~四年前のタイムのひとりごと~
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
まずくなったら、ほんとうにまずくなったら、ラサが助けに来てくれる。
このピアスさえあれば、ラサにはぼくの声が聞こえて、そして助けに来てくれるんだ。
うまくやらなくちゃ。ぼくがやれないと、借金肩代わりしてくれたラサが困るんだ。
怖いけど…すごく怖いけど。ちゃんと取り立て、やらなくちゃ。
うまくやったらラサがほめてくれる。ぎゅっと抱きしめてアタマなでてくれて、ケガの手当てして、あったかいお茶とあまいお菓子をくれて、そして……
レシピNo.12 ささやきの星
『星砂の琥珀』でつくったおおぶりのピアス。片方ずつを分け持てば、時空を超えて互いの声を伝え合うことができる。
――『マレーナ見聞録』第二章より
手順1.茶の間で激論。
小僧は他人を信頼している。
だから、なんでもあけっぴろげに話す。
よって、その日の夕飯は、激論の家族会議(?)と相成った。
「冗談でしょう!! 危険すぎますっ。
そんな、相手に暴力を振るうこともいとわない人たち相手に、あなたのような優しい人が……ムリです。殺されちゃいますよ。お願いですからやめてくださいっ」
クルスはもちろん大反対だ。
「え~タイムなら大丈夫だよ~。タイムのフレアバースト最強だもん♪ オレは見たいな~タイムのかっこいーとこ~。ねっカレ♪」
「見たい気もあるが、危険でもあるな」
一方プリムは無責任に面白がり、カレンデュラは成り行きを静観。
ラサどもはフクザツな表情でいる。
過去の方は、可愛い小僧にムチャはさせたくないが、もしこれがうまくいけば当初の目論見――小僧を天才金貸しに育てつつ、子飼いの部下として手元に置くこと――を達成できるのでそれも悪くないと迷っているのだろう。
未来の方は、このことがどういう結果につながるかを予見したのだろう。
もしもこれを阻止すれば、ヤツの勝ちとなる。
だがそうしたらこのオレは本当に、決定的に失われるのだ。
迷いもあるだろう。このオレは(確かにろくでなしだが)ヤツが自分で五年をかけて育てたのだ。
不思議なことに、なぜかその席にはシプレがいて、小僧を擁護した。
「だが、やらねば納得できんだろう。
タイムも一人前の男だ。それが生命をかけたいといっている。
タイム、本当にまずくなったときに助けに入るのはいいだろう?(小僧は『は、はいっ』とうなずいた)
本人もこういっているのだ。クルスよ、我らはタイムの挑戦を見守らんか。
それとも何かあってからでは、お前はタイムを守れんのか?
わたしは守れるぞ。タイムは大切な“弟”だ、命に代えても守る」
「“弟”…?」
するとクルスはきっ、とシプレをにらんだ。
オレの知っていた、にくったらしいほどの冷静沈着ぶりなんかどこへやら。いや、だからこそ現役の枢機卿サマを目の前にして一歩も譲らずにいられるのか。
「信用できませんね。
“お兄さん”だというなら。アカデミー卒業後のタイムさんが、どんな生活をしていたのか知っているんですか。知っていて放置していたんですか?!」
「知っていた。だがタイムはやり抜いてきた。その結果がいまのタイムだ。過保護にしてその芽を摘めば今日のタイムはなかった」
「過保護って……
あなたには放置か過保護しかないんですか。
そんな方にタイムさんは任せられません。
タイムさんは僕が守ります。かたぎでないひとに用もないのに会わせることを容認するのは、ですからおことわりです。
ぼくはたしかにこの間まで、タイムさんとは遠い存在だった。一度は見失って、風の噂に窮状を聞きながらも、奇跡の再会を待つしかできずにいた弱虫です。
でも奇跡があった。僕はタイムさんに再会できて、やっと握手することができた。
だからもうこの手を放したくない。そんな危険を冒すようなことは嫌なんです!!」
「クルス……
でもこのひとをとめないとぼくは、ぼくでなくなるんだよ。
君が大事だといってくれる、ぼくじゃなくなる」
「……………」
小僧の悲壮なカオをみて、クルスはだまりこんだ。
