『モドコとかよ子』 作:神ノ裂
人は戦いに明け暮れていた。
世界は 東国軍、西国軍、中立国家、と
3つに割れ、三つ巴の戦いは血と涙と悲鳴を世界にあふれさせていた。
主な戦力は機械と魔法そして『ドラゴン』ドラゴンを機械と魔法で洗脳して軍事力として使っているのである。もちろん人間より古い歴史を持つドラゴンにも社会はあり、現在問題になっている。
-中立国家 キズタヨシ-
照りつける太陽の日差しの下にはにぎやかな人通り、今日は休暇をもらってショッピングです。私の名前は「キス モドコ」19歳、早めの就職をして社会人ライフを楽しんで・・・
「モドコちゃーん、今日はニラが安すぎて困るくらいよーー!」
「ありがとーおばちゃーん!今行くわー!」
オホン、ええと・・そう就職をして、かよ子さんと仲良くなって・・
「モドコちゃん!、かぼちゃが爆発するくらい安いよ!」
・・・・・っち
「え!ありがとう、おじさん!ちょっとまってて!」
んふん!気を取り直して、ええと・・そう就職をして
「隊長!たいちょーう!」
パタパタと人ごみを掻き分けて走ってくる軍服の男性、階級は中尉、年上の部下。
そう、私の就職先は、国防軍です・・・こいつめ・・・
「で、なんでしょうか?中尉殿。」
「あ、いや休暇中失礼します。国防総司令官殿からお呼びがかかりまして。至急本部へ来いとの事です。」
「はいはい、わかりましたよ。いけばいいんでしょう・・・せっかくの休暇なのに・・」
「モドコちゃん!これもっていって!」
八百屋のおばちゃんがりんごのダンボールをぶん投げてきた
どがしゃあああああ!
中尉に直撃・・見てるこっちがいたひ・・
「おばちゃん!いくらー?」
「いいのよ!かよ子さんにもあげるんだよ、いつもがんばってくれてありがとうねー!」
「ありがとう、おばちゃん!おじさんもまた今度、ごめんねー」
りんご何十個も入ったダンボールをここまでぶん投げるおばちゃんの腕力、中尉の容態、気になるようなことはたくさんあるが、ここは早足で本部に向かうことにする。
ガチャリ
重い古びたドアのドアノブを開ける
大きな椅子に座っている威厳に経験を感じさせる風貌・・とでも言うのだろうか、だが決して厳しさは見せない端正な顔立ちと振る舞い、その両目が私の方に向けられると彼の唇が開く
「モドコ隊長殿、休暇中まことに申し訳ない。話したいことがあってね」
そのハスキーボイスに丁寧に誤られると怒りもどこかに行ってしまった。
「あ、いえ。ご用件は、総司令官殿」
総司令官が部屋の後ろにある窓から外を見ながら話を始める
「この国は現在、中立国家となっているが東西軍から戦闘を仕掛けられている。なぜだかわかるかな?もっとも中立国家とは本来、戦争に関与しない国として認められたものなのに、だ。」
学校で習った通り、かかとをつけ40度の角度でひじをまげ敬礼をする。
「は、わが国は中立国家と認められたあとに天然資源が豊富な土地であることがわかりました。それのため長い戦争で消耗している両国がわが国の資源に目をつけているからであります。」
これも学校で習った通り、何度も暗記した。
「ん、その通りだ。侵略は受けているが天然資源が豊富が故、魔力壁に欠かせないオリハルコンをふんだんに使うことができ、防衛力は高い。だが国民の数も少ない我が国は白兵戦に弱いのだ。」
「は、それを補うのが我がドラゴン地空隊であります。」
「あなたとかよ子さんにはいつも世話になりますね。」
「いえ、部下と協力してくれているドラゴンのおかげであります。」
私の国はドラゴンの集落との交流がある珍しい国で、実際はドラゴンの集落を襲い拉致して洗脳するというのが主流な中、和平交渉という形で軍事協力をしてもらいドラゴン部隊はそこから協力をしてもらっている、集落との交流ができたのは私のおかげであるらしく、その功績を認められ入隊したての私が隊長を勤めていた。その話はまた後で・・
