お前のケーキはオレのもの。
レシピNo.8 バースデーケーキ
~二年前のタイムのインタビュー音声~
ああ、ラサ? …アニキだよ。なんか文句でもあんのか、コラ?
ねぼすけだわ、オーボーだわ、エロいわのしょーもねーアニキだけどよ、菓子作るのだけはやたらうまいんだコレが。
……べ、別に、それで餌付けされてるわけじゃないからな!!
来るべきときが来たら、あいつはぶっ倒す。そうして、一生オレだけのために菓子焼かせてやる。
原因つくったのはあいつなんだ。あいつがオレをこの世界に引き込み、他人をねじふせる方法を教えた。
オレがあいつをぶっ倒すのは、むしろ師としてのあいつへのレイギだ。全力でやらせてもらうさ。
とりあえず、舞台設定は明日から考えるけどな。あいつがせっかく焼いた誕生日ケーキ、ぶち壊しにしたら悪いだろ。いくらオレでも、そこまで外道じゃねえんだよ。
レシピNo.8 バースデーケーキ
誕生日を祝うためのまるいケーキ。小さなプレゼントが焼きこまれてることもある。
――『小さな錬金術師ダイアーのノート』第一刷より
手順1.疑念
気づくとオレは昼寝用ベッドの上にいた。
どうやら自家用機のなかでカレンデュラと話しながら、寝入ってしまったらしい。
サイドテーブルの上にはスペキュラムとケータイ、ペリエのボトルとインターフォンがおいてあった。
ここまでするならあと一歩踏み込んで、そばに侍っててくれりゃいーのに。まあヤツらはヤツらで他に仕事もある、それはオレのワガママだが。
オレはペリエで軽く喉を潤し、ケータイをチェックした。着信はない。しかしまたしても発着信履歴は増えていた。
オレのケータイは着々とクルスとの通信履歴を増やしている――
オレ的には、あれからクルスと連絡していない。だってのに見るたび発着件数が(ちびちびでも)増えてるってのは、相手によってはある意味ホラーだ。
まあ、クルスなら別にいいのだが。
クルスがオレに仕えてくれるってなら、それはいいのだ。クルスは有能だし見てくれもいい、心根もむしろ他の奴らより純粋だ。
けれどオレの――小僧の相手は、ラサでなければならないのだ。
クルスの献身が、あくまで同志としてのものならまあ問題はない。しかしもし、それ以上のものだとしたら……。
とりあえずスペキュラムをかけ、追っかけ再生をかけるとびっくりするコトが起きていた。
クルスの尽くしっぷりを評価した(見かねた?)当時のラサは、クルスを“跳躍時計”の研究員として追加採用した。
大家までが『雪のなか通ってくるのは不便もあろう。入居するならかまわんぞ。家賃もそのままでいい』と持ち掛けてきた。
クルスはというと相変わらず、精力的に小僧と研究を進め、お茶の時間には仲良く談笑している。
オレは迷ったが、今のクルスにメールを送った――確かめたい。現状、クルスとオレはどういう間柄なのだ。なんか最近太ったかも、なんぞとたわいのない文面を打ち込み送ってみる。
返信は素早かった。タイミングからして、ケータイを隣においていたにちがいない。気遣いを感じさせる文章、けれどこれからはイマイチわからない――
よく考えたらオレは、『恋人とメール』なんかしたことなかった。
だからといって(一応、友人であるはずの相手に)そんなコトを直接聞くほど図太くない。
――お手上げだ。
その時見計らったかのようにインターフォンが鳴った。
「まったくさあ。カネのこととラサのことしか知らないくせに無理しちゃって。そーゆー時のためにオレがいるんだろ?
ちょっと見せてみろケータイ。いいから、医者と思って恥ずかしいのくらいガマンしろ♪ 今日はそれ以上のコトしないから。ね♪♪」
内線をかけてきたのはプリムだった。ナイスタイミングのご機嫌うかがいに、オレはさっそく(ありがたく)やつを呼んだ。
プリムは速攻現れて、ニコニコ軽口(それも語弊のあるコトバばっかし選びくさって…)ぶったたきながらオレのケータイを調べ始めた。
ああ、ラサ? …アニキだよ。なんか文句でもあんのか、コラ?