「タイムさん」
そしてヤツはなんと、オレの腕をつかんだ。
手順2.届かない、メール。
オレは一応カタギだが、多分その分タチは悪い。
そんな野郎の腕をつかむとは、クルスのヤツも大した度胸だ。
だが驚きは終わらない。ひとつの迷いも震えもない瞳が、まっすぐにオレの目を射ぬく。
そうしてヤツはのたまった。
「誓ってください。タイムさんがちゃんと、話し合いで取り立てに成功したら、今のやり方を改めると。
もしそれができないなら取立ての仕事をやめてください。日々の糧が必要でしたら、あなたは僕が養います。タイムさんは僕が守りますから」
「……ああ。
放せよ。
あばよ」
クルスはぽかんとしたカオになる。同時に手の力も緩んで、外れた。
オレはクルスの手から逃れると、そのまま背を向けドアを出た。
あばよ、だ。
せっかくの気遣いだが、それはムダ。
あす小僧が訪ねる債務者への根回しはすんでいる。オレの目論見がはまれば――小僧が失敗すれば、それは正直、カタギでないやつなら引くような事態を意味する。クルスと小僧の間は疎遠になるだろう。
しかし、小僧が成功すれば、オレはいなくなる。
どちらにせよ、オレはもうクルスと話すことはなくなるのだ。
ポケットからケータイをとりだす。今、これはただのおもちゃだ。この時点ではまだ空中遠話ネットワークは一般的でない。ケータイは、まだ一部の研究者が実験機を持っているだけの段階だ。
だからたとえばこれで遠話をかけようとしても、それはオレの知るどの番号にもつながらない。クルスからメールがくることも、もうないのだ。
着信件数も、もう増えない。減らないだけマシなのだろうが。
仕方がない。オレはオレのままでいたい。ラサを失わないために。
だから、クルスとはもう、サヨナラなのだ。
短い間、未来のクルスとのやりとりは楽しかった。が、もうそれも途切れて消える。
オレはしくじった、確かにそうだ。でもそれはもうやってしまったことなのだ。とりかえしなど、もうつかない。
いつになく感傷的になったオレは、届かないことを承知でクルスのケータイにメールを打ってみた。
サヨナラ、と。
それにつづく言葉は、結局思いつかず、あきらめてそのまま送信した。
余分な改行入れっぱなしというのは好きではないが、削除する気にもならず。
そしてケータイを投げ捨てようとして、捨てきれずまたポケットにもどした。
シゴトは明日の朝10時。オレは一足先に部屋に帰って寝ることにした。
結果はどちらでも、もういい。オレはもう、出た結果に従うだけ。それだけだ。
そのとき、どくん、と動悸がした。
手を見る。透けている。発作だ。
しかしこれはひどい――身体中のチカラがぬける。
酒だ。酒を飲もう。倒れこみながらオレは上着の内ポケットを探る。
しかし、うまく手が動かない。
小僧がまた、人道主義発動してやがるのだ。
「てめえ、やめろ、そのバカっぷり……」
叫ぼうと思ったがかすれ声にしかならない。目がかすむ。
そうだ、ピアス。あれさえあれば、あれがあればたすけてもらえる。
――このピアスさえあれば。ぼくの声が聞こえてラサがたすけてくれるんだ。
必死で右耳に下がったピアスを探る。いや、手の感覚がもうないからちゃんと握れているかはわからない。そもそもピアスももう消滅してしまって存在してないかも知れない。
けれど信じ祈った。ピアスがこの声を届けてくれると。
もう声を出す力がほとんどない。残ったすべての力をこめて声にした。
ラサ、と。
お前のケーキはオレのもの。
レシピNo.12 ささやきの星
手順3.病室でのダイアログ。
気づくとそこは、見覚えのあまりない場所だった。
いわゆる、病室というヤツだ。
身体を起こしてみる。一瞬ふらつくが、起きられた。どこも、痛くはない。
自分の手を見てみる。別に傷も異変もない。
左手の薬指に、かすかに白い帯のような指輪のあと。
オレは――助かったのか。いまオレはどういう状況なのだ。
オレの着ているのは着心地のよい寝間着。入院しているのだろうか。
だとしたら、だれがオレを入院させたんだ?