「ドラゴンたちには本当に感謝している、だからだ国民の生活を保障させてくれると言う条件を出し、天然資源を引渡しどちらかの軍に加入しようと思っている。和平交渉だから良い戦争。そんなことはありえないのだ、私はなるべく国民を戦火に巻き込ませたくない。」
総司令官は戦いが嫌いだから軍に入った、という話は軍に入ってから耳にたこができるくらい聞いた、朝礼、集会、お昼の放送、ラジオのゲスト、寝言、鼻歌、自費出版『総司令官の歌』。口癖のように言っていたし、自分の誇りなのだろう。その司令官から戦争に参加するという言葉は最初は信じることができなかった。
「・・・・・いいのですか?」
「天然資源をすべて掘り返されたらこの国の価値はなくなるし、どちらかの正規軍が国防に徹してくれる。国としての価値はなくなるだろうが国民は安心できるのではないかと考えたのだ。価値のなくなった山だらけの国は侵略の対象にはされにくいからな。そうすれば自動的に最小限の国防費で助かるし、ドラゴンたちのも集落に帰ってもらうことができる。」
総司令官の考えを否定することはできなかった。ドラゴンのため、というのもよくわかるし、私もいつかはそうなることがわかっていたのかもしれない。ただ黙り込む。私の答えの選択肢はこれだけだった。納得できない私に総司令官は一言。
「国は人なのだ。」
ウィーム
自動ドアから外に出る。要するに総司令官が私を呼んだ理由は交渉の間、よりいっそう国防に勤めてくれ、というものだった。かよ子さんもこの暖かさに満ちた国、人が好きだといってくれた、だからかよ子さんは自分の地位を使って自分の集落の若いドラゴンたちに協力を要請した。かよ子さんの気持ちを裏切るのかもしれないけど・・それがいちばんなのかもしれないな・・・
私は八百屋のおばちゃんからもらったダンボールを持ち上げ・・・・重い・・おばちゃんなんて腕力・・
それを持ち上げ、かよ子さんにあげるために空を見上げる
「かよ子さーーーん!お話があるんだけど!これは八百屋さんからもらったりんごよ!どうぞって!」
ぐるうぅろおおおおおお
空からうなり声が聞こえる、私の周りは影となり風が吹き荒れる、そして大きな地響きをたて体長50mほどもあるようなドラゴンが空から降ってくる。
「けほけほ・・・はい、かよ子さん先週はありがとう!これ、りんごよ!」
おおきなドラゴンは笑ったように目を細め、私が魔力で持ち上げ口の中に入れたりんごをおいしそうに飲み込む。
「ぐるるう」
「おいしい?よかった!」
私が軍学校に入ったばっかりのとき演習で山にサバイバルを行った。私は身体能力は低かったし入りたてで魔法もろくにできなかった、おかげですぐに遭難死ぬかと思ったわ・・本当に・・迷った私は人がドラゴンの集落に入りにくいように魔力で迷路されている獣道を、たまたま完璧に進んで集落に来てしまった。もちろんそのころからドラゴンが拉致され洗脳されていることはドラゴンの社会の中でも問題になっていたらしく私はものすごい目で大歓迎された。
『おいおい、なんだこいつ』
『後ろにどでかい軍隊つれてるんじゃないだろうな・・』
しかし、おたおた感たっぷり、即失禁の私をみて私はドラゴンたちに心配されてしまったのだ・・・そこから私はなぜか仲良くなってしまった。卒業まで何度も何度も来たし、魔法も教えてもらった。最初はドラゴン語からだったけど・・・あれが一番大変だったな・・
卒業の時、私の夢、暖かい国、人たちを守れるような人になりたい、何に変えても。私一人じゃどこまでできるかわからないけど・・ここでの経験はきっと無駄にしない。というと夢を語るとドラゴンたちは協力をしてくれるというのだった、もちろん私は断ったがどうしてもというので軍のお偉いさん方を呼びドラゴンとの交渉の後、正式にドラゴン地空隊の設立に繋がった。私しかそのときはドラゴンの経験者がいなかったわけで私は自動的に隊長となった。