ねぼすけだわ、オーボーだわ、エロいわのしょーもねーアニキだけどよ、菓子作るのだけはやたらうまいんだコレが。
……べ、別に、それで餌付けされてるわけじゃないからな!!
来るべきときが来たら、あいつはぶっ倒す。そうして、一生オレだけのために菓子焼かせてやる。
原因つくったのはあいつなんだ。あいつがオレをこの世界に引き込み、他人をねじふせる方法を教えた。
オレがあいつをぶっ倒すのは、むしろ師としてのあいつへのレイギだ。全力でやらせてもらうさ。
とりあえず、舞台設定は明日から考えるけどな。あいつがせっかく焼いた誕生日ケーキ、ぶち壊しにしたら悪いだろ。いくらオレでも、そこまで外道じゃねえんだよ。
レシピNo.8 バースデーケーキ
誕生日を祝うためのまるいケーキ。小さなプレゼントが焼きこまれてることもある。
――『小さな錬金術師ダイアーのノート』第一刷より
手順1.疑念
気づくとオレは昼寝用ベッドの上にいた。
どうやら自家用機のなかでカレンデュラと話しながら、寝入ってしまったらしい。
サイドテーブルの上にはスペキュラムとケータイ、ペリエのボトルとインターフォンがおいてあった。
ここまでするならあと一歩踏み込んで、そばに侍っててくれりゃいーのに。まあヤツらはヤツらで他に仕事もある、それはオレのワガママだが。
オレはペリエで軽く喉を潤し、ケータイをチェックした。着信はない。しかしまたしても発着信履歴は増えていた。
オレのケータイは着々とクルスとの通信履歴を増やしている――
オレ的には、あれからクルスと連絡していない。だってのに見るたび発着件数が(ちびちびでも)増えてるってのは、相手によってはある意味ホラーだ。
まあ、クルスなら別にいいのだが。
クルスがオレに仕えてくれるってなら、それはいいのだ。クルスは有能だし見てくれもいい、心根もむしろ他の奴らより純粋だ。
けれどオレの――小僧の相手は、ラサでなければならないのだ。
クルスの献身が、あくまで同志としてのものならまあ問題はない。しかしもし、それ以上のものだとしたら……。
とりあえずスペキュラムをかけ、追っかけ再生をかけるとびっくりするコトが起きていた。
クルスの尽くしっぷりを評価した(見かねた?)当時のラサは、クルスを“跳躍時計”の研究員として追加採用した。
大家までが『雪のなか通ってくるのは不便もあろう。入居するならかまわんぞ。家賃もそのままでいい』と持ち掛けてきた。
クルスはというと相変わらず、精力的に小僧と研究を進め、お茶の時間には仲良く談笑している。
オレは迷ったが、今のクルスにメールを送った――確かめたい。現状、クルスとオレはどういう間柄なのだ。なんか最近太ったかも、なんぞとたわいのない文面を打ち込み送ってみる。
返信は素早かった。タイミングからして、ケータイを隣においていたにちがいない。気遣いを感じさせる文章、けれどこれからはイマイチわからない――
よく考えたらオレは、『恋人とメール』なんかしたことなかった。
だからといって(一応、友人であるはずの相手に)そんなコトを直接聞くほど図太くない。
――お手上げだ。
その時見計らったかのようにインターフォンが鳴った。
「まったくさあ。カネのこととラサのことしか知らないくせに無理しちゃって。そーゆー時のためにオレがいるんだろ?