というか、アレでなんで助かったのか?
「あ!! 目が覚めたんだな」
そのときドアが開く音とともに声が聞こえた。
軽い足音とともに駆け寄ってきたのは、ラサ。ピアスもチョーカーももうないが、もう見間違えたりしない、未来のほうのラサだった。
「あ、……」
オレは迷った。こいつに、なんてこたえていいのかわからない。
「“ご主人”て呼んだほうがハナシしやすいんなら、そう呼ぶけど?」
ベッドサイドのイスにかけた、ラサの声と表情はあくまで優しい。
「……わかんない。お前の好きにしていい」
「じゃ、ティー」
「へ?」
それは、子供のころの――オレがまだシプレとともにじい様に世話になってたころのあだ名だ。
「なんでおまえ、それ……」
「いろいろ話したんだよ、オレたち。
おまえらを消さないためにどうしたらいいのか、さ」
「オレたち??」
オレの味方、つったらシプレだけ、のような気がしたが。
「ああ。信じられないかもしんないが、今はみんなおまえの味方だよ。
まずオレとオレ。
あのあと、かんかんがくがくしてたらいきなり、オレのピアスが消えだしてな。
消滅する最後の瞬間、おまえの声が入った。
で、道端に泣いて転げてるおまえ見ちゃったらもうね……
ラサさんズのキモチは見事にくじけちゃったわけ。」
「マジ?」
オレ泣いてたのかよ。
「うんすっげかあいくv」
「だー!!」
ウソだぜったいウソだ。オレがかあいいワケがない。
「タイムくんはオレが育てたんだもん。かあいくないわけないぢゃんw」
またこいつは、こっちが恥ずくなることを。
「それはいーから先。」
「へいへい。
アトリエ出てからおまえ、クルスのケータイにメールしたろ。アレ見てクルスもほだされちまってさ。
とりあえず“あっちのお前”とおまえに『冬眠のクスリ』飲ませてさ。対策練ったの。
事情話したらオリバー教授と助手オットーも協力してくれた。
教授とクルスによると、おまえがヤバくなってるのは『“あっちのお前”が“過去のおまえ”とはかけ離れつつあって、なおかつ、おまえが過去――本来のホームグラウンドじゃないとこにいるから』だって結論になった。
だからとりあえずおまえをここに戻して。
んで、目が覚めたら、こいつを飲ませようってことになった」
ラサが取り出したのは見覚えのある白い小瓶。
「え?『ココロ写し薬』?
でも、こいつは……」
オレは結局、シプレからもらったそれを、ラサの部屋におきっぱにして使わなかったはず。つまりこれをのんでもオレはどうもならない、のでは。
「ああ、あれはダミー、つかシプレももひとつクスリ持っててさ。
こっそりおまえの髪の毛頂戴して、つけこんどいたんだと」
「マジ?」
シプレのやつ、工作員も真っ青だな。ホントにそれでも枢機卿サマか(笑)。
ラサはポケットを探るともうひとつ、色違いの小瓶を取り出した。こっちの色は赤。
「ただオレはこれもあずかってるけどさ、…
あっちのお前のココロをうつした『ココロ写し薬』。
両方のお前を残すため、両方飲んでもらうってことになった、けれど、…
おまえが嫌ならこいつはのまなくていい」
「なんで?」
「だってそりゃ……」
ラサは照れてアタマをかいて、オレに横顔を見せるような角度でベッドにとん、と腰掛けた。
「確かにおまえ、とんでもなかったよ。うんマジ。
でもさ、オレが育てたんだよ、おまえは。
あっちのお前じゃない、おまえこそが、オレにとってはお前なの。
別にあのイカレっぷりなおさなくったっていいんだ。オレに向かなきゃ。
呪いの指輪なしで一緒に暮らしてた、あのころのオレとおまえに戻れれば、オレはそれでいいんだよ。
オレは“あっちのお前”のクスリも飲んでくれって説得してくれ、そういわれた。だからこれは、ここまで一緒に動いてくれたほかのやつらを裏切る行為だ。それはわかってる。
でもおまえが望むんならオレは、あいつら裏切っておまえつれて逃げるよ。
あいつらのことも、あっちのお前も、オレはすきだ。
けど、オレにはおまえが一番なんだよ。
馬鹿かもしんないけどさ……」
「ラサはどうしたい?」
オレはもちろんそういった。
「オレ、またお前に暴力振るうかもしれない……