そこで一番仲良くなった『カヨンステ・コロナウス』という名前のドラゴン・・かなり人間語の発音に近づけているけど。呼びにくいから略して『かよ子』彼は私のパートナーになってくれるといった。その集落で最も強く、人がよく・・ん、ドラゴンがよく!平和を愛する!・・・・んー説明口調になっちゃったけど
要約は、お前気に入ったぜ!お前の国も守ってやんよ!って事です。
これが私と男なのに『かよ子』さんとの出会いだった。
かよ子さんは周りの木々、建物を気にしながらゆっくりと腰を下ろす
「かよ子さん。よく聞いて」
私はいきさつをすべて話した。かよ子さんはうなずくように瞬きをする。私は涙がこぼれ出すのを必死にこらえながらポツリポツリと話す。なぜなら軍国になるのだからドラゴンがいたままでは洗脳され軍事力として利用されてしまう恐れがあるし、集落との関係を知られれば利用されることは間違いない、拒んだりしたら軍事会議ものである。
中立国家の消滅はドラゴンたちとの別れに繋がっているのである。
かよ子さんと離れるのがつらかったし、自分の力が国のためにならなくなるのも嫌だった、こらえていた涙はあふれてくるばかり。
ぐるるぅ
かよ子さんが言う、
それが国の幸せなのだろう?君の仕事は国の安全、私たちが仲良くなることではない。君たちの幸せに繋がるのなら涙を流さずに笑顔で別れを言うべきだ、わたしも、君たちも。
涙は私の言うことを聞かずに重力に引き寄せられ本部の芝生の上に落ちてゆく
だが戦争というものは笑顔の別れも許さないほどの影響を持つ
うぅううぅうううううううぅ
官制塔の警戒サイレン、侵略である。それがなると同時に私の通信機もやかましい電子音を出す。
「はい、ドラゴン地空隊隊長 モドコ大佐であります。どうぞ。」
『はいこちら官制塔塔長。侵略であります、至急各部隊への命令を・・』
「あせらないで、最初は状況報告のはずよ、どうぞ」
『・・!は!すいません、敵戦力は・・・100m級艦5隻からなる敵の主戦力であります。数は約400。軍種は西国軍、今日侵略しきるのではないかと思います。どうぞ』
「地上部隊は防衛にまわれ、入り口付近に固めること。空中部隊は出撃位置にて待機、私とかよ子さんが行くまで待機を命じるが状況に応じては臨機応変に対応すること。魔法壁の出力は最大に・・・・」
私は震えを抑えながら指令を出す。今までは、敵艦は多くても100m級艦などは出てこなかったしここからでも大きな影郡は肉眼で確認できるほどだった、私は始めて戦火が国民に届いてしまうのではないかと心配になる気持ちを抑えきれなかった。郡で死人が出ていなかったわけではなかったが国民に死人はまだ出ていなかった。
どうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・
ぐるおおおおおおおおおおおおう
かよ子さんは私の体を魔力で持ち上げ、自分の首あたりにのっけてくれる。大きな翼をやさしく羽ばたかせ舞い上がり魔法壁の向こうに見える黒い陰のほうを向く。下には避難を呼びかける警報、人の流れ。命の山。
るううううううううう
低く大きく優しい声でかよ子さんは私に言う
さぁいこう、これで終わらせよう。
私はうなずき自分の周りに魔力壁を展開させ、かよ子さんには攻撃力と防御力を強化させる呪文を紡ぐ。
「官制塔、空中部隊に連絡、全翼かく乱に徹すること。かよ子さんで敵主力を破壊の後、全翼にて撤退まで攻撃を加える。敵コックピット、敵ドラゴン使いは直接狙うのはなるべく避けること。」
『は!了解しました。』
私は大きく息を吸い、吐く。そしてかよ子さんに言う。
「ありがとう、ごめんね、さぁいこう」
かよ子は風を置き去りにした。
ドガァアァ!ドゴオオオオ!