ちょっと見せてみろケータイ。いいから、医者と思って恥ずかしいのくらいガマンしろ♪ 今日はそれ以上のコトしないから。ね♪♪」
内線をかけてきたのはプリムだった。ナイスタイミングのご機嫌うかがいに、オレはさっそく(ありがたく)やつを呼んだ。
プリムは速攻現れて、ニコニコ軽口(それも語弊のあるコトバばっかし選びくさって…)ぶったたきながらオレのケータイを調べ始めた。
手順2.それは決定的な
「最多の通信相手は…クルス、やっぱし。通信の頻度…週に0.75回、微妙だね~。つかクルスばっかじゃんやり取りしてんの。この時点でほぼ確定だね♪ おめでと~」
「そんなで決めるな!!」
「いいの? ナカ見ちゃって? ホントにいーね♪」
「……クルスのだけな」
プリムのやつめはニヤニヤしながらケータイをいじっていたが、すぐに手を挙げた。
「はいせんせ~。引用あるのはどーしますか~」
「避けろ!」
「あのー文中にまじってますが~」
「忘れろ!!」
「間接話法で、あ」
その時着信音。
「……なんか渦中の方からRe:ついたメールがきたみたいなんですが~。オレが見ちゃっていいですか~?」
「…………………見ていいとこだけ読んでやるから貸せ!!!」
しかしケータイを奪い返したオレは絶句した。
『会いたい。会えなくて淋しい――』
目の前に横たわっていたのは、そんな文章。
そんな。クルスがそんな。
「…ん?」
ちょっと待て。なんかずいぶんと口調が違わないか?
差出人をみると、オレ。つか、このケータイだ。
「…ぷ」
プリムが吹き出す。なるほどつまり、今のはヤツのイタメルだと。
「プリム? おまえ、状況わかってる?」
マジでちょっとシメたろか。そう笑顔で伝えると、プリムはごろんと寝転んだ――必殺『腹をさらす子犬ちゃんポーズ』。これやられるとなーんも出来なくなっちまうのだこの知能犯め。
ヤツは愛らしくオレを見上げてのたまう。
「オレ的にはホンネだよ~? タイム、最近オレと遊んでくれないんだもん。怒らせてでも注意を引きたいケナゲなオトコ心なの。ダメ?」
「………。スマン」
「な?!」
するとプリムは飛び起きた。
「なに?! なにどしたよオマエ?! 医者呼ぶ?! マジで!!」
「…心底失礼なヤツだなお前。」
「だってだって、ずっとご無沙汰だったダンナがだよ。突然やって来てアイシテルだよ、驚かないほーがイカサマだって!!」
「いやアイシテルってお前ね……」
ぶっちゃけ意訳のし過ぎですからソレ。でも否定するほどでもない。
「まあいいや。だいたいそんなカンジだから。正解じゃないけどな。」
「ケチ。
ま、いっか。たまにゃラサと離れてみるのも悪かないってこったな。お前ちょっと変わったぜ、マジで」
「変わっ、た……?」
「おうよ。…どした、遠い目しちゃって」
変わったか。オレはやはりそんなに、変わっているのか。
体格が少し変わる程度なら、まあ、まだ、いい。
しかし中身まで、ほかからわかるほど変わるなんて、一体どれだけの変化が小僧のなかで起きているのだ。
ぞっとした。過去に干渉することを、ナメていたかも知れない。
うまく立ち回れば金だけ増やして、またもとの毎日に戻れる、そんな風に思ってたのに――
その時新たに着信があった。クルスだ。
慌てて開封、文面を見る。
『こんにちわ。今日はうれしいお知らせです。
先程あの実験がやっと成功、そろそろこちらでの仕事に終わりが見えて来ました。
早ければ、来月半ばにはそちらへ行けることと思います。
まだざっくりとした話ですが、僕を待ってくれているあなたに、一刻もはやくお知らせしたくて。
半端でごめんなさい。またメールします』
いくら恋愛偏差値劣等生のオレだってこれはわかった。
ヤバい、と。
これは、タダの友人どうしのメールじゃない。
発着信履歴をチェックすると、また増えていた。
「連絡の頻度は…週一超。って、言わなくてもわかってるか。
――よくできました」
プリムはオレのアタマをぐしゃぐしゃぐしゃ、とするとオレの顔を覗き込んだ。
「でさ、ボス。とりあえずどうする。
取れるテは三つ。
ひとつ、クルスを軽く魅了する。
ふたつ、過去のお前に一服盛る。
みっつ、ラサをたきつける。
どれも一長一短あるぜ。
ひとつめは、あまり現状損なわないしシュラバもない。ただ研究のペースは落ちる。最悪クルスはしばらく使い物にならない。
