Neetel Inside 文芸新都
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「一枚絵文章化企画」会場
「わたしはとりになったまる」作:紅鉄

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 赤だった。いや紅だった。
 気づけばそこにいて、気づかなければそこに居かったのかもしれない。
 しかし、気づいてしまった私はそれと対峙することとなっています。大変迷惑です。
 その紅色の変な黄色のを纏った変なの、仮に”変なの”と呼称します。私同様個性も自己主張も一切感じないなんともすばらしい名前だと思います。名は体を現す。その言葉通り変なのは変でした。ここは確かにジャングルでしたが草木一本生えていないビル街です。訂正、草なら生えているかもしれません。
 とにかく、変なののは自分がかくれんぼの天才だと思い込んでいるのか知りませんが、どこからか持ってきた私くらい朽ち果てた今私の横を怪訝な顔をして通り過ぎたナイスガイの髪と同じ枯葉色の葉っぱでその体を隠していました。
 確かに、こんなジャングルでは足元を見ることはないし、見てもおかしな風景と捉えられてしまうだけでしょう。そう考えるとなるほど、嘘を隠すなら虚の中ということでしょう。嘘っぱちのジャングルに嘘っぱちの木の葉。なるほど誰も意にとめないはずです。私の考えを訂正する必要性があるようです。変なのはなかなかに見所がある。
 しかしそんなかくれんぼの天才だというのにいただけないのは、その変なのから滴る赤い汁です。それが塗料や自己発光でないことは分かっているので、せっかくの迷彩が台無しだなと少し残念に思います。
「いてっ」
 目の前で先ほど私をおかしなものを見る目で見ていたナイスガイが転んでいました。
「ざまあみろです」
 おっと、声に出てしまいました。
 依然変なのはうじゅるうじゅると何だが奇怪な音を出しながら地面を這っています。もしかしたらこれはナメクジの親戚かもしれません。と、なると雌雄同体で勝手に自分で増えていくのかもしれません。
「気持ち悪そう」
 ちょっとした寒気を覚えました。まるで背中に突然氷を放り込まれたかのようです。無論、私にそんなことをしてくる人はもう居ませんし、これからも多分出来ないでしょう。何せ私の名前が読(よみ)なのです。あだ名はドク。変換してしまえば独。実にすばらしい。
 初めは名前の通り独りで読書に没頭していたのですが、どうもクラスメイトはそれが面白くなかったようで私にかまってくれる様になりました。私は別段独りじゃないと死んでしまうとかそういうのではないので仕方なく付き合って差し上げました。友達はたくさん居ました。それこそきっとどこかの物置ではつぶれてしまうかもしれないほど大勢。
 旧友達は事あるごとに私のスキンシップを求め、私の体には痣が絶えませんでした。
 ある日、私が旧友との会話(といっても成立のしないキャッチボールでしたが)をしていると、何を思ったのか髪の毛を受信状況のいいアンテナバリに立てた旧友の一人が「お前は鳥だ」なんて言ってくれましたので、私は喜んで空を飛び回る鳥へとなりました。
 しかし残念なことに私は動物界・脊索動物門・脊椎動物亜門・哺乳綱・サル目(霊長目)・真猿亜目・狭鼻下目・ヒト上科・ヒト科・ヒト属・ヒト種。要するに人間だったのでファーストキスを地面に奪われることとなってしまったのですまる。
 私を鳥と勘違いさせてくれた旧友はそれこそ潮が引いたかのように顔の色を変化させると、私に目もくれず一目散でお家にご帰宅なされました。
 とても、寒かったです。のどが渇くし、お腹もすくし、視界もカラーセロハンでも被せたのかと言うくらい真っ赤でしたし、頭が割れるように痛く、私の体は三節昆のようにぐにゃりと愉快な方向に曲がっていました。
「気分はいかがでしょうか?」
「な、何なんだよ、痛てぇよ、痛てぇ」
 せっかく助けてあげようと心優しい私が声をかけたというのに、ナイスガイは真っ赤に染まった太ももを押さえ、涙で頬をぬらして私にかまってくれませんでした。
「お久しぶりですね」
「畜生、これじゃまるであいつ等と一緒じゃねぇか。俺が何したってんだよ」
 だめです。言葉が通じません。
「ぐっ」
 仕方がないので私はナイスガイの肩をたたきました。
「な、なんだコイツ」
 今度はしっかり気づいてくれたようで、朱に染まり始めた方を押えながら私のほうを向いてくれます。
「気分はどうですか? お久しぶりです」
「く、くるなよ気持ち悪い」
 まったく、ひどい言われようです。こんな美人に気持ち悪いだなんて一体どういった教育を受けてきたのか疑問に思います。と、言っても途中までは私も一緒だったのであまりでかい口はたたけません。
「ふふふ」
 つい笑ってしまいました。
「なんだよ、俺が何したって言うんだよ」
 この人はあれでしょうか、壊れたレコードか何かなのでしょうか? 同じような台詞ばかり言って面白くありません。
「いっ」
 しかし、それも仕方ありません。
「やめっ」
 これまでもそうだったように、私にかかわった人はみな最後にはこう言うのです。
「死にたくないよう」
「死にたくないよう」
 うじゅる、と音にならない私の声と男の声が重なりました。
 そのご、おとこはしにました。むかしのともだちはみんな きえてしまった。わたし が たたいたら。
 名前のとうり独りになった私は、紅の体を引きずり悪意というなの金の卵に戻るまる。
 
 

       

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