だってオレはもう、自分の意志を通すためのオプションに、暴力ってのがあるのを知ってしまってる。
お前はもう呪われてないからどこでもいける。けど、もし、お前がいなくなると分かってしまったときに、オレはまた暴力に訴えるかもしれない。
そんなくらいならあっちのオレのココロだけ飲んで、牙を抜いてしまったほうがいいかもしれない。
シプレからもう聞いてるよな、オレが聞いた予言の話。お前を行くなってひきとめると永遠にお前を失う、てやつ。
だから、お前がいなくなったら嫌だけど、その予言があって、指輪がもうない以上、そうなったときにお前を引き止める手段がほかにない。
でも暴力なんて嫌だろ。オレだってもう嫌だ。だからお前がそうしてくれっていうなら、オレはあいつのココロを飲むよ。お前がしたいようにオレはしたい。今までとは逆にオレが使い魔になれってなら、それでもいい」
「じゃ、両方飲んどくか。
もし、なんてのは絶対ないけど、おまえが不安だってならそうしとこう。
でもな、殴りたくなったら殴って構わないぜ?
俺の方が悪かったら反省するし、そう思わなかったら殴り返すから。
ただそれは最終手段。かつ、互いに手加減アリでいこうな。殴ったほうも殴られたほうもやっぱ痛いからさ」
ラサはいつかのような、屈託のない笑顔でオレに手を差し出した。
オレはもちろん、それをしっかりと握った。
気づくとそこは、見覚えのあまりない場所だった。
いわゆる、病室というヤツだ。
身体を起こしてみる。一瞬ふらつくが、起きられた。どこも、痛くはない。
自分の手を見てみる。別に傷も異変もない。
左手の薬指に、かすかに白い帯のような指輪のあと。
オレは――助かったのか。いまオレはどういう状況なのだ。
オレの着ているのは着心地のよい寝間着。入院しているのだろうか。
だとしたら、だれがオレを入院させたんだ?
というか、アレでなんで助かったのか?
「あ!! 目が覚めたんだな」
そのときドアが開く音とともに声が聞こえた。
軽い足音とともに駆け寄ってきたのは、ラサ。ピアスもチョーカーももうないが、もう見間違えたりしない、未来のほうのラサだった。
「あ、……」
オレは迷った。こいつに、なんてこたえていいのかわからない。
「“ご主人”て呼んだほうがハナシしやすいんなら、そう呼ぶけど?」
ベッドサイドのイスにかけた、ラサの声と表情はあくまで優しい。
「……わかんない。お前の好きにしていい」
「じゃ、ティー」
「へ?」
それは、子供のころの――オレがまだシプレとともにじい様に世話になってたころのあだ名だ。
「なんでおまえ、それ……」
「いろいろ話したんだよ、オレたち。
おまえらを消さないためにどうしたらいいのか、さ」
「オレたち??」
オレの味方、つったらシプレだけ、のような気がしたが。
「ああ。信じられないかもしんないが、今はみんなおまえの味方だよ。
まずオレとオレ。
あのあと、かんかんがくがくしてたらいきなり、オレのピアスが消えだしてな。
消滅する最後の瞬間、おまえの声が入った。
で、道端に泣いて転げてるおまえ見ちゃったらもうね……
ラサさんズのキモチは見事にくじけちゃったわけ。」
「マジ?」
オレ泣いてたのかよ。
「うんすっげかあいくv」
「だー!!」
ウソだぜったいウソだ。オレがかあいいワケがない。
「タイムくんはオレが育てたんだもん。かあいくないわけないぢゃんw」
またこいつは、こっちが恥ずくなることを。
「それはいーから先。」
「へいへい。
アトリエ出てからおまえ、クルスのケータイにメールしたろ。アレ見てクルスもほだされちまってさ。
とりあえず“あっちのお前”とおまえに『冬眠のクスリ』飲ませてさ。対策練ったの。
事情話したらオリバー教授と助手オットーも協力してくれた。
教授とクルスによると、おまえがヤバくなってるのは『“あっちのお前”が“過去のおまえ”とはかけ離れつつあって、なおかつ、おまえが過去――本来のホームグラウンドじゃないとこにいるから』だって結論になった。
だからとりあえずおまえをここに戻して。
んで、目が覚めたら、こいつを飲ませようってことになった」
ラサが取り出したのは見覚えのある白い小瓶。
「え?『ココロ写し薬』?