ふたつめはぶっちゃけクスリで過去のお前のセーカク悪化さす。『ココロ写し薬』使って今のお前の頭脳とセーカクを一部移植すれば、研究のペースが上がる一方、お前で慣れてるラサ以外はちょっと引くはずだ。ただ逆に『僕が更正させてあげますっ』とか言って逆効果になる可能性もあるけどな」
「最多の通信相手は…クルス、やっぱし。通信の頻度…週に0.75回、微妙だね~。つかクルスばっかじゃんやり取りしてんの。この時点でほぼ確定だね♪ おめでと~」
「そんなで決めるな!!」
「いいの? ナカ見ちゃって? ホントにいーね♪」
「……クルスのだけな」
プリムのやつめはニヤニヤしながらケータイをいじっていたが、すぐに手を挙げた。
「はいせんせ~。引用あるのはどーしますか~」
「避けろ!」
「あのー文中にまじってますが~」
「忘れろ!!」
「間接話法で、あ」
その時着信音。
「……なんか渦中の方からRe:ついたメールがきたみたいなんですが~。オレが見ちゃっていいですか~?」
「…………………見ていいとこだけ読んでやるから貸せ!!!」
しかしケータイを奪い返したオレは絶句した。
『会いたい。会えなくて淋しい――』
目の前に横たわっていたのは、そんな文章。
そんな。クルスがそんな。
「…ん?」
ちょっと待て。なんかずいぶんと口調が違わないか?
差出人をみると、オレ。つか、このケータイだ。
「…ぷ」
プリムが吹き出す。なるほどつまり、今のはヤツのイタメルだと。
「プリム? おまえ、状況わかってる?」
マジでちょっとシメたろか。そう笑顔で伝えると、プリムはごろんと寝転んだ――必殺『腹をさらす子犬ちゃんポーズ』。これやられるとなーんも出来なくなっちまうのだこの知能犯め。
ヤツは愛らしくオレを見上げてのたまう。
「オレ的にはホンネだよ~? タイム、最近オレと遊んでくれないんだもん。怒らせてでも注意を引きたいケナゲなオトコ心なの。ダメ?」
「………。スマン」
「な?!」
するとプリムは飛び起きた。
「なに?! なにどしたよオマエ?! 医者呼ぶ?! マジで!!」
「…心底失礼なヤツだなお前。」
「だってだって、ずっとご無沙汰だったダンナがだよ。突然やって来てアイシテルだよ、驚かないほーがイカサマだって!!」
「いやアイシテルってお前ね……」
ぶっちゃけ意訳のし過ぎですからソレ。でも否定するほどでもない。
「まあいいや。だいたいそんなカンジだから。正解じゃないけどな。」
「ケチ。
ま、いっか。たまにゃラサと離れてみるのも悪かないってこったな。お前ちょっと変わったぜ、マジで」
「変わっ、た……?」
「おうよ。…どした、遠い目しちゃって」
変わったか。オレはやはりそんなに、変わっているのか。
体格が少し変わる程度なら、まあ、まだ、いい。
しかし中身まで、ほかからわかるほど変わるなんて、一体どれだけの変化が小僧のなかで起きているのだ。
ぞっとした。過去に干渉することを、ナメていたかも知れない。
うまく立ち回れば金だけ増やして、またもとの毎日に戻れる、そんな風に思ってたのに――
その時新たに着信があった。クルスだ。
慌てて開封、文面を見る。
『こんにちわ。今日はうれしいお知らせです。
先程あの実験がやっと成功、そろそろこちらでの仕事に終わりが見えて来ました。
早ければ、来月半ばにはそちらへ行けることと思います。
まだざっくりとした話ですが、僕を待ってくれているあなたに、一刻もはやくお知らせしたくて。
半端でごめんなさい。またメールします』
いくら恋愛偏差値劣等生のオレだってこれはわかった。
ヤバい、と。
これは、タダの友人どうしのメールじゃない。
発着信履歴をチェックすると、また増えていた。
「連絡の頻度は…週一超。って、言わなくてもわかってるか。
――よくできました」
プリムはオレのアタマをぐしゃぐしゃぐしゃ、とするとオレの顔を覗き込んだ。
「でさ、ボス。とりあえずどうする。
取れるテは三つ。
ひとつ、クルスを軽く魅了する。
ふたつ、過去のお前に一服盛る。
みっつ、ラサをたきつける。
どれも一長一短あるぜ。
ひとつめは、あまり現状損なわないしシュラバもない。ただ研究のペースは落ちる。最悪クルスはしばらく使い物にならない。
ふたつめはぶっちゃけクスリで過去のお前のセーカク悪化さす。『ココロ写し薬』使って今のお前の頭脳とセーカクを一部移植すれば、研究のペースが上がる一方、お前で慣れてるラサ以外はちょっと引くはずだ。ただ逆に『僕が更正させてあげますっ』とか言って逆効果になる可能性もあるけどな」
手順3.お前のケーキはオレのもの!!
