昔、妹に心理テストをやられた。
助けてと言われたら俺は助ける正義感の強い人らしい。
出航前にもらった妹の手紙に、そんな事が書いてあった。
俺は甲板から自分の部屋に戻っていた
キニト国を出てから、一週間もここに住んでいたのだから、少し感慨深い。
不意に、ノックの音がした。
「あいているよ。」
ドアが開くと、ギコが神妙な顔を覗かせた。
「フサ、ちょっと話がある。俺の部屋まできてくれ。」
「わかった。」
俺は荷造り途中のトランクをそのままに、ギコの後を追った。
「しかし、便利になったもんだな。」
ギコが歩きながらそう言った。
「何が?」
何に対してか分からなかったので、つい聞き返した。
返事を聞く前に、ギコの部屋にたどり着いた。
「・・・船さ。」
ギコはそういうと、部屋の扉を開けた。
扉の向こうは、殺風景だった。
何もない。といえば言いすぎだが、
備え付けの椅子と、ベッドと、机だけだった。
机の上にあるのは、航海日誌か?日記か?
ともかく、どこかの無口なアニメキャラの部屋みたいだった。
「かけてくれ。」
ギコはそう促した。
しばらく沈黙が続く。
「あ、あぁ!船な!確かに今までは『小さい船』しかなかったものな!」
俺はとっさにさっきの話を持ち出した。
なぜか空気が重い。この空気には耐えられなかった。
「それだよ。なぜ船は今まであったのに、でかい船は無かった?」
ギコは睨みつけるように話だした。
確かに俺を見ていたが、その目は違う何かを見ていた。
「さっき絶対領域を超えた。」
「そうだろうな。」
・・・絶対領域、ニイト国とブンゲ国の間に位置する空間。
今まで軍艦のような船はそこを越えられなかった。
正確には、沈む。
まるで『浮力がなくなった』かのように・・・。
だから小さい船の外交は出来ても、絶対領域を超えるような大規模な航海は不可能だった・・・。
逆に言えば・・・
「・・・絶対領域を超えなければ、船の行き来は出来た・・・。」
「ああ、あまりに狭い範囲だったため誰も軍事に活用しようとは、いや、出来なかった。」
ギコが続ける。
「だが、浮力のAAが破壊された途端、絶対領域は無くなった。」
そして戦争が激化・・・か。
「でも、なぜ今そんな話を?」
過ぎた事はしょうがない、原因を突き止めても何もかえって来ない。
だが、ギコの言葉はこの先に通じる言葉だった。
「あの『浮力のAA』は本当に『浮力』だったのか?」
・・・浮力・・・じゃない?
もっと別のなにかか?
「仮に浮力だったとしても、なぜ範囲があった・・・?」
「ただの偶然のが高いが・・・でも、俺はなにか関係があるんじゃないかと思う。」
「ちょ、ちょっと待て!」
俺の制止を振り切ってギコはしゃべり続ける。
「それに、AAは殆ど軍事に適用されるものだ。『ブーン』も・・・、更に言えば・・・これからのAAも!!」
そこまで一気にまくし立てると、ギコはふーっと、ため息を吐き、座り込んだ。
「どうしたんだ一体・・・」
ギコにしては珍しい焦り様だった。
とにかく、話を終わらせる事にした。
「まぁ、もし破壊すれば、空を飛ぶだけじゃすまないってかもしれないって事か・・・」
「だが、まずは発見が先だろ?まだ何も分かってない。俺達は言われた事をやろう。」
そう言って、俺は立ち上がって肩を落としているギコに目をやった。
しばらくして、ギコは急にこう言った。
「悪い、荷造りする。」
「・・・ン・・」
ギコが何かつぶやいた。
「・・・なんていった?」
「何も言ってない。さぁ俺のエロ本とかを見られたら困るんだ、出て行ってくれ。」
ギコは俺を追い出すと、トビラを勢い良く閉めた。
「あ、あぁ・・・分かった。邪魔したな。」
俺はトビラの向こうにそう言った。
ツン?確かそう聞こえた。
人の名前だろうか・・・
ギコのそのつぶやきは、どこか助けを求めてたような気がした・・・。
助けてと言われたら助ける
でも、言われなかったら?
きっと俺は気づけないんじゃないかと思う。