「一枚絵文章化企画」会場
「エロフィギュアを落札したら出品者が親父だった」作:宮崎早起き
ヤフオクで掘り出し物を見つけるには、己の趣味に関するキーワードで定期的に検索する事だ。
俺の場合そのキーワードは、「RONALDO」「フィギュア」「魔改造」の3つである。
そして今日俺は、この3つのキーワード全てが入った、まさに俺のためとすら思える出品物を発見した。
「★破滅グリセリン★RONALDO-ロナウド- 六千院りゃりゃりゃ★魔改造フィギュア★」
★★★商品説明★★★
RONALDO-ロナウド-より「六千院りゃりゃりゃ」
正規GK使用 完成自作品です
1/7スケール
メーカー:アナルショップ
スカートは取り外し可
WF2009で出品したガレージキットを、自ら魔改造してみました!
初めての魔改造でしたが、正規品と比べても遜色ない出来かと思います。
たくさんのご入札お待ちしております!
知ってる人は、出品名を見ただけで震えが止まらないだろう。
破滅グリセリン、通称ハメグリさんといえば、毎年ワンフェス会場を騒然とさせる天才原型師である。
そのハメグリさんが、最新作を自ら魔改造したというのだから一大事だ。
題材もすごい。
神泣きゲー『RONALDO-ロナウド-』の六千院りゃりゃりゃ、通称りゃーりゃんだ。
「RONALDOはサッカー」というキャッチフレーズはあまりにも有名で、中身も文句無しの大傑作である。
実を言うとりゃーりゃんは、原作発売当初はさほど人気ではなかった。
しかし最近放送されたアニメで日の目を浴び、PS2での移植で新たに書き下ろされた神がかった新シナリオで、一躍超人気キャラとなったのである。
つい最近人気に火が付いたばかりだというのに、前々から彼女のフィギュアを製作していたあたり、さすがハメグリさんとしか言いようがない。
さらに特筆すべきはこの魔改造っぷり。
正規品では箒にまたがり飛んでいるデザインだったのだが、魔改造版は敵の魔法により左手が床と繋がっており、身動きが取れなくなっているのだ。
なんと想像力を膨らませるデザインだろうか。
写真を見ただけでもよだれとカウパー液が止まらない。
そんなものすごい一品が、そう易々と落札できるわけがなかった。
現在の価格 : 82,000 円
残り時間 : 3 日間 (詳細な残り時間)
入札件数 : 172 (入札履歴)
さてどうしたものか。
終了3日前にして82kである。
終了間際には倍に膨れ上がっている事だろう。
これを落札するには相当な資金が必要だ。
果たして残り3日で、どれだけ金を集める事ができるだろうか……。
なんて引き延ばしたところで、俺が落札できた事は誰もが予想できてるだろうから、怒涛の入札大戦は割合する。
貯金が十分にあった、ただそれだけのことだ。
ちなみに落札額は32万5000円だった。
正直、「おめでとうございます!あなたが落札しました!」のページを見た時は、あーやっちまったなと思った。
しかし、改めて商品の写真を見ていたら、その後悔は吹き飛んだ。
この実物が、拘束されたりゃーりゃんが、あと数日で俺の元へやってくるのである。
なんだか興奮してきた。
納戸に閉まっておいたお気に入りフィギュアすら、モッコスと同程度に見えた。
ああ、こんなにも世界平和を祈ったことはない。
どうか商品が届くまでは、国内で戦争は起こらないでくれ。
火事も起こらないでくれ。
ていうか誰かシェルターを用意してくれ。
なんてアホな事を夢心地で考えていたが、まずは取引ナビでの連絡だ。
よくよく考えると、ハメグリさんと取引ができること自体、ファンとして大きな価値があった。
ワンフェスには何度か行ったことがあったが、ハメグリさんをお目にかかることはできなかった。
いやはや、まさかこんな形で接触するとは思わなかった。
なんだか緊張してきた。
俺はフィギュアのパンツを眺めながら連絡を待った。
そして、落札してから1時間24分32秒ほど経った頃である。
「連絡先、支払い、発送などについて 投稿者: hamegurin (87)」
来た。取引ナビへの投稿が。
俺は顔をにやけさせたままリンクをクリックした。
別窓で連絡要項が表示された。
「
初めまして、hamegurinこと載寧(さいねい)と申します。
このたびは、大変高額な価格で落札していただきまして、
本当にありがとうございました。
早速ですが取引に関しまして、下記の内容のご確認・
ご連絡を頂きたいと思います。折り返し、合計金額と
口座番号をお知らせいたします。
~~~~~(中略)~~~~~
では、ご連絡をお待ちしております。
お取引終了までどうぞよろしくお願いいたします。
〒198-XXXX
東京都文藝区荷野辺2-1-10
載寧実
TEL090-2110-XXXX
」
……まあ、予想はしていたが、いくら神原型師とはいえ、オークションユーザーとしては普通の人だった。
一般人である。当然である。常識人である。当然である。
であるはずなのに、俺は一瞬固まった。
俺は一度作業用BGMの音量を下げ、もう一度投稿内容を見た。
見覚えのある苗字だった。
ていうか俺と同じ苗字だった。
見覚えのある住所だった。
ていうか俺の家の住所だった。
見覚えのある名前だった。
ていうか俺の親父だった。
「うわっ……うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああめああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は発狂した。
声には出さなかったが、心の中で叫んだ。
布団に頭を潜り込ませ、足をバタバタした。
なんてこったい。
あのハメグリさんが……美少女フィギュア業界ではその名を知らぬ者はいないハメグリさんが……俺の親父だったのだ。
知人だったならまだしも、親父って何だ。
