Neetel Inside 文芸新都
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「一枚絵文章化企画」会場
「夏の道」作:顎男

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☆☆☆

『夏の道 作者:顎男』

「さて問題です。これから世界はどっちへいくでしょう?」
 と目の前の少女はそう言った。
 左手の道には錆びた戦車。右手の道は、道路が伸びて緑色の丘陵へと続いている。
「どっちへいくかって聞かれても」僕は頭をかいた。
「僕は地元の人間じゃない」
 そりゃそうだろうね、と少女は笑った。
「ここには私しか住んでいないもの」
「なんだいそりゃ。じゃあ君しか知らないだろう。教えてほしいのは僕の方だ」
 そもそも僕は、なぜこんなところにいるのかが分からない。
 記憶がない。けれど不思議と不安にはならなかった。なくて当然、そんな気がした。
「ううん、あなたに答えてもらうしかないの」
「そうなのか」と僕は納得する。
 この場を支配しているのは彼女であり、僕は言わばワトソン役に過ぎない。それが実感として自然と湧いてくる。
 問題は、ホームズがワトソンに謎を丸投げしてやがることだ。
「世界って君は言ったね」
「うん。ザ・ワールド。地球」と女の人は楽しそうに言う。
「左へいくとどうなるんだい」
 少女は口元に指を当てて空を見上げた。まるで青い空に答えが書いてあるかのように。
「戦車見てわかんない? 戦争が起きて、みんな死んで、人間はいなくなるの。
 でもその代わり、小さな動植物だけが生き残って楽園が訪れるのよ」
「宗教ならお断りだ。僕は神様は信じない」
 え、と少女が目を丸くした。
「私がその神様なんだけど」
「……」
「……」
「その話は、まあ置いておこう」
 僕は仕切りなおした。我ながら空気の読めるやつだ。
「じゃあ右は?」
「機械文明を捨てて、自然に帰るの。
 まあ、今の人間たちが言うところの『人間らしさ』とか『文化』はなくなるけど、でもまぁ生きてはいけるね。
 ただ、向こうにいる人間を、あなたが人間だと思うかどうかは別問題だけど」
「なるほど。つまり、爪とか牙とかが伸びちゃってる世界か」
「羽も生えるかもよ」と少女は両手をパタパタ振った。
 空は飛んでみたいが、僕はハト胸になるのはごめんだ。
「で、どうする?」少女が僕の顔を下から覗きこんでくる。
「どっちがいいでしょう」
「なぜ僕に聞くんだ」
「たまたまです」少女はけろりとしている。
「いい加減な神様だな」と僕は呆れる。
「神様だからいい加減なんだよ。
 知ってる? 時代時代の節目にね、私はいつもテキトーな人を選んで、その人に世界の行く末を決めてもらってたの。
 だからアメリカ人とかさ、オウマイゴッドとか言うけど、私なんにもしてないんだよね」
「ニートじゃないか」神をからかうという暴挙に僕は出た。「働きたまえよ」
「私は雇い主だからいーの。働くのはキーミー。さ、選んで選んで。どっちがいい?」
 僕は考えた。どうやら自分の言葉ひとつで世界の方向性を決定できるらしい。
 右か左か、つまるところ人間はいるかいらないか、ということだ。
 僕も人間だが、さりとて自分の種族に恩義があるわけではない。
 むしろ拷問や殺人という概念を持つ我が種族は滅びるべきでは、と素人考えに思ったこともある。
 ふむ。
 ま、答えは一つしかあるまい。
「決まった?」
 僕は少女に頷いて、振り返った。
「うちに帰る」
 来た道を戻れば、家があるのが道理である。
 幼い神様に手を振り返しながら、僕は夏の道を歩き始めた。

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