プリムは景気よくパインジュース(←来るときに持ってきた)をあおり、コトバを継いだ。
「みっつ目は、ラサに一服盛らせる。毎日菓子食わせてるんだ、惚れ薬くらい余裕で盛れるだろ。過去のラサとお前とクルス。っで、三人仲良くラブラブに」「ちょっ、と待てやコラ」
オレはぶっ飛んだ。何故増やす、何故。
「う~ん? それはタイムがそうしたがってるから~。
ひとつめとふたつめ、どっち聞いた時もお前イヤげだったな。
ふたつの策の違いは研究の進度への影響、共通点はクルスへの影響。そりゃトーゼンだ、コイツは『クルスを遠ざけるための作戦』なんだからな。
オレがもし、オレの想定したお前なら、迷わずふたつめの策をとるぜ――研究へのデメリットはない。そしてお前は自分が変化していくことに当惑し、恐怖すら抱き始めている。
だってのに第二の策を嫌がる理由は?
第二の策と研究の進度の面で相反する、第一の策を拒否したことと考え合わせれば明白だ。
お前は、クルスを遠ざけたくはない。
反論できるか?」
「……………」
プリムは一見カワイイだけの馬鹿餓鬼野郎なのだが、てかいっつも馬鹿ばっかしやらかしていっそツーカイなほどなんだが、おまけに面白そうと思えばどんな遊びにでも嬉々として応じる猛者なのだが、オレがヤツを雇ったのはもちろんそれが理由ではない。
ヤツは天才なのだ。
回転の速さなら、オレを軽く凌駕する。いや、コイツよりアタマの切れるヤツを、オレは未だに知らない。
コイツだけは敵に回したくない。だからオレはヤツと敵対したときにすぐ全面降伏、“メシ代担当兼遊び相手”になった――てか、して頂いた(笑)――のだ。
「お前、一番そばにいるのはラサがいいんだろ。でも、クルスとも離れたくない。だったら方法はひとつじゃん。
いいだろ、ハーレム状態は今と変わんないんだ。
オレもカレもお前がすきだよ。エロいしガラ悪いし食いしんぼだし、どーしょーもねー野郎だけどさ」
「…………。」
言ってくれるよコイツは。そう言われたら反論できないだろーが。
「おし、それじゃOKな。じゃオレたち行ってくるわ。
ラサにクスリを届けて、過去のオレたちにお前を紹介する。
今のオレたちがこうなんだから、過去でも仲良くなれる。
ちょっと知り合う日にちは早まっちまったし、関係も変わってくると思うけど、お前みたいなヤツにゃオレらが必要だかんな。
きっとオレたち、ここに帰って来れる。待ってろよ、マブダチ」
ぽんとオレの肩を叩いて、プリムは立ち上がる。
「跳躍時計ふたつとクスリと金。あと必要なら通信ピアス。
用意できたら内線くれ。
カレにはオレから話しとくし、マネジメントもまかせとけ。まあ明日時点に戻ることにすっからモンダイもないだろうが」
「わかった。ああ、そんときは」
「もち、カレも連れて来るさ。はなむけのちゅーくらいしてやれよ♪」
「オイコラ!!」
プリムはオレをからかうと、笑いながら部屋を飛び出していった。