どんな確率だ。宝くじか。とんだハズレくじだ。
よくよく考えると俺は、親父の職業を知らなかった。
昔、母ちゃんが「お父さんは工場で働いてるんだよ」と言っていたが、工房の間違いじゃないだろうか。
そもそも母ちゃんはこの事を知っていたのだろうか。
……いや、今はその事はどうでもいい。
問題は、どうやって商品を手に入れるかだ。
諦めようなどとは思っちゃいない。
何としても手中に収めるつもりだ。
ただいまの時間は深夜1時。
投稿文によると、24時間以内に返信しないと、キャンセルされてしまうらしい。
とんだ『24』だ。
ジャック・バウアーも真っ青だ。
どうしたものか……。
とりあえず、住所・名前を知らせず荷物を受け取る方法を調べた。
だが、ヤフオクでは無理なようだった。
郵便局受け取りにするにしても、本名は必須らしい。
俺の名前は“載寧栗光源(さいねいぐりこうげん)”。
よくある名前とはとても言えない。
一発で気づかれるだろう。
自宅以外の場所に届けてもらうことも考えた。
友人に代わりに受け取ってもらう方法だ。
しかし、俺に友達はいなかった。
「○○駅のロッカーに入れておいてください」なんて怪しい事も言えまい。
俺は、チェスや将棋でいう「詰み」にはまったのだろうか……。
いっそ開き直って親父に凸するか。
いや駄目だ。俺は隠れオタなのだ。
そして親父も、自分の職を隠しているのだ。
間違いなく気まずくなるわ。
ひとっ風呂浴びて考えたが、やはり思いつかない。
本当にどうしようもないのだろうか?
こうなったら……助けてVIPえもん!
エロフィギュアを落札したら出品者が親父だった
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日)
しかも自作魔改造フィギュア・・・
どうすりゃいいんだ・・・
交友関係ゼロの俺には、VIPPERの力を借りるしかなかった。
しかし……。
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日)
ワロタwwwwwwwwww
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日)
バロスwwwwww
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日)
電車の中で吹かせんなww
予想はしていたが、大方ネタとして捉えられた。
違う。俺は大真面目だ。
これは緊急事態なのだ。
頼むから、誰かまともな意見をくれ。
それでも生え続ける草。
よくよく考えると、エロフィギュアを落札した事実を曝け出した事自体、結構恥ずかしかった。
何人かはマジレスしてくれたが、どれもすでに没にした案だった。
「オワタ……」
俺はブラウザを閉じようとした。
だがその時、か細い光が差し込んだ。
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日)
いい手がある
だがその前にその落札した商品のページうp
「いい手……だと……?」
信じていいか分からなかったが、もはや>>68にすがるしかなかった。
しかし、商品ページを教えたら、俺がハメグリさんの息子だとばれてしまう。
それでもネタとして捉える奴が大半だと思うが、危険じゃないだろうか。
「……いや、賭けてみるか。」
俺は商品ページのURLをコピーしようとした。
だが、りゃーりゃんの頬を赤らめた顔を見て、「ハッ」とした。
「待て、ひょっとしてこいつ、URL載せたら親父の、ハメグリさんのサイトに報告するんじゃないか?」
危ない。してやられるところだった。
これだからVIPPERは信用できん。
俺はどや顔でキーボードを叩いた。
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日)
特定されるから詳しくは言えんが、ロナウドのフィギュアだよ
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日)
>>75
チッ
どうやら罠にかからずにすんだらしい。
りゃーりゃんとは言わず、ロナウドのフィギュアと言ったのも考えてのことだ。
前述したが、りゃーりゃんのフィギュアはそれ自体希少である。
しかしロナウドのキャラとなると、多数出回っているのだ。
大丈夫、これで大丈夫だ。
そう思ったが、またしても俺は「ハッ」とした。
“魔改造”
俺は>>1で魔改造フィギュアと言ってしまっていた。
実は、日ごろこのキーワードで検索している俺くらいしか知らないだろうが、魔改造フィギュアは、あまり出品されていないのだ。
しかも最近の、それもロナウドのキャラとなると、なおさら数は減ってくる。
あの商品は話題性もあった。
まずい。特定されてしまうかもしれない。まずい。実にまずい。
しかし神のサイコロは、悪い目を出すどころか、粉々に砕け散った。
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日)
おま・・・ひょっとしてG・Sか?
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/06(日)
え・・・・・・・?
俺のイニシャルだった。
適当に書いて当たったとは思えない。
まさか、いやまさか……。
『ギィ……』
後ろでドアの開く音がした。
恐る恐る振り向くと、携帯を手にした親父がいた。
「栗光源……」
「ハメグリさん……」
あれから半年が経った。
俺は親父の工房で、フィギュア原型師の修行をしている。
親父のメーカーサークルに入ったわけではないし、名を借りるつもりもない。
いつか一流原型師となって、自作魔改造フィギュアを親父に買わせるのが、今の俺の夢だ。
フィギュア最高ッ!
<完>
★★★