魔力壁は心配なさそうだと、感覚で答えを出し主力艦隊に攻撃を仕掛けるために私は弾の雨の中突っ込んでゆく。
「魔力壁は最大出力を維持するわ!かよ子さん右方向の50m艦隊の右翼破壊の後、陰に隠れて後ろの主力100m艦のエンジンを破壊」
ぐるううううおおおおおおおおお
雄たけびと同時にかよ子さんの口から光線が放たれる。戦いは死と常に隣りあわせだった。私たちが頼みの綱だからと敵の主砲である高速レールガンの弾に体当たりし肉壁となる仲間たちをよく見かける。つらかった、涙を流したかった。逃げ出したかった。それでも私は呪文を紡ぐ唇を休ませることなく、かよ子さんは翼をたたませることなく仲間の屍を踏み台にして敵の艦隊を沈めてゆく。
『現状報告、我が空中部隊は約半数墜落、魔力壁約2時間ほど持ちます。地上戦闘はまだ行われていません。どうぞ』
「国民の避難率は!?どうぞ!」
『9割を超えています。安心して戦ってください。』
「わかったわ!以上!」
被害は少なくなかったが思い通りに戦いは進んでいた。敵100m艦3隻目を破壊し、その陰に隠れようとしたとき、
ズドオオオオオオオオオオン
ドドドドオオオオ
3隻目は右翼を破壊したためによる飛行能力低下で墜落していたのだから爆発はしないはずだった。しかし西国軍はまだ仲間が乗っている墜落しかけた艦の向こう側からレールガンを放ってくる。かよ子さんは直撃はしなかったが破片で翼や体に傷を負い、滑り込むように地上の自軍の待機場所の上に落ちた。私は魔力壁を全力で張ったが敵艦隊のレールガンを受け止めるほどの出力は人の魔力では作れなかった。1発の砲撃で簡単にも破られる。かよ子さんも翼を羽ばたかせるがすぐに舞い上がることはできずに、敵レールガンの砲塔が私たちを狙う。
だめか・・私とかよ子さんは思った。
そのとき敵100m艦のコックピットに中型の黄色いバンダナを首にしたドラゴンが突っ込んでゆく。
「キエーセ!」
集落の若いドラゴンであった。私も仲が良かったし彼は子供のころ人間に助けられたことがあったと話してくれた。生まれて間もないとき親からはぐれ谷底へ落ち翼も折れて死に掛けていたとき、ここの国の人に助けてもらったんだと笑いながら言っていた。恩返しをしたいといっていた。
「死ぬことは恩返しじゃないわ・・・」
レールガンを最大出力で放とうと魔力壁は展開していなかったが故、100m艦は特攻を許し操作を失った艦はゆっくりと落ちてゆく。あと一隻。だがかよ子さんも軽症じゃなかったし。敵の中型の艦隊もまだまだ残っている。あとは持久戦に持ち込まれれば終わりだった。敵艦隊はもう動けない私たちを無視し空中部隊の殲滅を優先していた。
魔力もそこをつきかけていた私はゆっくりと瞼を閉じた。
「私。だめだったね。」
かよ子さんは答えない。翼を羽ばたかせようとする。飛ぼうとする。私をかばいながら。
「かよ子さん・・もういいの・・だめだったの、ドラゴンたちに言って、逃げてって・・・人間たちの問題だからもういいの・・・私たちで何とかするから、だから」
かよ子さんは口をあける。艦隊の破片で折れた翼を羽ばたかせて飛ぼうとしながら、
ぐるうううぅ
なんであきらめてしまうだ、向こうに見える命の山が見えなかったのか、国は人だとお偉いさんも言っていただろう。あきらめるな。
私はみんなの笑顔が頭に浮かんだ
「きいてたんだね」
かよ子さんはうなずくように瞬きをする。
モドコは腰につけていた小ぶりな短剣を取り出す
「わかったわ、」
それを聞いたのと同時にかよ子さんは首元に暖かいものを感じる、すると怪我も治り始め翼の骨もくっつき始めた。かよ子さんはこっちの様子を確認しようとする。
「いいの、もう魔力壁は作れないけど。私あきらめなかったわ、これが私のオリジナルの呪文、いつもドラゴンたちには頼ってばっかりだったけど・・」
かよ子はここから聞き取れなかったモドコの口からは音は出ているがもう言葉ではなかった。液体が口の中にあふれているんだろう。音から確認できた。
かよ子は気づいた、そして涙を流し親愛なる者の血で固めた翼を羽ばたかせる。
敵の雨のような砲撃を食らってもかよ子は地に落ちず空を飛ぶ。
そして地に落ちたときは空には影ひとつなく地面にはただただ鉄の塊が粉々になって飛び散っているだけだった。
かよ子は自軍の待機場所に落ちた。そして血に染まったモドコをふわりと魔力で持ち上げ、自分と寄り添わせるように地上にそっと降ろす。
生き残ったドラゴン部隊たちがモドコとかよ子を助けにきたが、そこには微笑でいるようにみえる血に染まった2人が寄り添っているだけだった。
★★★