やや迷ったが、ピアスはいらないだろう。ブツの受け渡しと紹介だけなのだし、奴らは信用できる。注文の品を揃えるとすぐ、オレは二人を呼び出した。
“はなむけのちゅー”こそしなかったが、プリムとはハグ(された)、カレンデュラとは握手を交わして、オレは二人を送り出した。
この屋敷にもハウスキーパーはいる。しかし、彼らはよほどのことがないかぎりオレの目に触れることはない。
妖精族である彼らは、そうする能力を持っているし、またラサたちがそういう契約にしたのだろう(賢明な判断だ――オレは自分でいうのもなんだが、危険な人間なのだし)。
つまり何かというと、プリムとカレンデュラを送り出したいま、オレはこの屋敷で“一人ぼっち”になってしまったのだ。
――することがない。
ラサがいた時を思い出す。あいつがいれば、つまらないことなんかなかったのに。
クルスに遠話かけようか。いや、半端にそんなことをすればかえって人恋しくなるだけだ。
二人にピアスを渡しておけばよかったかも知れない。たった一晩とはいえ、気が向いたときにちょっとしゃべるだけでも、でき得るとでき得ないでは雲泥の差だ。
――オレはこんな、弱いヤツだったかな。
こんな心境で今スペキュラムを見たって、ろくな判断はできないだろう。わかってる。でも、今オレの気を紛らせてくれるものは、それしかない。
オレはソファに寝転んでスペキュラムを覗いた。
プリムのやつめは乱暴にも、過去のラサと小僧とクルス、プリムとカレンデュラを一同に集めてまとめて一服盛った(やりやがったよ(笑))。
一方でラサはというと、なにやらオーブンの前で上機嫌。なんとなく嫌な予感がする。
そのうちいろんな連中が集まり出した――オリバー教授と助手オットー、黒眼鏡をかけたシプレ、そして大家。いずれも手に何か包みを持っているのが謎だ。
ラサはとみると既にでっかいスポンジにせっせとデコレーションをしている。
その時リビングから火薬の弾ける音!!
「タイム、ちょっと早いけど誕生日おめでとう!!」
その時オレはラサのやらかしたことに気がついた。
アーティファクト置き場へ走る。跳躍時計を掴む。時針を合わせて、――
プリムは景気よくパインジュース(←来るときに持ってきた)をあおり、コトバを継いだ。
「みっつ目は、ラサに一服盛らせる。毎日菓子食わせてるんだ、惚れ薬くらい余裕で盛れるだろ。過去のラサとお前とクルス。っで、三人仲良くラブラブに」「ちょっ、と待てやコラ」
オレはぶっ飛んだ。何故増やす、何故。
「う~ん? それはタイムがそうしたがってるから~。
ひとつめとふたつめ、どっち聞いた時もお前イヤげだったな。
ふたつの策の違いは研究の進度への影響、共通点はクルスへの影響。そりゃトーゼンだ、コイツは『クルスを遠ざけるための作戦』なんだからな。
オレがもし、オレの想定したお前なら、迷わずふたつめの策をとるぜ――研究へのデメリットはない。そしてお前は自分が変化していくことに当惑し、恐怖すら抱き始めている。
だってのに第二の策を嫌がる理由は?
