているのを見て事態を悟る。
 そして。
「今の声、…未来のぼくさんですね?! あのっ、お話しさせてもらっても構いませんか?!」
「え~と、ご主人?」
「構わない」
 オレは小僧とコンタクトをとらないつもりだった。しかしこうなっては仕方がない。オレは通話に応じることにした。
「ありがとうございます!!
 ええと、こんにちは、はじめまして。ぼくはタイム…って、あなたは当然ご存知でしたよね、ごめんなさい。
 あの、五年前のタイムです。この度はありがとうございました。精一杯頑張ります。よろしくお願いします!!
 …あっと、…ごめんなさい、一つ、お願いがあるんですが、よろしいでしょうか…?」
「何だ」
 小僧はふんわりと頬を染め、憧れのヒトでも見上げるようなカオをしている……不覚にも一瞬ぐら、ときた。もしもコイツがオレじゃなかったら、拉致り決定おめでと~なカンジである。
「あの、…えっとですね。
 ぼく、早くしゃべられると、たまに聞き取れなくて…。
 さっきあなたが言って下さったこと、申し訳ないんですが聞き取れなかったんです。
 ですので、お手数なんですが、……」
 うおおおまどろっこしい! つかラサ、萌えてんぢゃねえ。たまらずオレは言った。
「ラサとオレにはタメでいい。そう言ったんだ、過去のオレ。
 理由はオレはお前と同一人物、でラサはオレの忠実なしもべだからだ。いいな?!」
「えと、…はい、じゃなくてその、ええと……」
 詰まりまくる小僧。ハイ駄目なのねわかりました。
「丁寧語は許してやるから。」
「はい! ありがとうございます!!
 よかった、あなたもラサさんも、ぼくより五年は長く生きてて、そんな方々に…て思っちゃったんです。ありがとうございました!」
 オレはもーどーしょもないので、ほとんど棒読みにだったが、こう言った。
「いえ、どーいたしまして。それじゃオレ悪いけどこの辺で。今後よろしく。じゃね。」
「はい!!」

       

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Neetsha