でも、こいつは……」
オレは結局、シプレからもらったそれを、ラサの部屋におきっぱにして使わなかったはず。つまりこれをのんでもオレはどうもならない、のでは。
「ああ、あれはダミー、つかシプレももひとつクスリ持っててさ。
こっそりおまえの髪の毛頂戴して、つけこんどいたんだと」
「マジ?」
シプレのやつ、工作員も真っ青だな。ホントにそれでも枢機卿サマか(笑)。
ラサはポケットを探るともうひとつ、色違いの小瓶を取り出した。こっちの色は赤。
「ただオレはこれもあずかってるけどさ、…
あっちのお前のココロをうつした『ココロ写し薬』。
両方のお前を残すため、両方飲んでもらうってことになった、けれど、…
おまえが嫌ならこいつはのまなくていい」
「なんで?」
「だってそりゃ……」
ラサは照れてアタマをかいて、オレに横顔を見せるような角度でベッドにとん、と腰掛けた。
「確かにおまえ、とんでもなかったよ。うんマジ。
でもさ、オレが育てたんだよ、おまえは。
あっちのお前じゃない、おまえこそが、オレにとってはお前なの。
別にあのイカレっぷりなおさなくったっていいんだ。オレに向かなきゃ。
呪いの指輪なしで一緒に暮らしてた、あのころのオレとおまえに戻れれば、オレはそれでいいんだよ。
オレは“あっちのお前”のクスリも飲んでくれって説得してくれ、そういわれた。だからこれは、ここまで一緒に動いてくれたほかのやつらを裏切る行為だ。それはわかってる。
でもおまえが望むんならオレは、あいつら裏切っておまえつれて逃げるよ。
あいつらのことも、あっちのお前も、オレはすきだ。
けど、オレにはおまえが一番なんだよ。
馬鹿かもしんないけどさ……」
「ラサはどうしたい?」
オレはもちろんそういった。
「オレ、またお前に暴力振るうかもしれない……
だってオレはもう、自分の意志を通すためのオプションに、暴力ってのがあるのを知ってしまってる。
お前はもう呪われてないからどこでもいける。けど、もし、お前がいなくなると分かってしまったときに、オレはまた暴力に訴えるかもしれない。
そんなくらいならあっちのオレのココロだけ飲んで、牙を抜いてしまったほうがいいかもしれない。
シプレからもう聞いてるよな、オレが聞いた予言の話。お前を行くなってひきとめると永遠にお前を失う、てやつ。
だから、お前がいなくなったら嫌だけど、その予言があって、指輪がもうない以上、そうなったときにお前を引き止める手段がほかにない。
でも暴力なんて嫌だろ。オレだってもう嫌だ。だからお前がそうしてくれっていうなら、オレはあいつのココロを飲むよ。お前がしたいようにオレはしたい。今までとは逆にオレが使い魔になれってなら、それでもいい」
「じゃ、両方飲んどくか。
もし、なんてのは絶対ないけど、おまえが不安だってならそうしとこう。
でもな、殴りたくなったら殴って構わないぜ?
俺の方が悪かったら反省するし、そう思わなかったら殴り返すから。
ただそれは最終手段。かつ、互いに手加減アリでいこうな。殴ったほうも殴られたほうもやっぱ痛いからさ」
ラサはいつかのような、屈託のない笑顔でオレに手を差し出した。
オレはもちろん、それをしっかりと握った。