第二の策と研究の進度の面で相反する、第一の策を拒否したことと考え合わせれば明白だ。
お前は、クルスを遠ざけたくはない。
反論できるか?」
「……………」
プリムは一見カワイイだけの馬鹿餓鬼野郎なのだが、てかいっつも馬鹿ばっかしやらかしていっそツーカイなほどなんだが、おまけに面白そうと思えばどんな遊びにでも嬉々として応じる猛者なのだが、オレがヤツを雇ったのはもちろんそれが理由ではない。
ヤツは天才なのだ。
回転の速さなら、オレを軽く凌駕する。いや、コイツよりアタマの切れるヤツを、オレは未だに知らない。
コイツだけは敵に回したくない。だからオレはヤツと敵対したときにすぐ全面降伏、“メシ代担当兼遊び相手”になった――てか、して頂いた(笑)――のだ。
「お前、一番そばにいるのはラサがいいんだろ。でも、クルスとも離れたくない。だったら方法はひとつじゃん。
いいだろ、ハーレム状態は今と変わんないんだ。
オレもカレもお前がすきだよ。エロいしガラ悪いし食いしんぼだし、どーしょーもねー野郎だけどさ」
「…………。」
言ってくれるよコイツは。そう言われたら反論できないだろーが。
「おし、それじゃOKな。じゃオレたち行ってくるわ。
ラサにクスリを届けて、過去のオレたちにお前を紹介する。
今のオレたちがこうなんだから、過去でも仲良くなれる。
ちょっと知り合う日にちは早まっちまったし、関係も変わってくると思うけど、お前みたいなヤツにゃオレらが必要だかんな。
きっとオレたち、ここに帰って来れる。待ってろよ、マブダチ」
ぽんとオレの肩を叩いて、プリムは立ち上がる。
「跳躍時計ふたつとクスリと金。あと必要なら通信ピアス。
用意できたら内線くれ。
カレにはオレから話しとくし、マネジメントもまかせとけ。まあ明日時点に戻ることにすっからモンダイもないだろうが」
「わかった。ああ、そんときは」
「もち、カレも連れて来るさ。はなむけのちゅーくらいしてやれよ♪」
「オイコラ!!」
プリムはオレをからかうと、笑いながら部屋を飛び出していった。
やや迷ったが、ピアスはいらないだろう。ブツの受け渡しと紹介だけなのだし、奴らは信用できる。注文の品を揃えるとすぐ、オレは二人を呼び出した。
“はなむけのちゅー”こそしなかったが、プリムとはハグ(された)、カレンデュラとは握手を交わして、オレは二人を送り出した。
この屋敷にもハウスキーパーはいる。しかし、彼らはよほどのことがないかぎりオレの目に触れることはない。
妖精族である彼らは、そうする能力を持っているし、またラサたちがそういう契約にしたのだろう(賢明な判断だ――オレは自分でいうのもなんだが、危険な人間なのだし)。
つまり何かというと、プリムとカレンデュラを送り出したいま、オレはこの屋敷で“一人ぼっち”になってしまったのだ。
――することがない。
ラサがいた時を思い出す。あいつがいれば、つまらないことなんかなかったのに。
クルスに遠話かけようか。いや、半端にそんなことをすればかえって人恋しくなるだけだ。
二人にピアスを渡しておけばよかったかも知れない。たった一晩とはいえ、気が向いたときにちょっとしゃべるだけでも、でき得るとでき得ないでは雲泥の差だ。
――オレはこんな、弱いヤツだったかな。
こんな心境で今スペキュラムを見たって、ろくな判断はできないだろう。わかってる。でも、今オレの気を紛らせてくれるものは、それしかない。
オレはソファに寝転んでスペキュラムを覗いた。
プリムのやつめは乱暴にも、過去のラサと小僧とクルス、プリムとカレンデュラを一同に集めてまとめて一服盛った(やりやがったよ(笑))。
一方でラサはというと、なにやらオーブンの前で上機嫌。なんとなく嫌な予感がする。
そのうちいろんな連中が集まり出した――オリバー教授と助手オットー、黒眼鏡をかけたシプレ、そして大家。いずれも手に何か包みを持っているのが謎だ。
ラサはとみると既にでっかいスポンジにせっせとデコレーションをしている。
その時リビングから火薬の弾ける音!!
「タイム、ちょっと早いけど誕生日おめでとう!!」
その時オレはラサのやらかしたことに気がついた。
アーティファクト置き場へ走る。跳躍時計を掴む。時針を合わせて、――