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『青い龍 作:顎男』
海が、空に巻き上げられている。
青い水が渦を描いて登るその様は天を目指す龍のよう。
黄昏時。太陽が地平線の向こうに沈むその瞬間。
私は足を止めて、ただ、その幻想に見蕩れていた。
先ほどまで私の周囲で突然の大異変に蜂の巣を突いたような有様になっていた行商人たちのキャラバンは遙か遠くへ立ち去ってしまった。
まったくネズミも驚く逃げっぷりである。
少しでも距離を稼いで、生き延びよう、安全なところまでいこうということであろう。
だが、残念なことに金と違って増えればよい、というものではない。
だってこれは、世界の終わりだから。
この世が終わってしまうのに、ゼロになってしまうのに、いまさら何を増やそうというのか。
それよりもただ、吸い込まれていく風の上昇と共に、どこか遠くへ連れ去られてしまいそうなこの不安、焦燥、恐怖。
世界の終わりに直面できた最後の生命としての感動を、私は噛み締めよう。
潮の匂いに満ちた風が私の夕焼け色の髪を躍らせる。
鳥の群れが木々から羽ばたく。どこかで子どもが泣いている。
ああ、この気持ちはどこか懐かしい。
そう、幼い頃、私の貧しくみすぼらしい小屋に友達を呼んだ時。
あの子は今、どこにいるだろうか。
同じ空の下で、この渦潮を見ているのだろうか。
楽しく幸せな時間が終わり、あの子が帰っていったあの空も。
暖かくてとても寂しい、夕焼けだった。
胸の中に、淡い黄昏色の思い出を抱いて。
私はいつまでも、世界を終わらす青い龍を見上げていた。
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